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役に立つとか、高く売れるとか、そういうこととは無縁のところで思い切り自由に、楽しく
"テクノロジー"を使っている人たちのお祭り「Maker Faire Bay Area2012」。
サンフランシスコ郊外で開かれるこの催しには、毎年実に10万人もの人が集う。
何がそんなに人々の心を掴むのか......「Maker Faire」と聞けば駆けつけずにはいられない
チームラボ高須さんによる、熱狂レポート!





幅広いDIYの国アメリカとハイテクノロジーの日本、日米の違い


 東京で行われるMaker Faireはテクノロジー愛好家のイベントという色が強く、電子工作やロボティクス技術など、高い技術で作られた作品が目につく。秋葉原、秋月電子といった単語が強く想起される。
 日本の場合は製造業が一度完全に死んでしまったアメリカと違い、ものづくりの技術や趣味が脈々と受け継がれてきた。全国の技術系学校、理系大学出身者、そして、70年代のラジオ工作ブームのときから地道に、秋葉原に集ってきた人たち。今彼らの勢いがインターネットの力を得て「ニコニコ動画」内で見られる「ニコニコ技術部」などで拡大しつつあり、Maker Faire Tokyoではその成果が見られる。



YouTubeで再生170万回を記録した、BRAVE ROBOTICSの変形ロボ。Maker Faire Tokyo 2012で大人気


 アメリカのMaker Faireでは高い技術というよりも、「俺が作ったんだ!」に価値が見い出される作品が目立つ。日本でもデザインフェスタという、自己表現であればなんでも出展できるイベントが年2回開かれていて、絵画や彫刻の他に手作りのTシャツや雑貨などが出展されているが、それに近い雰囲気もある。それに加えてDIY精神に満ちた、ホームセンター的な作品が目につく。

「自分で何かを作る人」の中には、秋月電子に通う人も、ホームセンターに通う人も、東急ハンズに通う人も、ユザワヤに通う人も含まれる。スーパーに通って料理を作る人もいるだろう。東京のMaker Faireでは電子工作の人たちが目立つ印象だか、Bay AreaのMaker Faireでは、どの人たちも同じFaireに集まって楽しんでいる様子が見られ、それはイベントに来る人の幅を広げるという効果にもつながっている。



いかにもアメリカ、ベーコンのにおいの手作り石鹸と脳みそ石鹸



自分でデザインしたノートや雑貨。クレジットカードのマークを刺繍で作ってあるのがカッコイイ


 会場には、メディア・アート的な空間から、露店のような雑多な空間、乗り物や大物が中心の野外スペース、電子工作が中心の建物、服飾や雑貨を集めた場所など、様々な展示場があり、それぞれ出展者のカラーが違う。その中にはそのものずばりのHomebrewと呼ばれる一角もあり、自家製造した食品などが展示されている。



マッシュルームの自家栽培



こちらはピクルス



Homebrewスペースのプレゼンコーナー


 もちろんアメリカのMaker Faireにだって、ギーク(テクノロジーに親しんだ人)向けの「ニヤリ」とする展示もある。ロボットや電子工作の成果物も多く展示されている。
 でも、パンフレットや会場案内では、なるべくハデで魅力がすぐわかるものを中心に紹介している。会場のお客さんも、子供を中心とした家族連れが多い。



電子ではなく、ボールを使って物理的に動作するフリップフロップ(原始的なコンピュータ。配られていたシールには「Evil Mad Science」の文字が



3Dプリンタもたくさん展示されている



大量の自転車を使って作った時計。全部のギアが連動していて、一番下のタイヤが回ると、全体が動いて時計の長針短針が動く



アメリカのギークの間では、映画『スター・ウォーズ』に登場したR2-D2が大人気。みんなでラジコン動作するR2-D2を自作している



アメリカを動かすMakerムーブメント


 日本人から見てもアメリカにはなんとなくホームセンターのイメージがあるように、アメリカにはDIYに対する憧れがある。ただ、近年のMake:への流れは、単なる憧れでなく、今だから盛り上がった、さらに大きなものだ。それはMakerムーブメントと呼ばれている。
 Makerムーブメントは、新しいものづくりの形だ。製造業がほぼ全滅して、頭を使ってソフトウェアを書く=エリートの仕事、手を動かしてハードウェアを作る=人件費が安い国の仕事、と二分化してしまったアメリカに、新しいものづくりの形が現れようとしている。

 Makerムーブメントが何かを知るには、まずこの11分のムービーを見てほしい。



「We are makers」 ※日本語字幕付き


 作る人と使う人が完全に分離し、さらに「作る人」も分業してそれぞれが全体の一部分しか作らなくなった現代社会において、手や体を用い、頭と手の両方を使って全体を作る、まるで料理を作るかのようにそれぞれのスキルに応じて創意工夫をしながら様々なものを作る動きが生まれつつある。
 もちろんそこにはテクノロジーが必要とされるが、ここでは大企業や研究機関が提供するような、技術そのものの先進性というよりも、完成したものの総合的な「良さ」が求められる。評価は実験室でされるのではなく、いろんな人に触ってもらった結果、体験によってくだされることになる。
 オバマ大統領は全米の小学校に3Dプリンタなどの工作機械を置く計画を進め、学校に「Makerムーブメント」を取り入れようとしている。子供の頃から、頭と手の両方を使って、自分の工夫で何かを生み出し、お互い見せ合って楽しむことに慣れさせようとしているのである。
 先ほど引用した、優れたMakerについて語るフラウエンフェルダー(『Make:』編集長)の言葉はこう続いている。

 私が大好きなDIY愛好家たちには、大学を中退しているか、大学には進まなかったという人が多い。高校すら卒業していない人もいるが、それは偶然ではないようだ。彼らは教育システムから脱出できたラッキーな人たちなのだ。学校では失敗は成績の低下という懲罰の対象になる。私たちは、失敗は避けるべきものだと教えられてきたため、何かを作ったり修理したりといった挑戦を敬遠するようになってしまった。

 Makerムーブメントは、アメリカをもう一度変えようとしている。Make:が、行き詰まったかのように見える先進国のものづくりを、再びイキイキとしたものに変えるのではないか、と期待する人は多い。



パソコンなど、電子機器をひたすら分解できるコーナー



自分たちで作ったものを説明する大学生



発明の民主化、楽しみからイノベーションが生まれる


 なぜ、Makerムーブメントが注目されているのか。
 再びMake:の発起人、デールの言葉に戻る。

 今の社会にはいろいろな側面があり、複雑になってきている。もちろん研究機関があり、新しいものを生み出すための組織もある。だけど、面白いアイデア、イノベーションは、自分たちの楽しみとしてMake:をするその過程や、作ったものを見た人と実際にやりとりをしながら気付かされたことの中にあるのではないか? と考えているんだ。

 これまでの機械の性能は、おおむね数値で評価できた。もっと早くする、もっと軽くするなどの評価は数値で出せるし、それらは実験でわかる。つまり、技術の評価は性能を上げるかコストを下げるかという視点でなされてきたわけだ。
 ただ、数値で計れる技術進化がある程度のところまで行くと、性能が絶対的な評価にはつながらなくなる。「その製品を使って快適だと感じるか」といった、総合的な体験そのものが評価の根拠となってくるからだ。部分部分の出来が良くても、組み合わせ方が悪かったり、全体の調和がある程度とれていても、その中のどこか一部分の出来が悪かったりすると、体験は損なわれてしまう。
 これまでのものづくりは、最適化を目指して細分化をすすめ、機構・デザイン・プログラムなどをそれぞれ別々のプロフェッショナルが作り、数値で評価を重ねながら最後に組み合わせるやりかたをしてきた。
 これからは、見た目にも機構にも配慮して全体が動作し、体験が味わえるプロトタイプをまず作成し、何人かで触って体験を確かめながらその後のプロジェクトを進めていくやりかたが必要になる。
 たとえばAppleは、徹底してプロトタイピングを重ねるものづくりで有名だ。実店舗であるApple Storeを出店するときも、社内にまったく同じ大きさの店舗を作り、店員を配置し、どういう体験がそこで得られるかを調べ続けたという逸話がある。iPhoneやiPadを作るときも何パターンもプロトタイプを作り、触って確かめながら開発を進めている。まるで、Maker Faireの出展者のように。僕が働くチームラボもプロトタイピングを通じて開発を進める会社だ。

 Makerムーブメントはものづくりの話なので、「製造」の話が表に出ることが多く、テレビで「Makerムーブメント」や3Dプリンタの話が取り上げられるときはたいてい製造業の文脈で語られるが、それはかなり偏った一面で、むしろ「発明」の部分に注目したほうがいいのではないかと僕は思う。
 テクノロジーの成果が、体験によって評価される機会が増えつつあることで、これまで発明とは無縁だった市井のMakerたちからイノベーションが起こるようになってきている。そのための開発技術やノウハウはインターネット経由で手に入る。そして、その作品が、誰が見てもイケてるものだったら、インターネットやイベントを通じて、世界中で評価されるかもしれない。これはイノベーションの民主化、発明の民主化と言える。自分のための、誰か身の回りの人を楽しませるためのテクノロジーがそこにはある。
 Makerムーブメントは、テクノロジーが専門家だけのものになったことで一度分断されたかのように思われた「テクノロジーと僕たち」が再びつながろうとする、文化や価値観の話だと、僕は思っている。

 イノベーションが、楽しみから生まれる時代が来ようとしている。作って、人に見せて、アイデアを交換し合う。インターネットやイベントを介したそういうやり取りの中から世界を変えるイノベーションが生まれつつある。テクノロジーを楽しむことが、結果として世界を変えるのかもしれない。

 今年もMaker Faire Bay Areaは5月18-19日、サンフランシスコの郊外にて行われる。Makerムーブメントは世界的に拡大し、今年は台湾やロンドン、シンガポールなどでもMaker Faireの開催が発表されている。僕は台湾のMake:を見に行く予定だ。
 日本でも今年も11月2-3日に、Maker Faire Tokyo 2013が開催される。また、6月にはMake:について話し合う会議 Maker Conference Tokyo 2013が開かれる。詳細はMake:Japanのブログで随時告知される。
 Make:に興味を持ってくれた人はぜひ一度会場に、多くの作品や雰囲気を体験しに来てほしい。
 僕もMaker Faire Tokyo 2013 には、「チームラボMake部」として出展するので、会場でお会いしましょう!

(了)
2013/5/16 更新
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『Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す』(マーク・フラウエンフェルダー 著/金井哲夫 訳/オライリー・ジャパン 刊)
DIYの目的は、自分の人生を取り戻すこと。「Makerムーブメント」を主導する雑誌『Make:』の編集長によるDIY体験記。野菜作り、ギター作り、エスプレッソマシンの改造などの経験や、個性的なDIY愛好家との出会いを通して、「失敗をおそれないこと」「成果を共有すること」など、ムーブメントの根底にある価値観を発見する一冊。







『Make: Technology on Your Time Volume 12』(オライリー・ジャパン 刊)
自由な発想でテクノロジーを使いこなすMakerのための雑誌『Make:』。最新号Vol.12の特集は「DIY SUPERHUMAN」と「キットとイノベーション」。毎号掲載されているSF作家・野尻抱介氏のコラムも最高!

高須正和(たかす・まさかず)

@tks ウルトラテクノロジスト集団チームラボニコニコ学会β幹事
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、様々なテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
前回東京で行われたMaker Faire Tokyo 2012のレポートはこちら!
Maker達のお祭りがやってきた! Maker Faire Tokyo 2012