『ガールズ美術』には、今日マチ子さんが高校時代に通っていた御茶の水美術学院(通称オチャビ)でのエピソードをもとに描かれた自伝的エッセイマンガが“番外編”として収録されています。
漫画家・アーティストの近藤聡乃さん、映画監督の松本佳奈さんとは、実はオチャビの同級生。3人で『ガールズ美術』を地でいっていた“あのころ”を振り返ってもらいました。単行本に収録された鼎談からその一部を特別掲載します!
今日 私はもともと、部活(マンドリン部)がやめたくて、オチャビへ通い始めた気がする……。漠然とアートっぽいことで生きて行けたらいいなと思ってたんです。
近藤 私もなんとなく絵の仕事に就きたいとは思ってて、高1からオチャビの基礎科に通ってました。
松本 出会ったのは、あきのちゃんとマチ子先生のがちょっと先だよね?
今日 そうですな。高2になって、基礎科で近藤さんと松本さんに会いました。学校はみんな別々だけど、3人とも女子校なのでノリは似てたよね。うちの学校は、周りが優秀すぎて、みんな外交官とかジャーナリストを目指していたから、息苦しかった。
松本 さすが、女子学院!
今日 休み時間に哲学の話で議論してるからね。
松本 こわ~!
近藤 オチャビではくだらない話ばっかりで楽だったね。
今日 デッサンパン(木炭デッサンのときに消しゴム代わりに使う食パン)食べたりしながら。
松本 男子の陰口を交えながらね。
今日 美術予備校は、男子が少ないので攻撃対象になりがちなんだよね。○○君とかね。
近藤・松本 ○○!
今日 ○○は、そこそこ実力があるのがイライラしました。
近藤 そうそう。
今日 すべてを兼ね備えていた男でした。モテるんですよね。
近藤 でも格好よくはないよ。……マチ子先生が格好いいと思っていたなんて。
今日 雰囲気イケメンでしょ。
松本 ラルクが好きだったね。
近藤 実は私、2年前に会ったよ。
松本 うそ! いま何してんだろ?
今日 あのリア充はきっと幸せな家庭を築いているはず……。
近藤 ぽっちゃりしてた(笑)。個展に来てくれてね……悪口言いづらくなったよ。
松本 はは! ○○は意外といいやつなんだよね。私は大学も一緒だったけど、学食でラップのリリック書いてたよ。
近藤 私たちは真面目なグループだったよね。
今日 がんばりすぎてて普通にやっている人にイライラしてた。ちょっとノリがおかしかったかもしれない。
近藤 オチャビにも週5で通ってたし。
今日 17時から20時だったかな? かなりハードでした。
松本 3時間みっちり。ほとんど休まなかったよね。
今日 休んだら負けみたいな雰囲気もあったし。大学合格が目標というより、むしろその先の高みを目指していた感がありました。高校生ながらに!
松本 そこまで考えてなかったかも……。
近藤 学校よりオチャビに力を入れてた気がする。
今日 いい先生も多かったしね。
近藤 先生同士も、いまだに仲がいいみたいだよ。
今日 そうなんだ! いま考えると先生たちも20代前半で若かったよね。
近藤 実は年もそんなに離れてなかったんだよ。いまなら普通にお友達になれるね。
今日 ウブな高校生だったから、先生の言うことは金科玉条だったな。先生の言葉をメモったノートを受験前になくしてへこんだよ。
松本 講評もまじめに聞いてたよね。
今日 あきのちゃんが一番うまいんだけど、「うまいだけじゃね」みたいなことを言われてて、人ごとながらに「じゃあどうすればいいのさ」って思ってました。
近藤 何か、含蓄のあることを言われたような気もする……。
今日 もはや禅問答みたいだったよ……「好きな道を選んでも好きなことをやってちゃだめ」みたいな……。
松本 印象に残ってる言葉は、「モチーフのまわりの空気を描け」。当時は「空気?」と思ってたな。
今日 「空気なんて見えないよ!!」って。結局は空気が見えるようになるんだけどね。
近藤 「構図はどんどん変わっていく」とも言われた。
松本 「表現するとは」みたいな精神論も多かった。
今日 「デッサンは腰で描け!!」「ヌードモデルに恋をしろ」とも言われた。恋愛経験ないのに恋しろって無理ですよね。
松本 妄想力だね。
近藤 恋愛か……私はあの頃、本気で「たま」が好きだったから……。
今日 うちの弟とカセットテープ交換してた。
近藤 ああ、そんなこともあったね……。弟さん、元気かしら? 聴き過ぎてたまのカセットは全部伸びたよ。
松本 カセットの時代だったんだもんね。そういえば、マチ子先生と一緒にボアダムスのライブに行った。
今日 ボアにも参加してるzAkさんと、いま同じ現場にいるのを考えると感慨深いよ……。
近藤 3人で寺山修司の演劇にも行ったよね。
松本 アングラだねえ!
今日 寺山修司の映画も見に行った。私が誘ったんだけど、ふたりがドン引いてて悪いことしました。
松本 あれ、四谷のイメージフォーラム(実験的な映像作品を多く上映するシネマテーク。現在は渋谷に移転)の実験映像じゃなかったっけ?
今日 たぶんね、何回か行っているんだと思います。実験映像はイメフォじゃなくて横山ビル時代のアップリンク(インディペンデント作品を多く上映する映画館)に見に行った。
近藤 演劇はジァン・ジァン(渋谷の公園通りにあった小劇場。2000年に閉館)。
松本 そうだ、アップリンクにジァン・ジァン。思い出してきたぞ。
今日 寺山修司大好きでしたね~本もかなり読んでいた。だいぶ気持ち悪い女子高生でした。
松本 あとマイク・ケリー(1954~2012 アメリカの現代美術作家)も好きだった。
今日 そうだそうだ!! デストロイ・オール・モンスターズ(マイク・ケリーが所属していたバンド)とかね。
近藤 趣味がかぶっているところと、全然違うところがあるんだよね。マチ子先生はちょっとおしゃれな感じのものが好きだった印象がある。
今日 私は当時X-girlを着て、X-girlを着ている他の人の悪口を言っていたらしい。だいぶ自己矛盾を抱えています。あとはグランド・ロイヤル(ビースティ・ボーイズが運営していたインディ・レーベル)一派が好きでした。
松本 X-girl、着てたね。
近藤 まっちゃんは、天久聖一とか、おもしろいものが好きだったね。
今日 タナカカツキ的な漫画を描くのがうまかった。
松本 10代のバイブル、『バカドリル』だったから!
近藤 私はよく知らないけど、マチ子先生はオザケンとかも好きだったんでしょ?
今日 いや、わたしはJ-pop嫌いだった。
近藤 あれ?
松本 マチ子先生はもっとノイズ系だよ。
今日 日本のものだと暴力温泉芸者とかね。
近藤 そうなのか……たま以外の音楽は識別できなかったからな。
今日 ひどい!
近藤 ひどいのよ。当時もいまも。
まるで体育会!? 美術に燃える3人の女子高生たちはその後いかにしてモノづくりの道へと進んでいったのか…!? この対談の続きは、発売中の『ガールズ美術』でお楽しみください!