清澄白河◆だるま

コの字カウンターでステーキを


※画像クリックで拡大されます。
 開店30分前。サンダル履きで訪れたおじさんは、冷蔵庫からビールを取り
シュパンと栓を抜いた。自分のグラスとテレビを見ているおばちゃんに注ぐ。
え?っと思った。おっちゃんの自由行動にではなく、従業員と思っていたおば
ちゃんも客だったことに。
 「外で待たせるのが悪い」と準備中も店を開ける店主は峠のお地蔵様のごと
くうららかだ。
 1993年の開店以来、値段は不変。「消費税が8%になってうちも5%いただ
くように……」。3%はどこへ行った。きょうは天然のホヤ刺し350円が芳醇で
舌でとろける。大瓶ビールも400円台、サーロインステーキやサムゲタンまで
和洋韓を網羅。
 板前は参議院議員会館の食堂でも腕を振るう熟練だ。
 今夜も愉快な答弁が行き交うコの字カウンター席では、同じ話で皆いっせい
にワハハと笑う。
 壁には、「だるま会」なる旅行写真。「勤め人は社員旅行があり、うらやまし
いとお客さんが言うので、なら、うちが音頭を取ろうと」発足。


存在感のあるコの字カウンター。開店後、すぐに満席になる。


借金返済はつい最近! 苦難に満ちた「だるま」の歴史

 ふと謎の保冷棚とやけに高い天井が気になった。「昭和38(1963)年からス
ーパーを営んでたんです。都内12店舗、年商12億円でした。ここは最後の店
舗で」とお地蔵様がのどかに明かす歴史におののいた。
 じゅうにおくってなんだ。誰かが「そのころはロレックスとかしてたんすか!」
と聞く。「へへ」。してたのか。「そのころは2号さんとかいたの!」「さすがに
それは」とほほ笑む。妻命、だ。
 「でもバブル後、大手の台頭で閉店。負債を抱え、スーパーじゃ惣菜もつく
ってたから至急弁当を始めました」。昼は弁当の移動販売、夜は酒場の2本立
てだ。
 でも弁当が売れない。お地蔵様は悩んだ。模索した。そして気がついた。「ビ
ルを造るのに1年。毎日500〜600人が働くんです」。工事現場を見つけると〝
飛び込み営業〞で評判を呼び「500円の弁当が1日600個売れた」。
 早朝は弁当を仕込み、夜勤明けのタクシー運転手のため店も開けた。借金完
済は3年前。つい最近だ!
 足かけ20年、見事、お地蔵様は再起した。
 「だるま」の名が苦難に満ちた七転び八起きの人生に由来するとはだるま会
でもあまり知られていない。
 ※備考……ロレックスは紛失した。


だるま名物のオニオンロールパン


◎お店情報
米国のブルーボトルコーヒーなど、おしゃれなカフェも点在する清澄白河にあって昭和の居酒屋の雰囲気を色濃く残す。
短冊メニューは、コロッケ(2個150円)、冷や奴(200円)など定番料理がズラリ。黒板メニューは日替わりで、その日仕入れた鮮魚などがある。品数が豊富で目移りする。いずれもクオリティが高く、びっくりするほど安い。
スペイン産ワイン「バトゥーユ」(ボトル1700円)に合う洋食おつまみもある。コの字カウンターのほか小上がり、テーブル席もある。

◎お品書き
・ビール大瓶 450円
・ホッピーセット 400円
・酎ハイ 300円
・ポテトサラダ 300円
・アジ酢 350円
・オニオンロールパン 350円

だるま

住所▼
東京都江東区三好2‐17‐9
電話番号▼
03(3643)2330
営業時間▼
17時~23時
定休日▼
土曜






きょうは、どの店いこうかなあ。
安くておいしい、でもそれだけじゃない……王道から穴場まで、笑いと涙の酒場探訪。
新刊『きょうも、せんべろ 千円で酔える酒場の店』

さくらいよしえ(さくらい・よしえ)

1973年大阪府生まれ。日大芸術学部卒。著書に『にんげんラブラブ交叉点』(交通新聞社)、『東京★千円で酔える店』(メディアファクトリー)、『今夜も孤独じゃないグルメ』(交通新聞社)、『りばーさいどペヤングばばあ』(小学館)などがある。


河井克夫(かわい・かつお)

1969年愛知県生まれ。漫画家。著書に『日本の実話』(青林工藝社)、『猫と負け犬』(メディアファクトリー)、松尾スズキ氏との共著『お婆ちゃん! それ偶然だろうけどリーゼントになってるよ!!』(実業之日本社)、『ニャ夢ウェイ』(ロッキング・オン)などがある。