青かった、恋とマンガと初期衝動 古屋兎丸 青かった、恋とマンガと初期衝動 古屋兎丸の初期重要作を収録した『禁じられた遊び』が刊行、
しかも表題作は今回初公開となる、15歳当時の作品です。
そんな古屋氏の青春初期衝動エピソードをお聞きしました。
古屋兎丸の初期重要作を収録した『禁じられた遊び』が刊行、
しかも表題作は今回初公開となる、15歳当時の作品です。
そんな古屋氏の青春初期衝動エピソードをお聞きしました。


──明星の講師になったのはどういう経緯でしたっけ。

もともと就職は決まってたんですよ。当時バブルで超売り手市場だったから、三井系のコンピューターグラフィックスとかやる、わりとちゃんとしたところに内定したんです。でも山領(やまりょう)さんっていう、おれが教育実習で明星に行った時についてくれた先生がいて、その人が「君はそれでいいのか、君はアーティストになるべきなんじゃないのか」と言ってきて。ただ自分はその当時……これ話すと長くなるんですっ飛ばしますけど、「アートをしないことがアート」だと思ってたんです。

──就職活動をするぐらいの時期に?

そう。その頃に「アーティストがアーティスト活動をするのは」──

──「アートじゃない!」と。

そういうねじ曲がった考えをしていて、社会の一部として組み込まれることがむしろアートだっていう理論武装ができあがってたんですね。内定後に山領さんにそんな話をしたら、「おまえは間違ってる」って言われて。

──(笑)

「いまはそういう考えかもしれないけど、のちのちそれ後悔するから」と。でも普通だったらそんなに、人の生き方に入ってこないじゃないですか。でも山領さんは熱心に……けっこう電話でね、8時間ぐらい説得されたんですよ。夜中の1時くらいから朝まで。でこっちも疲れたし、まあ確かにそうかもしれないなと思うところもあって、軽く目が覚めたっていうか。そこで「いま空きがあるから、とりあえず明星で講師でもやれば」って口利きをしてくれたの。それがなければ普通に就職してたよね。

──CGを作ってた。

でもその会社は5年後につぶれちゃった。バブルが弾けたから。たぶんそこにいたら、同じ系列の会社の、自分の絵とは全然関係ない仕事をやってたかもしれないなあと。それで結婚して、ああ、そういえば中学校の時に『禁じられた遊び』なんてマンガも描いてたっけなあ、くらいな感じになっていた可能性も全然あるわけです。山領さんがいなかったら。だから、自分で選んできた人生なんてひとつもないですよね。全部誰かに導かれたっていうか。

──なるほど。

それでマンガを描いてガロに投稿してデビューして……。それからやっぱり、また江口さんに導かれるんですよ。まだ単行本も1冊も出てないころにコミック・キューに呼んでくれて、それでちょっと世間に注目されたんです。「誰だこれ?」みたいな。それがなくていきなり単行本、『Palepoli』が出てても、たぶんそんなに手に取ってもらえてなかっただろうなって。それはすごくありがたかったなあ。

──そんな古屋さんの初期衝動が詰まった、初期短篇集『禁じられた遊び』を読まれる方にメッセージなど。

そうですね……正直別に上手くはないんですが、いろんな工夫をしながらなんとかやってきたというところがあります。それに良くも悪くも、その時その時にしか描けなかった作品ばかりで。だから温かい目で読んでいただければと。成長記録みたいなかんじで(笑)。

──親のような目線で。実際に自分のお子さんがこんな感じでマンガを描いていたら、どう接しますか。

自分のこういうことって忘れるじゃないですか。でもこうやって振り返って……10代の傷をえぐられるとね、自分の子供には寛容にしなきゃなって思いますよね。子供がわけのわかんないことを言い出しても、ちゃんと自分のことを省みて接してあげないと。

──自分の通ってきた道をこの子も歩いてるんだなと。

自分が、何か親から反対された記憶っていうのがないんですよね。就職を蹴って講師になるっていう、不安定な道を選ぶっていうときも反対されてないし、美大に行きたいっていうときも反対されてないし、予備校に行きたいっていう時も……最寄り駅には疑問を持たれたけど、結局自分の進路に関して、親が障害になったっていうことは一切ないんですよ。それは大きいし、ありがたいことで。

──マンガも見せてたんですか。

見せてた。「投稿載ったよー」って。『禁じられた遊び』はさすがに見せてないけど。『Palepoli』が出た時は、父親が電車で、表紙をみんなに見せるようにして読んでたって。別に感想をいうとかはないけど、単行本は実家に全部そろってた。

──見守ってくれてたんですね。

だから自分も、子供が心からやりたいと思ったことに対しては、障害にならないようにしなきゃなって思うんです。それこそ初期衝動の芽を摘まないように。


(インタビュー:堅田浩二)





2015/10/15 更新



『禁じられた遊び』
(古屋兎丸著/イースト・プレス 刊)

古屋兎丸(ふるや・うさまる)

1968年1月25日生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部絵画科(油絵専攻)卒業。都内の高校で美術講師を務めながら、94年「月刊漫画ガロ」にて『Palepoli』でデビュー。その後も着実にキャリアを深め、『Marieの奏でる音楽』『πーパイー』『ライチ☆光クラブ』『インノサン少年十字軍』『人間失格』『帝一の國』『女子高生に殺されたい』ほか多数。

古屋兎丸