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役に立つとか、高く売れるとか、そういうこととは無縁のところで思い切り自由に、楽しく
"テクノロジー"を使っている人たちのお祭り「Maker Faire Bay Area2012」。
サンフランシスコ郊外で開かれるこの催しには、毎年実に10万人もの人が集う。
何がそんなに人々の心を掴むのか......「Maker Faire」と聞けば駆けつけずにはいられない
チームラボ高須さんによる、熱狂レポート!




楽しさがあふれる、世界最大のMake:イベント


 Make:と呼ばれている行動がある。単に作ることだけじゃなくて、個人が「自分の本当に作りたいものを作る」ことを指す言葉だ。

 僕はMake:で作られたものが大好きで、Make:で作られた工作物が集まるイベントに2009年から出展している。Make:のイベント会場には、様々な工作物が並ぶ。日本のMake:イベントでは電子工作のものが多い。会場にはもちろんテクノロジーにあこがれる人たちが集うのだけど、それに加えて会場全体から漂ってくる未来へのあこがれや、何よりもあふれんばかりの楽しみがあった。



自転車で作ったメリーゴーラウンド。もちろんペダルを踏んで動かす


 はじめてのMake:イベントに行った時から、僕はその楽しさに魅了されて、以降なるべく多くのMakeイベントに参加して、その度に新しい発見を得ている。去年のMaker Faire Bay Area 2012が開催された際には、休暇を取ってアメリカまで見に行った。
 Make:の中心地、工作雑誌『Make:』のサブタイトルには「Technology on your time」という言葉が掲げられている。これは『Make: 』を出版しているオライリー社からの、読者すべてに向けたメッセージだ。自分の時間にテクノロジーを。自分のためのテクノロジー。この言葉には、『Make:』が単なる技術書でなく、Make:の活動はより自分の人生や周囲との関わり方を豊かで意味深いものにしてくれるものであり、生き方や文化にまで影響を及ぼすものであるという、Make:の発起人、デール・ダハティの思想が感じられる。

 それではさっそく、『Make:』の発行元であるオライリーが主催する世界最大のMake:イベント、Maker Faire Bay Areaについてのレポートを始めたい。



ネオンのサメを上に載せたビークル



心にガツン!と来る、楽しめる場所


 Maker Faire Bay Areaはサンフランシスコから電車で1時間ほどの郊外、サンマテオで開催される。ここにはアメリカ中から出展者たちが集まってくる。そしてそれを楽しみに、各地から10万人もの観客がやってくる。
「Maker Faire」は世界中で行われている。日本でも大人気で、日本科学未来館で行われた昨年のイベント Maker Faire Tokyo 2012には1万人の人が集まった。
 アメリカで雑誌『Make:』が創刊されたのが2005年、最初のMaker Faireが開かれたのが2006年。日本では1年遅れて2006年に『Make:』日本語版が創刊され、イベントも2008年から行われるようになった(2011年までのイベントはMake Tokyo Meetingというタイトルで行われ、2012年からMaker Faire Tokyo となった)。

 僕はMake:の発起人 デール・ダハティにインタビューしたことがある。彼は、

 Maker Faireの第一法則は、何より祭り(Faire)であること。みんな楽しもう! Maker Faireはテクノロジー中心のイベントなんだけど、たくさんの説明や勉強が必要な場所にするのではなくて、見てみれば心にガツン! と来る、楽しめる場所にしたかった。

 と語る。その通り、広大な会場には、一発でガツン! と来る工作物が、数多く展示されている。



入場してすぐに来場者を出迎える、自動演奏楽器。ワンルームマンションぐらいの空間に様々な楽器が配置され、全て連動して自動で演奏される。仕組みがわかるように、機構が内側に向けてついている



会場内地図。水色の建物それぞれが学校の体育館ぐらいか、それ以上の大きさがある。テーマごとに作品が集まっている



地図の中央下に位置するEXPO HALLで撮影したパノラマ写真。この建物だけで端が霞むほどの大きさ



会場パンフやサイトでも大きく扱われているGon KiRin


 名物展示のGon KiRinは、全長数十メートルと、実際の恐竜のような大きさ。背中に積んだスピーカーからロックミュージックを流し、口から火を噴く。
 動くわけでも、コンピュータ制御されているわけでもなく、高度な技術がそこにあるわけではないが、見れば誰もが「スゲー!」と声を出す。子供は親に、「アレに乗りたい!」とせがむだろう。近づけばこの恐竜が、古タイヤなどあたりまえの部材で作られた、「やればできるかもしれないが、誰もやろうと思わなかった」ものであることがわかる。実際に作ってしまった作者に、みんなが賞賛を送る。
 雑誌『Make:』の編集長、マーク・フラウエンフェルダーは、優れたMaker(作り手)についてこのように語っている。

 彼らの秘密は、彼らが何か特別なものを持っているというよりは、むしろ何かを持っていないことにある。それは、失敗に対する恐怖感だ。ほとんどの人間は失敗を恐れる。そのため、自分の力量を超える技術を要することには手を出そうとはしない。

(『Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す』 オライリー・ジャパン)

 こうした目を引き、どんな人が見ても楽しめる展示が会場の至る所にある。もちろんテーブルに載るような小物の展示もいっぱいあるのだが、大物の展示は案内図やパンフレットでも目立つように配慮されていて、誰でもアクセスしやすいようになっているのだ。知識の量にかかわらず来場者みんなが楽しめるよう、会場がデザインされているのを感じる。

 車サイズ以上あるこうした工作物たちは、スペースの問題があって日本では作るのも展示するのも難しく、東京のMaker Faireではなかなか見られない。もちろん国民性の問題もあるのかもしれないが、日本国内で行われたMaker Faireでも、東京以外の場所で行われているところでは、野外スペースに大物の展示が見られたので、スペースの問題がより大きく影響しているような印象を持った。



こちらは「スチーム・パンク」コーナーで展示されていた、座った人をジャッキアップする乗り物。このまま走行することもできる。展示物は「スチーム・パンク」「自転車」など、ある程度ジャンルごとに、コーナーを作って並べられている



自作のひとり乗り潜水艦



外装が全面レゴになっているLEGO JEEPに群がる子供



映画『ネバーエンディング・ストーリー』のファルコンを思わせる自転車



笑わせ、そして考えさせられるパフォーマンス


 見ている人を釘付けにするパフォーマンスも多く行われている。



フェアの名物、メントスコーラショー。コーラがカリフォルニアの青い空に向かって、数メートルの高さまで吹き出す


 メントスコーラショーは大人気のパフォーマンスだ。白衣を着た男性がコーラのボトルを手に現れると、聴衆は拍手喝采。1日2回、短いショーのために専用の大きなステージが設けられている。
「コーラにメントスを入れると、ものすごい勢いで吹き出す。なぜか? 表面に細かい穴の空いたメントスの形状と、含まれるゼラチンが、コーラとものすごい勢いで反応する。これは物理的な反応だ。目の前で見て、ぜひ体験してほしい。そして、前にいる子供たちには、メントス味が加わったコーラをご馳走します」
 前説で観衆を沸かせた後、ショーが始まる。



 コーラのキャップに細工をし、紐を引っ張るとコーラ内にメントスが落ちる仕組みを作って、パフォーマンスを行う。わずか1分強のショーで、前列にいると空から落ちてくるコーラのしぶきでひどいことになるのだが、乾燥した空気でけっこう早く乾く。
 ステージに近すぎて明らかにコーラまみれになる場所の境目にはラインが引かれているのだが、子供たちは我先にとラインを踏み越え、コーラに濡れるのをむしろ楽しんでいる。

 こんなショーもある。ギターを、電撃を発するテスラコイルにつなぎ、稲妻を起こすことによって演奏するパフォーマンス。



 とても刺激的で、大人も子供も大喜びだ。

 Make:の発起人、デールは語る。

 ユーモアは人の緊張を解く。みんなが楽しみ、自分も楽しんでいるときは、他の人との交流も進む。心のいろいろなツボが開かれている。
 もちろんMaker Faireはテクノロジーのイベントなので、自分がまだ見たことのないテクノロジーを体験することで、学ぶこともあるだろう。その意味で教育にも役立っている。
 でも、"楽しむこともできる教育イベント"を作りたいのではなくて、楽しめるイベントに、結果として教育の効果もあるということ。Maker Faireは何よりも楽しめる空間にしたい。

 実際、会場には笑顔が溢れていて、出展者も来客もみな楽しそうだ。各自が持って来ている作品は、どう表現していいかわからない奇妙なものばかりなのに、そこら中にfunとenjoyが溢れている。特に子供たちはひっきりなしに走り回っている。



静電気デバイスの実演。見事なブロンドが逆立つ



自作の衣装を着たコスプレ集団。みんな笑顔



子供たちに大人気の布を使った工作ブース


 Maker Faireは間違いなく、誰かに強いられて勉強しにくる所ではなく、楽しみを求めて集まるイベントになっている。最寄り駅から会場に向かう途中、Make:TOKYOと書かれたTシャツを着た僕に、いろんな人が話しかけてきた。
「東京からMaker Faire Bay Areaに来たのか? よく来たな! 俺もMake:を楽しみにしていたんだ!」



電車から降りてMaker Faireの会場に向かう人々


「Maker Faireの精神」という文章がある。どこのMaker Faireでも会場にはこの精神が満ちている。イベントの性質を表したすばらしい文章で、僕はこの文章が大好きだ。

Maker Faireの精神(抄訳、ドラフト版)

Maker Faireとは何かを簡単に説明することはできません。しかし、Maker Faireの主催者や参加者たちに共通する考え方があります。これは、あらゆる規模のMaker Faireに反映されるべきものです。
1.Makerの行動――何を作ったか、どうやって作ったか、それを作ろうと決めた動機や思い入れなどを賞賛する。
2.エキサイティングでクールなものというシンプルな視点から、Makerを選び、組み合わせ、大々的に公開する。
3.Maker Faireを訪れたすべての人に、自分もMakerとなって、新しいものを作るための知識を集めて帰るのだという意識を持たせる。
4.Maker Faireには粗削りで尖った部分もあり、時に刺激が強すぎることもあることは容認する(パンクロックのようなもの)。
5.大人と子供向けの、DIYを実際に体験できる展示をできるだけ多くする。
6.できる限りオープンで、誰でも参加でき、寛大で互いを励まし合う精神を大切にする。
7.出会ったクリエイティブな人たちやテクニカルな人たちが、Maker Faire終了後もつながりを持ち続け、コミュニティが広がることを目指す

もう1つ:Maker Faireは展示会であってコンテストではありません。Maker同士が競い合うのは望ましいことではありません。大切なのは、すべてのMakerが、出展作品に関して建設的で有用なフィードバックを与え合うことです。

Make Ogaki Meeting2012の講演で配布された、「Maker Faireの精神」


2013/5/16 更新
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『Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す』(マーク・フラウエンフェルダー 著/金井哲夫 訳/オライリー・ジャパン)
DIYの目的は、自分の人生を取り戻すこと。「Makerムーブメント」を主導する雑誌「Make:」の編集長によるDIY体験記。野菜作り、ギター作り、エスプレッソマシンの改造などの経験や、個性的なDIY愛好家との出会いを通して、「失敗をおそれないこと」「成果を共有すること」など、ムーブメントの根底にある価値観を発見する一冊。







『Make: Technology on Your Time Volume 12』(オライリー・ジャパン 発行)
自由な発想でテクノロジーを使いこなすMakerのための雑誌「Make:」。最新号Vol.12の特集は「DIY SUPERHUMAN」と「キットとイノベーション」。毎号掲載されているSF作家・野尻抱介氏のコラムも最高!。

高須正和(たかす・まさかず)

@tks ウルトラテクノロジスト集団チームラボニコニコ学会β幹事
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、様々なテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
前回東京で行われたMaker Faire Tokyo 2012のレポートはこちら!
Maker達のお祭りがやってきた! Maker Faire Tokyo 2012