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日付変更線の一番東に位置し、世界で一番早く朝を迎えるサンゴ礁の島、クリスマス島。
飛んだり跳ねたり大はしゃぎの犬たちの姿に、美しい海に浮かぶこの島の過去と未来を思う。
写真家・石川直樹が、犬たちとの一瞬の邂逅を軸に、この世界の有り様を綴るフォトエッセイ。



#20



のこされ島の未来(キリバス・クリスマス島)





 赤道直下、ハワイのはるか南にクリスマス島という名の孤島がある。一度聞いたら忘れられない島名の由来は、18世紀に遡る。それまで無人島だったこの島を、かのキャプテンクックが「発見」し、その日がたまたまクリスマスイブだったというごく単純な理由で、クリスマス島と命名されたのだ。どんな島かわからないにもかかわらず、大概の人がどこかでその不思議な地名を耳にしたことがあるのは、近代になってからイギリスやアメリカの核実験がこの島で何度も行われたからだろう。
 この島は、『未来少年コナン』の、主人公コナンとおじいさんが二人で暮らしていた「のこされ島」を彷彿させる。
 1978年に放映された『未来少年コナン』の物語は、西暦2008年に始まる。2014年を迎えようとする現在、あの時代の近未来が、すでに過去になっているということに愕然とさせられるけれども……。それはともかく、その2008年に核を上回る特殊兵器を用いた最終戦争が勃発したことによって、人類の大半は死滅してしまう。高度な文明の多くが失われ、五大陸は変形し、地殻変動で多くの都市が海中に没してしまうのである。
 その戦争から20年後、コナンは「のこされ島」と呼ばれる小さな島で、「おじい」と二人で平穏に暮らしていた。そんなとき、海岸に少女ラナが漂着したことをきっかけに、少年コナンは冒険の旅にでる。
 クリスマス島も、度重なる核実験によって、島民の多くが被曝した。しかも、この島はキリバスというミクロネシア系の国に属しているにもかかわらず、地図上ではポリネシアの三角形内に位置する離れ島だ。核実験から50年が経過したここもまた「のこされ島」なのである。
 コナンが暮らしていた島と同様、このクリスマス島も核実験の跡は過去の遺物として、無残に放置されている。けれど、近海では漁業も盛んで、放射能の影響はほとんどない。美味しい魚を食べられるし、核実験を知らない子どもたちも元気に育っている。外海も内海もエメラルドブルーを湛える美しい海で、空にはグンカンドリが舞い、陸には野良犬が駆けずり回っている。
 ぼくは、この写真が好きだ。犬たちは、この島がココナツの栽培で繁栄しようが、やがて無人島になって草が生い茂ろうが、その時々の情勢に翻弄されながらも、必死に生を謳歌するに違いない。飛び跳ねるように走る犬たちを見ていると、ぼくはいつもコナンを思い出す。
 今まで西洋史の一部として一方的に語られてきた島の歴史を解き放つことができるのは、この島に生きる人間を含めたすべての生き物だけだ。のこされ島は、懐かしい未来の光景そのものなのかもしれない。





(了)
―#20―

この連載は隔週でお届けします。
次回は2014年1月9日(木)!
2013/12/26 更新

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Qomolangma チョモランマ
『Qomolangma(チョモランマ)』(SLANT)
『Lhotse(ローツェ) 』に続くヒマラヤ写真集シリーズ第2弾。2001年、23歳の石川は、チベット側から世界最高峰・チョモランマ(エベレスト)に登頂。この遠征は、その10年後にネパール側から再登頂することになるエベレスト、さらにローツェやマナスルといったヒマラヤのへの旅の出発点でもある。当時の写真に加え、2013年末から14年初頭にかけて再訪したチベットの街と人々の暮らしを写しとった作品も収録。





バングラデシュ (世界のともだち)
『バングラデシュ (世界のともだち) 』(偕成社)
世界36か国の子どもたちのくらしを紹介する全36巻の写真絵本シリーズの一冊。石川が担当したのはこの数年で何度か訪れているバングラデシュ。ダッカの中心部からCNGという三輪タクシーで小1時間、ガンジス川をわたった先の街に暮らす、少年アシフの日常を紹介する。青い自転車がアシフの相棒!

石川直樹(いしかわ・なおき)

1977年東京都生まれ。写真家。高校2年生のときにインド・ネパールへ一人旅に出て以来、世界を絶えず歩き続けながら作品を発表している。2000年に北極から南極まで人力で踏破するPole to Poleプロジェクトに参加。翌2001年には、七大陸最高峰登頂に成功。2011年には、2度目のエベレスト登頂を果たす。昨年秋、マナスル登頂に成功。写真集に『THE VOID』(ニーハイメディア・ジャパン )、『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)、『VERNACULAR』(赤々舎)、『Mt.Fuji』(リトルモア)、『ARCHIPELAGO』(集英社)他、著書に『全ての知恵を装備に置き換えること』(集英社文庫)、『For Everest ちょっと世界のてっぺんまで』(リトルモア)他がある。 2008年、『最後の冒険家』(集英社文庫)で第6回開高健ノンフィクション賞、2011年には写真集『CORONA』で第30回土門拳賞受賞。
ブログ:http://www.littlemore.co.jp/foreverest/

[作者より]
金沢での写真展『Lhotse』がはじまりました。新年はチベットで迎える予定です。その後は、沖縄へ。1月10日に宮古島でトーク1月25日には那覇で、森山大道さんと対談します。みなさんよいお年を!