いま私たちに「もっとも有用な本」

「こういうときに読む本」って、どういうものでしょう。
ふと思うのですが、こういうときは「少年少女のための文学」が心鎮まるような気がします。
どうしてかな。
少年少女たちは社会的な能力もないし、支援も乏しいし、十分な敬意も示されない立場にいます。
けれども、その代わりに「小さいけれど確実な幸福」(@村上春樹)の素材を探し出し、ていねいに磨き上げて、味わい尽くすことについてはきわめて勤勉です。
そんな少年少女のありようが、資源に乏しい環境を生き抜くための知恵と力をもたらしてくれるからかも知れません。
 というわけで、いまお勧めしたいのは下記の5冊です。

1.
『十五少年漂流記』(ジュール・ヴェルヌ)

危機的状況を手持ちの限りある資源を最大限に活用して生き延びる少年たちの物語。危機管理と組織論の古典的名著です。

2.
『赤毛のアン』(ルーシー・モード・モンゴメリ)

自分のまわりの散文的世界を想像力だけで浪漫的に装飾するアンの能力は、資源にとぼしい環境を生き延びる上ではきわめて有用なものです。

3.
『若草物語』(ルイザ・メイ・オルコット)

マーチ家の四姉妹も、遠い南北戦争の戦場で苦しんでいる父の身を気遣いながら「安全なところにいる」自分たちにはいったい何ができるのかを思案していました。そして、彼女たちはさまざまな試行錯誤ののち、父への最良の贈り物は「大人になる」ことだと気づくのです。いい話です。

4.
『あしながおじさん』(ジーン・ウェブスター)

「そう願えば、思う存分勉強ができる環境にいる」ということがどれほど特権的なことか、日本の若い人たちは忘れているようですが、ウェブスターは、この小説の主人公ジュディにとって「学ぶ」ことがどれほど心弾む体験であるかを愉悦的な筆致で描いています。これを読むと、勉強したくなります。ほんとです。

5.
『飛ぶ教室』(エーリッヒ・ケストナー)

ケストナーの少年小説はどれもお勧めですが、一つだけ選ぶとすればこれ。「貧乏」と「孤独」という重苦しい現実をはねかえすのは少年たちの「プライド」と「友情」です。