『失踪日記2 アル中病棟』を語る 吾妻ひでお とり・みき 『失踪日記2 アル中病棟』を語る 衝撃的な内容と、それに反した飄々とした筆致で数々の賞を総ナメにした『失踪日記』。
その刊行後から執筆すること8年めにして、ついに続編『失踪日記2 アル中病棟』が完成しました。
それに際して著者吾妻ひでお氏と、旧知の間柄であるとり・みき氏の対談が行われました。
今回はマトグロッソ用に、ネタバレ無しのショートバージョンを掲載します。
(完全版は『失踪日記2 アル中病棟』でご覧ください)
30万部ベストセラー『失踪日記』から8年をかけて執筆された、
失踪後の顛末を描く続編『失踪日記2 アル中病棟』──
感銘を受けたとり・みき氏が、著者の吾妻ひでお氏に迫ります。


笑いを強制しない笑いが好き

とり やっぱり早く退院したいと思われてましたか。

吾妻 最初の1ヵ月くらいはそうだったんだけど、あとはもう「このままでもいいかな」って。だんだん楽しくなってきて(笑)。お酒も呑まないように見張ってくれてるから。退院後のほうが自由なんだけど、逆にそれが怖かったね。

とり 呑まない秘訣ってなんなんでしょう。

吾妻 皆言ってることだけど、あんまり先のことを考えないで、展望を持たないってことかな。今日一日が楽しければいい。酒呑まないと朝の目覚めもいいですからね。メシもうまいし。

とり 終盤の「体験発表」で、いちいちギャグを考えてるのが面白くって。考えなくていいのに。



吾妻 だって人数がいるなら、笑わせないと(笑)。今もトークショーなんかだと、ネタをすごい作っていくんだけど......こないだ書店でやった時は、司会者が進行通りやってくれなくって、おれのネタが全然炸裂しなかった。

とり 用意してたんですね。

吾妻 こっちはすっごい段取りしてた(笑)。

とり でもあのあと、お嬢さん(長女)は「今日は良かった」ってOK出してたじゃないですか。

吾妻 笑いにうるさいからね。毎日のようにお笑いのライブに行ってるから。

とり 吾妻さんご自身も作中で「芸人志望だった」って言われてますね。

吾妻 中学校の頃に、落語家になりたくて。ずっとラジオで落語を聴いてた。(三遊亭)金馬さんの時代で。漫才師にもなりたかったし。『シャボン玉ホリデー』とか、あと『ルーシー・ショー』みたいなアメリカのコメディも好きだった。

とり それはマンガを描く前から。

吾妻 そういう、笑いを強制しない笑いにすごい影響を受けて。SFもそうなんですけどね。SFのギャグっていうのも、フレドリック・ブラウンなんかボケるだけボケてつっこまないでしょう。

とり つっこむのは読者にゆだねて。そうすると「どこが面白いのかわからない」って言われるんですよ。

吾妻 そうそう(笑)。とりくんは落語研究会だったでしょ?

とり そうです。上京して、人間が変えられると思って......変えられるわけがない(笑)。テクニックとして、演技で社交的に振る舞えるようにはなりましたけどね。

吾妻 それまでは非社交的だったの。

とり 全然人見知りですよ。今でもお芝居とか見に行っても、楽屋にあいさつに行けなかったり。知り合いなのに。




マンガによって救われてる

とり さっきも話しましたけど、『アル中病棟』はやっぱり、あらゆる人の人生が等価に描かれているのがいいんですよね......。お話に大きな感動を求める人にはそこが物足りない部分かもしれないけど、この達観や諦観が自分にとってはむしろ感動的で。あと単純に、知らないことばかり描かれてますしね。普通の人があんまり行かない所の話ですから。

吾妻 少しでもアル中病棟の面白さが表現できれば、と思って。

とり 中の様子や体験を仔細に描かれてる。境界まで行って戻ってきて冷静に描写されてますから。しかもハウツー本みたいにも読めますし。これから入る人や、入れる人にとっても、どういう所か全然わかんないとやっぱり怖いですからね。

吾妻 相当自由な、「アル中の合宿所」みたいな所なんですよね。だから普通の病院とはちょっと違う。

とり それがちょっと意外でした。もっとみんな拘束されたりしているのかと。

吾妻 自分で出たいと思ったら出られるんですよ。そこも強調しておきたいところで。



とり さて8年でようやく本ができたわけですけど、感慨みたいなものはありますか。

吾妻 うーん......。描き終わったらもう、わりと興味が薄れちゃうんだよね(笑)。

とり わかります。自分もそうですから。

吾妻 もちろん売れてくれればうれしいし。かといって自分が面白いと思ってることと世間が面白いと思うことが、一致するとも限らないし。売れなければまた何か描くし。もっと言うと『失踪日記』はあれでひとつ完結してるものだから、その続きを描くっていうのもいいのか悪いのか......っていまさらなんだけど(笑)。

とり いや、読者でも『アル中病棟』を読む前にそんなふうに思ってる人がいるかもしれないんですけど、でも『アル中病棟』は『失踪日記』のオマケみたいなものでは全然ない。内容も描写も、正直に言えば、むしろ『失踪日記』以上にすごい作品ですよ。

吾妻 自分の描くマンガの中に自分を出すことがおれは多いけど、それはすごく救いになってるんだね。もうひとつの現実を描いているような......。こういうマンガのような世界に行きたい。現実は辛いけど、マンガによって救われてる。誰だって、何らかのしんどさは抱えてると思うんだけど。

とり それはもちろんそうですね。

吾妻 だから一概にアルコール依存症を責められないだろうっていうのが、どうしてもあるんですよね。自分の中に。







(了)


この対談の完全版は『失踪日記2 アル中病棟』でお楽しみください







2013/10/03 更新




失踪日記2 アル中病棟

『失踪日記2 アル中病棟』
吾妻ひでお・作


「病棟は、楽しいよ」(吾妻)

度を越した飲酒でアルコール依存症になってしまい、担ぎ込まれた通称『アル中病棟』。入院してわかったお酒の怖さ。そこで出会ったひとくせもふたくせもある患者や医者たち。かわいくて厳しいナースたち。そしてウソのようで本当の、驚くべきエピソードの数々。そこから著者はいかにして、アルコール依存症から抜けだしたのか? 30万部ベストセラー『失踪日記』から執筆8年、満を持しての続編。




失踪日記

『失踪日記』
吾妻ひでお・作


「全部実話です(笑)」(吾妻)

突然の失踪から自殺未遂・路上生活・肉体労働──『アル中病棟』に至るまでの波乱万丈の日々を綴った、今だから笑える赤裸々なノンフィクション。第34回日本漫画家協会賞大賞・平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞・第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞・第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門受賞。

吾妻ひでお(あづま・ひでお)

1950年2月6日、北海道出身。上京後就職するもほどなく退社。漫画家板井れんたろう氏のアシスタントを務め69年にデビュー後、『ふたりと5人』『やけくそ天使』などのギャグ、『パラレル狂室』『メチル・メタフィジーク』『不条理日記』(79年、第10回日本SF大会星雲賞コミック部門受賞)などの不条理・SF、『陽射し』『海から来た機械』などのエロティックな美少女ものなど様々な作風で各方面から絶大な支持を得る。『ななこSOS』『オリンポスのポロン』はアニメ化された(両作品とも05年にハヤカワコミック文庫で復刊)。89年に突然失踪、その顛末は05年『失踪日記』として発表され、第34回日本漫画家協会賞大賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第37回日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門を受賞。近作に『うつうつひでお日記』『ぶらぶらひでお絵日記』『逃亡日記』『地を這う魚』『実録! あるこーる白書』 (西原理恵子と共著)、Azuma Hideo Best Selectionシリーズ等。

とり・みき(とり・みき)

1979年「少年チャンピオン新人マンガ賞」に『ぼくの宇宙人』が入選しデビュー。以後ギャグマンガをメインにエッセイコミック、SF・ホラー作品も手がける。1994年『DAI-HONYA』および1998年『SF大将』で星雲賞、1995年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。主な作品に『るんるんカンパニー』『クルクルくりん』『愛のさかあがり』『石神伝説』『冷食捜査官』『ロボ道楽の逆襲』『プリニウス』(ヤマザキマリと共著)がある。劇場版アニメ『WXIII機動警察パトレイバー』では脚本を担当。
Twitter:@videobird