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Lab:038 首都大学東京 渡邉英徳研究室




「もうひとつの地球に資料館を建てる」



 渡邉先生の研究は、新しいテクノロジーやシステムをどう活用していくかという点で、非常に注目度の高い研究です。情報の全体像を把握できるカタチで見せる(ビジュアライズ)というのは、今後どんどん必要になっていくでしょう。
 先生がこうしたアーカイブ作品を作るようになったきっかけは、写真家の遠藤秀一さんと共同制作した「ツバルビジュアライゼーションプロジェクト」にあります。
 ツバルは、地球温暖化による海面上昇で、沈んでしまうという危機にある島国ですが、報道などでは、その危機ばかりがクローズアップされ、実際に住んでいる人々の営みが見えず、声が聞こえなくなってしまっているという問題を、おふたりは感じていたのだそうです。そこで、住民の顔写真とメッセージをマッピングしたというのが、上記のプロジェクトです。
 メッセージで子ども達は温暖化の話をしているわけではなく、「大きくなったら船乗りになってお金稼ぎをする」など夢を語っています。島民全員がおびえながら悲劇の日常を生きているわけではなく、日々の営みの中に、海面上昇の話が挟み込まれている状況が見えてきました。
「ツバルビジュアライゼーションプロジェクト」は、2009年の文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品となりました。その展示がきっかけとなり、「ナガサキアーカイブ」が制作され、さらに「ヒロシマアーカイブ」へとつながっていったのだそうです。

 映像内でご覧いただいたヒロシマアーカイブは、地元の高校生たちが被ばく者の方々にインタビューをして、渡邉研究室がグーグルアースにマッピングするという方法で作られています。情報と場所を結びつけることで、時空間的な関連性を把握することができます。
 渡邉先生は、ネットワークデザインを研究されていますが、それはインターフェースやシステムだけではありません。作品自体もネットワーク化されたものですが、制作過程のなかでもコミュニティを形成し、人と人とのつながりを生んでいます。先生は、「グーグルアースを使ったインターフェースはアーカイブのいち側面でしかない」とおっしゃっていましたが、まさにその言葉どおり、制作過程を含めて、作品とその周辺に広がっていくネットワークこそが、渡邉先生の研究なのです。

 ツバルでは、「遠い場所」を、ナガサキ/ヒロシマでは、「過去」を身近に感じさせるためのインターフェースとしてグーグルアースが機能しています。

 映像ではご紹介できませんでしたが、ヒロシマアーカイブに続いて作られたのが「東日本大震災アーカイブ」「震災ビッグデータ」です。震災ビッグデータは、震災後に公開および提供された、さまざまなデータを集めてマッピングすることで、「何が起きたのか」を可視化していくというワークショップです。放射性ヨウ素の量や、報道で言及された地名、さらには位置情報付きのツイートなどを重ねて見ることができます。
 東日本大震災アーカイブと、震災ビッグデータに関する一連の活動は、オーストリアのリンツで開催されるメディアアートの祭典、アルスエレクトロニカで栄誉賞を受賞しました。

 渡邉先生のバックボーンは「建築」です。バーチャル空間にアーカイブを作っていくといいうことは、先生にとって、「もうひとつの地球(グーグルアース)に資料館を設計、建築していくことなのだ」と先生はおっしゃっています。平面の地図にマッピングしていくだけでは見いだせない情報が、バーチャル空間に置かれることによって見えてくる。さらに、バラバラだった複数の情報を重ねていくことで、関係性を見つけることもできるのです。
 バーチャルリアリティが培ってきたノウハウとビッグデータの特性を、とても有効に活用した例であると、私は考えています。今後もさまざまな証言やデータをマッピングしていくことで、どんどん貴重で有用な資料館を建設していっていただきたいと思います。

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