• 1


いつまでたっても忘れられないどきどき体験……
今回は、「センター試験」が「共通一次」と呼ばれていた
あの頃の、そんなお話から始まります。




第112回発表


そのときベル(チャイムでも、呼び鈴でも、ノックでも可)が鳴って……


#548

 昭和の時代の話である。僕が受験生だった頃、現在の大学入試センター試験は共通一次試験と呼ばれていた。理系だった僕は数学が得意で、模擬試験でも何度か満点の200点を取っていた。
 回答はマークシート方式。例えば解答欄が2桁あり、出た答えが1桁なら余った欄は数字の横にあるアスタリスク(*)、通称「米印」を塗りつぶすルールになっていた。
 しかし過去に一度も答えと一致しなかった例はなく、先生からは「もし桁数が違っていたら不正解と考えなさい」と教えられていた。

 試験当日。解答欄は3桁あった。しかし出た答えは2桁。「あれっ、間違えた!」もう一度計算する。同じ答え。「変だなぁ……ま、いいか。これは後まわしにして次の問題に行こう」しばらく先に進むとまた不一致にぶち当たる。「??」飛ばす。
 さらに米印。何度計算しても導き出される数字は同じ。時計を見る。焦る。汗でじっとり濡れた手の中で鉛筆がすべる。「カリカリ」周囲からはマークシートを擦る静かな音。
 目の前が真っ白になり心臓がドックンドックン鼓動を打つ。あと10分!
 覚悟を決め、自分の計算を信じて猛スピードで米印を塗り潰してゆく。しかし時既に遅く、未回答の問題を沢山残したまま無情にも終了のベルが鳴った。

 帰宅し母の顔を見ると「全然駄目だった!」と思わず泣き崩れ、布団の中にもぐりこんだ。そのまま消えてしまいたかった。翌日には2日目の試験があったが、今年は到底無理だからとよほど行くのを止めようかとすら考えた。しかし親にも説得され、沈んだ気持ちのまま再び会場へ。

 全て終わった後、新聞の朝刊に掲載された模範解答で自己採点した。なんと数学は*印がズラッと並んでいるではないか。僕の計算は正しかったのだ! 蓋を開けてみたら150点あった。
 夜のNHKニュースで、前例のない*印が突然登場し多くの受験生たちが混乱したこと、教育現場から非難の声が上がっていることなどが報道された。結局、数学の平均点は例年より数十点下がった。そして僕は無事に志望校に合格した。

 この年の事件は誰とはなしに「共通一次の米騒動」と呼ばれるようになった。

大阪府  雅哉



私が会ったなかで、いちばん粗忽な人の話

息子じゃない#549

 事務所の先輩から聞いた話。
「怖いことがあったんですよ」
 なんでも、実家の母親が振り込め詐欺にあったそう。
「それはこわいですね」と言うと、 「こわいのはそこじゃなくて、その後。郵便局のお姉さんが詐欺じゃないかと気づいて振り込みをストップしてくれたんだけど、確認のために俺の携帯に電話がかかってきたのね。それで、母親に代わったら『これは私の息子じゃありません』って言っててさ」。

東京都  東京特許許可局



そのとき、「私はこの人と結婚する」と確信した

奇遇#550

 たまに会う、飲み友達の男性と話していたら、小学校の頃、親が入院していた病院が同じ、しかも同時期だったことがわかった。超マイナーな病院で、40年ぶりぐらいに病院名を耳にして驚いた。

 更にお酒と話題は進み、彼の誕生日が、私の別れた夫の誕生日と同じということがわかった。
「あれ?」と思って念のため確認すると、私の誕生日は彼の別れた奥さんと同じだった。

 ふたりで絶句し、どちらかとなく「……なんだか、結婚するしかないのかも」。
 
 再婚しました。

福岡県  ジョディ



ばったり会った話

ばったり会ったはなし#551

 学生時代の友人と2番目の就職先の同僚が、はるか彼方アメリカはカンザスにて同じ学校でばったり。
 ふたりはそれまで面識はなく、話をしていくうちに私という共通項が見つかりびっくりしたそうです。

 そして私。時は少女の頃まで遡ります。
 私は毎日近くの銭湯へ通っていました。いつの頃からかは覚えていませんが、そこにはしょっちゅう見かけるある女の子がいました。
 色白でいつもお母さんと一緒でした。ついいろいろ家庭事情を想像したりしていました。
 なんといってもその子はすごくきれいな体つきをしていて、目が放せなかったのです。私は変な子でした。
 だんだん大人になっていくその子の体は、ギリシャ彫刻のように完璧になりつつありました。

 見続けること何年……10年以上でしょうか。
 話したことはありません。
 そして大人になり、転職し、出社第一日目。通された部屋にいたのが、後にカンザスに行く彼女と、もうひとり、お風呂屋さんで何年も見続けたその子でした。

 ふたりして「あっ!?」と言いました。
 今も仲良しです。

兵庫県  エム



予知した話

昭和の女学生?#552

 3年ほど前、大阪の相愛大学で行われた中沢新一氏の3日間集中講義に参加していました。2日目か3日目の朝、ふと「関西だし、お友達だし、内田センセイ、来たりして」なんて思いつつ、始まった講義に集中。
 しばらくすると机と椅子が ”ドンッ!”。
 えらい勢い込んだ途中参加だ、と思って横を見ると、並びの席にガタイのいい紳士。「内田センセイ?」という疑問はすぐ確信に。その方は壇上の中沢新一さんと嬉しそうに手を振り合っていました。
 脇をしめ、胸の前で小さく手を振るその姿はあまりにかわいらしく、昭和の女学生を彷彿とさせました。

愛媛県  ポリポ


―第112回発表―


*次回:2014年7月3日(木)掲載

2014/06/26 更新
  • 1


『嘘みたいな本当の話みどり 日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(イースト・プレス刊)
『マトグロッソ』で第31回~第55回、第66・67回に発表された145編に、田原総一朗、横尾忠則、立川談春氏ら8名の執筆陣による書き下ろし「あの人の『嘘みたいな本当の話』」8編を加えた全153作品を収録した304ページ。値段は第1弾と同じく1050円(税込)です。






『嘘みたいな本当の話 [日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(イースト・プレス 刊)
『マトグロッソ』で第1回から第30回に発表された149作品をすべて収録。さらに本家『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』(ポール・オースター編)を翻訳された柴田元幸さんと、選者・内田樹さんの対談も加えた充実の336ページ! しかも値段は1050円(税込)!




募集要項

※締め切りました!

■テーマ
ご自分のストーリーはどのカテゴリーのものかを原稿に明記してご応募ください(複数応募可)。

1、犬と猫の話
2、おばあさんの話
3、マジックナンバーの話
4、ばったり会った話
5、戻ってくるはずがないのに、戻ってきたものの話
6、そっくりな人の話
7、変な機械の話
8、空に浮かんでいたものの話
9、予知した話
10、あとからぞっとした話
11、あのひと、高貴な方だったのね、という話
12、壮絶にまずい食べ物の話
13、終電車の話
14、私が会ったなかで、いちばんカラフルな人生を送った人の話
15、私が会ったなかで、いちばん物忘れのはげしい人の話
16、私が会ったなかで、いちばん粗忽な人の話
17、私が会ったなかで、いちばん酔っぱらっていた人の話
18、そのとき足の下にあったもの
19、聞いたことのない音が聞こえた
20、そこから入ってくる?
21、歯が折れた話
22、空中を飛んだ話
23、そのとき、「私はこの人と結婚する」と確信した
24、あいつだけはぜったいに許さない
25、自分がわりといい人だって、そのとき知った
26、思いがけないところでまた会いましたね
27、そのときベル(チャイムでも、呼び鈴でも、ノックでも可)が鳴って......
28、ここで寝てはいかん......と思ってはいましたが
29、それを忘れちゃ、おしまいでしょう
30、この人がいてよかった......としみじみ思いました
31、私にこんな才能があったなんて!

■字数
1000字以内。短い分にはいくら短くても構いません。「いきなり始まって、ぶつんとカット・アウト」でお願いします。

■応募方法
選択したテーマ、タイトル、氏名(筆名での掲載を希望する方は筆名も)、住所、メールアドレスを明記の上、上記「応募フォーム」よりお送りいただくか、郵送またはFAXにてご応募ください。
※発表時には、筆名とお住まいの都道府県名のみ公表させていただきます。尚、書籍化が決まった際にはあらためてご連絡をいたします。

【郵送先】
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-4-7
久月神田ビル7F
株式会社イースト・プレス
「[日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト」係

【FAX番号】
03-5213-4705

■応募資格
年齢・性別・職業・国籍は問いません。ただし、プロジェクトはあくまで「ジャパン」ですから、そのストーリーを通じて、日本の「何か」が浮かび上がるものであることが条件です。

■締め切り
※締め切りました!

■選者
ぼく(内田樹)と高橋源一郎さんが審査します。そのほか誰か「やってもいいよ」という奇特な人がいたら、その人にもお願いすることがあるかもしれません。

■発表
本サイトにて随時発表させていただきます。書籍化する(ことがあったら)収録させていただくことがあります。

■注意1
謝礼はお出しいたしません(すみませんね)。書籍化した場合は収録させていただいた方に一冊ずつ送らせていただきます。
※掲載された作品の著者権は株式会社イースト・プレスに帰属します

■注意2
原稿は返却いたしません。また、選考に関するお問い合わせには応じられません(「なんで落とした」なんて言われてもね)。

以上です。



『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈1〉』





『ナショナル・ストーリー・プロジェクト〈2〉』
(ポール・オースター 編/柴田元幸 他 訳/新潮文庫)




内田樹(うちだ・たつる)

1950年、東京都生まれ。神戸女学院大学名誉教授。武道と哲学研究のための学塾・凱風館を主宰するとともに、思想、文化、武道、映画など幅広いテーマで著作活動を行っている。07年『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)で小林秀雄賞を、10年『日本辺境論』で新書大賞を受賞。近著に『街場の文体論』『修業論』『街場の憂国論』『内田樹による内田樹』、共著に『荒天の武学』『聖地巡礼ビギニング』『一神教と国家』『街場の五輪論』など。

高橋源一郎(たかはし・げんいちろう)