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それでは「最後の発表」を始めさせて頂きます……!
発表をお休みしている間に送って頂いていたもの、それから「最後の募集」に応えて
送ってくださったもの、まとめて内田・高橋両先生にご選考頂きました。
今週から、何回かに分けて発表していきます。




第107回発表


この人がいてよかった……としみじみ思いました

思い出のしくみ#516

 両親は私が幼稚園のときに離婚していた。それを知ったのは離婚してから三年経ってからだった。
 私は父とふたりで暮らし、母と妹は母の実家に住んでいた。四人でご飯を食べに行ったり、旅行に行ったりはしなかったけれど、互いに連絡は取っていたので、てっきり父の仕事の関係で別々に住んでいるだけだと私は思い込んでいた。
 小学校三年生のときに久しぶりに母と会って、初めて離婚のことを聞かされた。私は両親を恨んだ。部屋に閉じこもり、学校にも行かず、父と口をきかなくなり、母と妹にも会うことはなくなった。
   
 高校生になり、何年か振りに母から連絡があった。
 妹が「お姉ちゃんに会いたい」と言ったからだ。妹とはもう十年以上会っていなかったので、とても嬉しかった。記憶の中の妹は、よちよち歩きのままだ。妹はもちろん大きくなっていたが、「十年ぶり」という感覚は不思議となかった。
 ふたりで互いのこれまでことを話した。親とどんな喧嘩をしたか、どんな小学校生活を送ったのか、好きなことは何か、どんなところに行ったことがあるのか等々……。妹の話を聞いているうちに、いくつもの妹と母との「思い出」が、私と父との「思い出」と重なってきた。この十年間、育った環境も場所もまったく違っていたのに、経験したこと、行ったことのある場所などが、ほとんど同じなのだ。やっぱり家族は離れていても血が繋がっているから同じなのかな、とそのときは思っていた。
 
 しかし、事実は違った。
 二十歳になったとき、両親と妹の三人が、私の二十歳の誕生日を祝ってくれた。家族四人で会うのは本当に久しぶりだった。私は姉妹の「あまりに似すぎた思い出話」を両親にした。両親は頷きながら聞いていたが、驚きはしなかった。なぜなら、両親は離婚をした後も連絡を取り合い、私たち姉妹のやっていること、行ったところなどを互いに報告し、ふたりを別々に「同じ場所」へと誘(いざな)っていたのだった。家族旅行の思い出を作ってあげられなかったから、少しでも一緒のときを過ごした気持ちになれるよう工夫したのだという。
 うちの両親はなかなかやる両親だ。
 まいったなぁ。

東京都  さくすけ



そのとき足の下にあったもの

完全包囲#517

 沖縄、宮古島の植物園にて。雨が降り出したので屋根のある場所へと走りかけて不穏な気配を感じる。
 あっと言う間に地面一面のカタツムリに囲まれていた。

大阪府  カノープス



ばったり会った話

どっちを信じればいいのか。#518

 大学で講義を受けていたときの話。
 講義がつまらなかったので、図書館で何気なく借りてきた本を隠れて読むことにした。
 そうしたらば、その本がめちゃくちゃ面白い。一気に何ページか読み終えて、一息つく。講義もこれくらいおもしろければな、と思った。
 何気なく著者略歴を眺めてみると、著者は現在、自分の大学で教鞭をとっているらしい。へー、なんて名前かな。そこで気づいた。この本の著者はいま、 目の前で私に講義をしてくれている。

大阪府  西堤 翔大



空中を飛んだ話

無重力体験#519

 30年ぐらい前、初詣に行こうと兄弟四人で近くの神社に向かった。ど田舎の道で街灯ひとつなかったため、ほとんど月明かりしかない道を四人で話しながら歩いていたとき、急に宙に浮かんだ(気がした)。
 何が起こったかまったく分らなかったが、どこかに落ちていく感覚だけがあった。
 すぐ後ろを歩いていた高校生の妹が、「お兄ちゃんが消えた!」と叫ぶ声が聞こえた。とっさに出した右手の先と後頭部に強い衝撃があって、道脇の側溝に落っこちた事に気づいた。
 弟に引っ張り上げられながら、覗き込んでいた妹が「絶対4次元ポケットに落ちたと思ったのに」と残念そうな顔で呟いた。

東京都  背番号3



戻ってくるはずがないのに、戻ってきたものの話

カマキリ#520

 おじいちゃんのお見舞いに行くため、私と息子は、自転車で病院に向かっていました。
 二列に並んで走っていると、行く先の道路を、何やら緑色のものが横切っています。
「あっ、カマキリ!」
 思ったとたん、息子の自転車のタイヤがその上を思いっきり踏みみつけていきました。
(かわいそうに……、せめて遺骸を片づけてやろう)

 自転車をUターンさせると、カマキリは何事もなかったかのようにひょこひょこと歩き、植え込みの中へ消えていきました。

和歌山県  竹光


―第107回発表―


*次回:2014年5月15日(木)掲載

2014/05/08 更新
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『嘘みたいな本当の話みどり 日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(イースト・プレス刊)
『マトグロッソ』で第31回~第55回、第66・67回に発表された145編に、田原総一朗、横尾忠則、立川談春氏ら8名の執筆陣による書き下ろし「あの人の『嘘みたいな本当の話』」8編を加えた全153作品を収録した304ページ。値段は第1弾と同じく1050円(税込)です。






『嘘みたいな本当の話 [日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(イースト・プレス 刊)
『マトグロッソ』で第1回から第30回に発表された149作品をすべて収録。さらに本家『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(ポール・オースター編)を翻訳された柴田元幸さんと、選者・内田樹さんの対談も加えた充実の336ページ! しかも値段は1050円(税込)!




募集要項

※締め切りました!

■テーマ
ご自分のストーリーはどのカテゴリーのものかを原稿に明記してご応募ください(複数応募可)。

1、犬と猫の話
2、おばあさんの話
3、マジックナンバーの話
4、ばったり会った話
5、戻ってくるはずがないのに、戻ってきたものの話
6、そっくりな人の話
7、変な機械の話
8、空に浮かんでいたものの話
9、予知した話
10、あとからぞっとした話
11、あのひと、高貴な方だったのね、という話
12、壮絶にまずい食べ物の話
13、終電車の話
14、私が会ったなかで、いちばんカラフルな人生を送った人の話
15、私が会ったなかで、いちばん物忘れのはげしい人の話
16、私が会ったなかで、いちばん粗忽な人の話
17、私が会ったなかで、いちばん酔っぱらっていた人の話
18、そのとき足の下にあったもの
19、聞いたことのない音が聞こえた
20、そこから入ってくる?
21、歯が折れた話
22、空中を飛んだ話
23、そのとき、「私はこの人と結婚する」と確信した
24、あいつだけはぜったいに許さない
25、自分がわりといい人だって、そのとき知った
26、思いがけないところでまた会いましたね
27、そのときベル(チャイムでも、呼び鈴でも、ノックでも可)が鳴って......
28、ここで寝てはいかん......と思ってはいましたが
29、それを忘れちゃ、おしまいでしょう
30、この人がいてよかった......としみじみ思いました
31、私にこんな才能があったなんて!

■字数
1000字以内。短い分にはいくら短くても構いません。「いきなり始まって、ぶつんとカット・アウト」でお願いします。

■応募方法
選択したテーマ、タイトル、氏名(筆名での掲載を希望する方は筆名も)、住所、メールアドレスを明記の上、上記「応募フォーム」よりお送りいただくか、郵送またはFAXにてご応募ください。
※発表時には、筆名とお住まいの都道府県名のみ公表させていただきます。尚、書籍化が決まった際にはあらためてご連絡をいたします。

【郵送先】
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-4-7
久月神田ビル7F
株式会社イースト・プレス
「[日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト」係

【FAX番号】
03-5213-4705

■応募資格
年齢・性別・職業・国籍は問いません。ただし、プロジェクトはあくまで「ジャパン」ですから、そのストーリーを通じて、日本の「何か」が浮かび上がるものであることが条件です。

■締め切り
※締め切りました!

■選者
ぼく(内田樹)と高橋源一郎さんが審査します。そのほか誰か「やってもいいよ」という奇特な人がいたら、その人にもお願いすることがあるかもしれません。

■発表
本サイトにて随時発表させていただきます。書籍化する(ことがあったら)収録させていただくことがあります。

■注意1
謝礼はお出しいたしません(すみませんね)。書籍化した場合は収録させていただいた方に一冊ずつ送らせていただきます。
※掲載された作品の著者権は株式会社イースト・プレスに帰属します

■注意2
原稿は返却いたしません。また、選考に関するお問い合わせには応じられません(「なんで落とした」なんて言われてもね)。

以上です。



『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉』





『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉』
(ポール・オースター 編/柴田元幸 他 訳/新潮文庫)




内田樹(うちだ・たつる)

1950年、東京都生まれ。神戸女学院大学名誉教授。武道と哲学研究のための学塾・凱風館を主宰するとともに、思想、文化、武道、映画など幅広いテーマで著作活動を行っている。07年『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で小林秀雄賞を、10年『日本辺境論』で新書大賞を受賞。近著に『街場の文体論』『修業論』『街場の憂国論』『内田樹による内田樹』、共著に『荒天の武学』『聖地巡礼ビギニング』『一神教と国家』『街場の五輪論』など。

高橋源一郎(たかはし・げんいちろう)