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4月6日、初の書き下ろし小説『今日もひとり、ディズニーランドで』を刊行する、
新進気鋭のコラムニスト、ワクサカソウヘイさん。
本書は自らの実体験をもとにした、限りなくノンフィクションに近い物語だとか。
若き日のワクサカさんをとりこにした、ディズニーランドの魅力とは?
作品にこめた思いを編集部が訊いてみました。








◎「あの頃はヤバかった」って、今なら笑って言えます

 ――この本の主人公は、毎日のようにひとりでディズニーランドに足を運んでいます。なんでもワクサカさん自身がモデルだそうですが。

 そう、今から5年くらい前、23歳のころ、本当にひとりでディズニーランドに通ってたんです。でも、この小説を書くまで、ほとんど誰にも言ったことなかったんですよ。どこかに書いたこともなくて。自分の中で、「これは人にしゃべっちゃいけないことだ」っていうのがあって。まるで村の禁忌の祭りを目撃してしまった童のごとく、この件に関しては口を閉ざしていました。

 ――「恥ずかしい」という気持ちですか。

 人生どん底だった「暗黒時代」のエピソードですからね。このことを他人に知られることは、部屋で自分の足の爪の臭いを嗅いでいるところを見られるようなものですから。でも、イースト・プレスさんから「小説を出しませんか?」って言われたとき、なぜかこのときのことを題材に書いてみよう、という気持ちに初めてなれたんです。

 ――そもそも、なぜディズニーランドにひとりで行こうと思ったんですか。

 この本の主人公は、好きな女の子がディズニーランドで働いているから、っていう理由で足を運ぶようになるんですが、わりとそれに近いですね。僕は当時、大学の夜間部に通っていたんですが、全然なじめなくて、友だちがひとりもできなかったんです。
 そんなとき、知り合いの女の子が数人、ディズニーランドで働いていることを知って……。あまりの寂しさに耐えかねて、偶然を装って彼女たちに会えないかな、と思ったのがきっかけですね。中学生が好きな女の子に「一緒に帰ろう」って言えなくて、校門の前で待ちぶせするなんて話がよくあるじゃないですか。その「23歳版」ですよ!

 ――病んでますね。

 そうですね、そんなはっきりと言われるとは思いませんでしたが、病んでますね。自分でしゃべってて怖いです。だから今まで、このエピソードを封印していたんだと思う。どうしたって「こいつヤバい」ってなるでしょ。
 でも「あの頃はヤバかった」って、今なら笑って言えます。つうか、笑って言っておかないと、そろそろヤバいというか。
 同じような「暗黒時代」的な境遇にいる若い人たちに、「俺はこうだったよ」って、語りかけたいですね。「俺も朝から晩までテレビを見続けて、夜になったら枕に顔をうずめて叫んでいたことあったよ」って。なんの先輩風なんでしょうね。
 ちょっと前だったらこの小説は書けなかったです。あるいはもう少し年をとったら、逆に青臭くてこっ恥ずかしくなると思う。今このタイミングだから、書けたんだと思います。


◎ひとりじゃないと、ディズニーランドの本当のすごさはわからない

 ――ひとりでディズニーランドに行って、すんなり楽しめましたか。

 この本の主人公は、自分とディズニーランドとの歯車がかみ合うまで、やや苦労するんだけど、僕はわりと最初から楽しめました。当時は、本当に半年くらい家でゴロゴロしていて。仕事もしていないし、遊びに行く友人もいない。だから外に出る用事ができただけで気持ちが変わった。「やることがある」ってだけで、救われた気持ちになったんです。
 朝起きて、夜寝る生活リズムをつくってくれたのもディズニーランドでした。気分は「出勤」ですよ。だから僕は、最寄りの舞浜駅じゃなくて、わざわざ離れた浦安駅から歩いて行ってました。舞浜だと、駅を出てすぐ「遊び」になってしまうので。歩くと1時間くらいかかるんですよ。変な団地の中とか通ったりして……。あの道歩きたいなあって、今でもときたま思い出します。浦安駅からディズニーランドまでの道は、僕の通勤路でしたね。まあ、時給は1円も発生していないのですが……。

 ――でも、ひとりでディズニーランドに行くって、ちょっと勇気がいりますよね。

 けっこう、ひとりで来ている人、たくさんいますよ。ひとりならではのメリットもありますし。たとえば、アトラクションによっては「シングルライダー」っていう特権が発生して並ばないで乗れたりする。ひとりぶんの席が空いていると、優先的に乗せてくれるんです。
 だからカップルで行ったときも、別々に乗ってみるといいですよ。で、あとで「どうだった?」って感想を言い合う。マンネリの夫婦とかにオススメです。ちょっと寝室の壁紙を変えてみる、みたいな。

 ――新しい刺激が(笑)。

 面白い人も、いっぱいいる。ひとりで通っていると、「あ、あの人またいるな」っていう常連さんがいて。ファンタジーランドにずうっといる「ファンタジーランド・マニア」とか、音ばかり録っている「音マニア」とか……。
 この本に登場する、「シンデレラ城で手を上げ続ける男」も、ほぼ事実ですね。「茂木健一郎から『脳に対する知識』を引いたような風貌」もまさにその通りです。3、4回くらい見かけたかな。彼が「ミッキーの家」にひとりで並んでいるのを見たときは、さすがにちょっとどうかと思いましたが。





 ――ひとりで行くのにぴったりな季節とか、時間帯とかありますか?

 だんだん、小説のインタビューじゃなくなってる!
 1月の成人式が終わってから、2月の頭までの平日は、劇的に空いてます。時間の融通がきくなら、この時期がオススメ。あとは、ゴールデンウィークのすぐあとと、4月の半ばかな。

 ――この本にもありますけど、逆に夏休みはきつそうですね。

 基本的にディズニーランドは「現世の天国」だと思っているんですが、何事も光があれば闇があるように、お盆あたりは「これが地獄か」っていう感じです。さすがに夏は行くのをやめました。6月くらいまでは「潮風が気持ちいいなあ」って感じなんですけど、真夏はべったべたになる。
 あと、大みそか。この日だけは24時間営業をするんですけど、意外と混むんです。しかも、真冬の海のすぐ近くの深夜2時といったら、もう体の芯から冷えるどころじゃない。動脈が動かなくなる感じがします。すべての動脈が、静脈に……。あれはすごかったな……。

 ――この本を片手に、「ひとりディズニーランド」に挑戦してみるのもよさそうですね。

 それはまさに意識したところです。ディズニーランドの新しいガイドブックになればいいなと。正しい遊び方は載ってないけど、普通のガイドブックには絶対載っていない、裏街道的な遊び方をたくさん散りばめています。あと、アトラクション評でもあるんですよ。この本を読んでからアトラクションに乗ると、きっと新しい発見があるはずです。
 たとえば「白雪姫と七人のこびと」は、先入観なしに多くの人に乗ってほしいです。ものすごいメッセージ性だから。王国の中でかなり古いアトラクションのひとつなんだけど、ほんと全員が小首をかしげて出てくるっていう(笑)。
 詳しくはこの本に書いたので、ぜひ読んでもらって、ひとりで体験してみてほしいですね。僕は、ひとりじゃないと、ディズニーランドの本当のすごさはわからないと思っています。

 ――ワクサカさんが、ディズニーランドで学んだことって、どんなことですか。

 今から、かっこいいこと、言いますね。人には「物語」が必要だ、っていうことです。なぜ必要なのか……それは、現実があまりに雑音が混じったキツい世界だから。「物語」で人は救われる。実際、僕はディズニーランドという「物語」で救われました。ウソが必要なんですよ、人間って。だから今、僕が小説やコラムを書いたり、コントをつくったりしてるのって、ほとんどディズニーランドの影響です。
 この本の帯には、出版社の人が考えてくれた「僕を救ってくれたのはディズニーランドだった」って文章が載っている。これ、本当なんです。ディズニーランドに行く人は、みんなどこか救われたくて行っているんだと思います。現実から一瞬だけ解脱するための、巨大な装置なんです。

 ――当時のワクサカさんのような「暗黒期」の悩みだけでなく、仕事がうまくいかないとか、失恋したとか、どんな悩みも救ってくれる?

 そう思います。悩んでいる時間と、多少のお金があったら、ディズニーランドに行ったほうがいいですよ。


◎「カルチャーの最高峰」がここにある

 ――ところでワクサカさんは、マトグロッソのファンだと伺っているのですが。

 ええ、もう大ファンでございます。最初、びっくりしたんですよ。だって、みつはしちかこ先生ですよ! よく取ってきたな、と。「チッチとサリー」は、日本が生んだ「ミッキーとミニー」じゃないか思っています。あんな最高のカップルいないですって。
 みつはし先生の『小さな恋のものがたり』のセリフは、1巻から10巻まで、全部言えます。「今日は恋のお葬式」……これはサリーにフラれたときのスミレさんのセリフですね。

 ――すごい! この人、ヤバい!

 ちなみに、掟ポルシェさんも「小さな恋の物語」の大ファンだそうです。
 他には、近藤聡乃さんの連載も大好きです。あと、メレ山メレ子さん。このお三方、マトグロッソの三人官女ですよ。これからも注目していきたいです。

 ――ワクサカさんがマトグロッソで連載をするとしたら、どんなことをしたいですか?

 ディズニーランドと関係なくていいですか? まず、「今こそミクシィ論」でしょ。あと今、猟師になろうとしているので(編集部注:ワクサカさんは鳥取の山奥で月の半分を過ごしている)「猟師になるまでのあれこれを綴った日記」。ただ、それって思いっきり『山賊ダイアリー』ですね。それと「食べログに載っていない店を探す」。食べログに載ってない店なんて、今やほとんどない気がしますが。

 ――でも、きっと探せばどこかにあるんでしょうね。

 食べログだけには負けたくない。マズくてもいいんです。「なぜなら、ここは食べログに載っていないのだから……」で毎回締める(笑)。あとは、内田百閒先生の『阿房列車』の「深夜バス版」。深夜バスで行けるところまで行って、またすぐ深夜バスで帰ってくる。観光地に寄っても眠くて何もできない(笑)。これ、ずっと前から温めている企画なんですが……。





 ――編集長、前向きな検討をお願いします! では最後に、マトグロッソの読者にメッセージをいただけますか。

 ふだんはメガネをかけていないってことを、まず声を大にして言いたいですね。それと、ディズニーランドってあまりにマスすぎるので、「ディズニーランドに行かないことがカッコいい」って思っている人もいると思う。でも、ディズニーランドより強度の強いカルチャーなんて、この世には存在しないですよ。斜に構えてでもいいので、いい年になった今だからこそ、一度行ってみるといいと思います。

 ――なんでも食わず嫌いはよくないですよね。

 たとえば、歌舞伎町で話題のロボットレストラン。ディズニーランドにはずっと昔から、「スターツアーズ」を出たところにエイリアンレストラン的なものがありますからね。つねに時代の先を行ってますよ。あと、ディズニーシーにある「タートルトーク」は、まさに子ども向けのドミューンなのではないでしょうか。生中継の映像で、ドミューンと同じく、みんな盛り上がってますよ。
 ほんと「カルチャーの最高峰」がここにあるんです。だからこれを体験してからカルチャーを語りましょう、エンターテイメントを語りましょうと、僕は声を大にして言いたいですね。いや、やっぱり声は小にして。怒られるのはいやですから。


撮影:小久保松直

(了)




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2014/4/3更新






  
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今日もひとり、ディズニーランドで


『今日もひとり、ディズニーランドで』(イースト・プレス)
仕事はない。恋人もいない。ヒマは、腐るほどにある――そんな「僕」がひとりで通う、夢と魔法の王国。そこで見つけた「人生のヒント」とは? 『TV Bros.』連載で人気急上昇中のコラムニストが、自らの実体験をもとに書き下ろした、笑えて、泣けて、ためになる、青春エンターテインメント。ライムスター宇多丸さんも絶賛!

ワクサカソウヘイ(わくさか・そうへい)

ワクサカソウヘイ
作家、脚本家、コラムニスト。1983年生まれ。現在、『TV Bros.』『日本海新聞』『KKベストセラーズBOOKS 書籍編集部web』などで連載中。著書にエッセイ『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)、コラム集『夜の墓場で反省会』(東京ニュース通信社)がある。本書が初の長編小説作品となる。コント作家・芸人として、コントカンパニー「ミラクルパッションズ」に参加、精力的に活動している。目を開けて寝るという奇癖を持っているため、天井の夢ばかり見ている。

[作者より]
4月25日(金)、東京カルチャーカルチャーにて、「ミラクルパッションズのアメリカンホームパーティー(勘)」 というイベントを開催します。『今日もひとり、ディズニーランドで』関連コーナーも予定しております。ぜひ。

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