
『同居人の美少女がレズビアンだった件。』刊行記念として、吉祥寺パルコブックセンターにてトークショーが開催されました。当日は皆様からたくさんのご質問をいただきましたが、時間の都合でお答えできませんでした。今回改めて皆様からのご質問に、小池みきさん、牧村朝子さん、山崎ナオコーラさんにご回答いただきました! 最後には嬉しいご報告もあります。
トークショーの模様はこちら。
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■ 山崎ナオコーラさんの回答
○”結婚”をする意味って何だと思いますか?
結婚という言葉は、人それぞれ使い方が違うので、
(一緒に住み始めたときから、とか、式を挙げたときから、とか、戸籍をいじったときから、とか、人それぞれのタイミングで使い始めるので)、一概には言えないことですが、世間にすごく通りが良い言葉なので、社会から「二人組」として見てもらいたい、というときには便利なのかな、と思います。でも、嫌だな、と感じてしまう使い方も多くて、悩みます。
○「イケメン女子」ということばについてどう思いますか?
今、その言葉を初めて知りました。
私は、○○女子という言い方にまだ馴染めていない世代なのですが、
でも、褒め言葉の種類は、たくさんあった方が様々な価値観で人を見られるようになるから、そういう言葉がいろいろあると楽しいかも、と思いました。
○ナオコーラさんの作品の登場人物のうち、誰かと実際に会えるとしたら、誰を選びますか?
小説を書くときは、文字だけの存在として登場人物を扱えたらいいな、と考えているので、会わなくていいかな、と思います。
○今までご経験された作家以外のお仕事が、今の作家というお仕事に活きている、と感じたエピソードはありますか?
私には専門職の経験がないので、そのまま活きるものはないのですが、たとえば、机の島で雑談をする感じとか、毎日同じ満員電車に載る感覚とか、そういった小さなことを描写として出すと、私の書きたい小説の雰囲気を出せるときがあります。当時は削りたいと思っていた無駄時間が、実は貴重だったな、と今となっては思います。
○メールやLINEから離れたい、と思うときはありますか? そういうときはどうしますか?
私はメールもLINEもかなり苦手で、返信をいつも遅くしてしまいます。
でも、繋がりたい気持ちはあって、スマートフォンを持つのをやめる、というほどの覚悟はできません。どうしたら上手くやれるんでしょうか?

■ 牧村朝子さんの回答
○二人で暮らしてみたい国はフランス以外にありますか?
私は妻と今の仕事とともに暮らせるならどこでもいいですが、妻は「長野」と言っています。この間もうちの両親に「日本で食べたいものはある?」と聞かれて「おやき」と即答していました。
○まきむぅさんはどこか達観したというか、とても大人な考え方をお持ちの方だと思うのですが(「同じ地球の上だもの」と言って渡仏したことや、彼女を”自分の”彼女と思っていないということなど…)どのようにそういった価値観を身につけられたのでしょうか。
あら、うれしいわ。ありがとうございます。そういうふうに「大人ね」って言ってほしくて、私は一生懸命背伸びをしながら本を読んだり人の話を聞いたりして考え続けてきたんです。子どものころ「子どものくせに」「しょせん子どもの言うことだ」「子どもは黙ってなさい」みたいなこと言われて、キーッ! ってなったという人はきっと私だけじゃないものね。
○”結婚”をする意味って何だと思いますか?
社会制度として言えば結婚は、二人で生活するうえで必要な、各種行政手続き・住居探し・税務手続き・子育て・ビザ・保険・医療・介護・葬儀などなどといったあらゆる細かいことを一挙にスムーズにするお便利セットとしての意味を持っていると思います。それ以上のなにか絶対的なものに見られがちですが、正体はお便利セットです。
が、やっぱりそんなお便利セットに私は夢を見てしまいます。すでに妻とフランスの法律で結婚をしているにもかかわらず、キュンとすると私はいつもこう言うんです。「モリガちゃん素敵! 結婚しよ!!」
○「イケメン女子」ということばについてどう思いますか?
「女が女のままカッコよくいることがなぜ許されないのか、それはジェンダーバイアスではないのか」的なお怒りを覚える方もいらっしゃることでしょうが、うちの妻は女子に「キャーイケメン」って言われて喜んでる女子ですし、私個人的にはイケメン女子は大好物です。
○牧村さんに質問です。フランス語に問題はありませんでしたか? どれくらいの期間で話せるようになりましたか? 今の恋人がフランス語圏への移住を考えているのでとても気になります。
んまぁ、わくわくね。私は渡仏当時まったくフランス語がわからなかったので、9割の会話を「こんにちは(ボンジュール)」「ありがとう(メルシー)」「これ(サ)」「こういうふうに(コムサ)」「OK(サヴァ)」「いいえ(ノン)」「お願いします(シルヴプレ)」の7つで済ませていました。たとえばこんな感じです。
自分:ボンジュール
チーズ屋さん:Bonjour.
自分:これ(チーズを指さす)、こういうふうに(においをかぐしぐさ)、サヴァ?
チーズ屋さん:Quoi, qu'est-ce que vous voulez?
自分:これ(くさ~い、のしぐさ)、ノ~ン(いやいや)。
これ(チーズを指さす)、こういうふう?(くさ~い、のしぐさ)
チーズ屋さん:Ah, vous aimez pas les fromages qui puent? Non, ça pue pas.
自分:(相手がノンと言ったのを聞いて)
OK、これ(チーズを指す)、これくらい、お願いします。
チーズ屋さん:Voilà, merci.
自分:メルシー!
はい、これで、フランス語でチーズが買えました。意外とイケるでしょ。あとは周りの会話をよくよく聞いていると、よく聞く単語や表現が耳につきますから、その意味をフランス人に聞くんです。「ぴゅたーん、って何?」「ちくしょう! って意味だよ」みたいな。
そんなことを繰り返して2年くらいで、フランス語しか話せない人ともなんとか雑談できるレベルにはなりました。きちんと勉強すればもっと早いでしょう。なんとかすればなんとかなります。
○日本とフランスでの生活感の違いなどあれば教えてほしいです。
日本と違ってフランスでは、地震とゴキブリにおびえなくて済むっていうのが気に入っています。それに緯度の関係で夜まで明るいので、お庭やテラスで晩ごはんをとれるのも楽しいです。大陸のEU加盟国ですから国外旅行も安くて手軽ですし、フランスの暮らしを私はとっても楽しんでいます。
だけれどフランス人であるうちの妻は、役所に出した書類が2カ月待っても「手続き中」だったり、電車が突然止まって「ごめん、ここで降りてー。次の駅まで徒歩5分だから歩いてー」ってアナウンスが流れた上に結局次の駅まで全然まったく徒歩5分じゃなかったりしたとき、ぷるぷるしながらこう言います。「こんなこと、日本じゃありえないよ……朝子ちゃん、私日本に帰りたいっ!!」

『同居人の美少女がレズビアンだった件。』本文でも日本に帰りたがっていた森ガ。
○ LGBT関係の事業を起こしたいと思っています。カミングアウトせずに”友だちの友だち”など近い人たちと出会えるアプリがあったら当時使っていたと思いますか?
「当時使っていたと思うか」との質問ですが、あなたが事業を起こしたいのが「今」であることをふまえて、今の私の気持ちで回答しますね。
あなたを含め、志を持ってLGBT事業に携わる/携わろうとしているすべての方には敬意を表します。きっと何かしらのお考えがあってのことだと思います。でも、私は消費者としては、LGBT事業の提供する商品やサービスを買い求めようとは思いません。
理由はこうです。
「LGBT学生として人間関係を築き、LGBT向け就活サービスで職を探し、LGBTフレンドリーな店やSNSだけに通い、LGBT向け出会いイベントで出会い、LGBT向け結婚式プランで挙式し、LGBT向けのハウジングサービスで家をさがし、週末はLGBT交流会やレクリエーションに参加し、LGBT向けのグッズを身に着け、いずれLGBT向けの老人ホームに入って老いてゆき、最後はLGBTフレンドリーなお墓に眠る人生はイヤだから」。
LGBT向け事業を必要以上に乱立させることは、ある種のゲットーにLGBTを追い込むことと等しい、と私は思っています。
もちろん、すべての「LGBT向け」が「悪い」わけではありません。しかし将来的に、あらゆる分野の事業は「LGBTインクルーシブ」になるべきです。つまり、顧客にいわゆるLGBTがいることをきちんと想定の範囲に含めること。例えば占いアプリひとつとっても、「あなたと相性のいい『異性』はこんな人」というような、「人間はみんな異性が好きである」という考え前提の文言を使う前に、「異性と恋愛したいユーザーばかりじゃないよなあ」という想像力を働かせることはできるはずなんです。
「顧客にも社員にもLGBTはいる」ということに気づいていない事業者が、「LGBT向け」サービスにLGBTを追い込んでしまっている側面は否めません。LGBT事業が一ジャンルとして成立してしまいつつあるこの状況を私はたいへん疑問に思っています。ですから私は「LGBT向け」サービスを利用しませんし、LGBT事業についてのご相談を受ける度、いつもこう質問しているのです。
「そのサービスは、どうしてLGBT以外の顧客をあえて想定しないことにしたのでしょうか?」
よかったら、答えを考えてみてくださいね。