最新刊『15歳から、社長になれる。 ぼくらの時代の起業入門』で、
はじめてご自身の専門である「起業」について本を書かれた家入さん。
「実際に起業してもいいし、しなくてもいい。
でも『起業って何か』くらいは、全員が知っておいたほうが絶対にいい。」
そう話す家入さんに、本書出版にあたっての思いを担当編集者があらためてお伺いしました。










 ――今回、家入さんは4冊目の単著ではじめて「起業」について書かれました。家入さんは企画段階から、この本を「中高生でも読めるようにしたい」とおっしゃっていましたが、それはどうしてですか?

 本のタイトルにもあるんですけど、会社って「15歳」からつくれるようになるんですよ。登記に必要な「印鑑登録」が15歳からできることになっている。
 実際、僕のまわりには中学生で起業した子が何人もいて、僕も最初は「意味わかんないなこいつら」って思ってたけど(笑)、彼らは彼らでちゃんと会社を運営してたりするんです。全然ふつうに。
 で、そういうのを見ていると、むしろ中高生くらいのほうが、時間があったり保護者がいたり、チャレンジしやすい部分があるのかも、って思うようになってきた。とりあえず、「早すぎて悪いことなんて何もないな」と思ったのが、この本の対象年齢を下げたかったひとつ目の理由です。

 で、もうひとつ理由があるんですけど、今の日本って「いじめられて学校に行きたくない」とか、「就職活動がうまくいかなくてつらい」、「会社の仕事が苦しすぎてやっていけない」、みたいに「追い詰められている人」があまりに多すぎると思うんです。
 人はつい、「自分が今いる場所が、自分のすべて」だと思い込んでしまいがちだし、だからこそみんな、苦しい場所から逃げたり、とりあえずその場所から離れてみる、ってことが、なかなかできなくなってしまう。
 でも、そこでなんとかして、一歩外の世界に踏み出してみたら、そこには全然ちがう人間関係や世界がいくらでも広がってるし、そうやって外の世界に居場所ができれば、「くだらないことで悩んでたなー」って感じになると思うんですよ。

 だから、実際にこの本を読んだ人が「起業する・しない」とかはじつは一番大事なことだと思っていなくて、とにかく、「こうやったら一歩、外に踏みだせるんだよ」「苦しいのは、自分が悪いからじゃないんだよ」みたいなことを、中高生でも大学生でも社会人でも、みんな常識として知っておくべきだと思ったし、伝えたかった。
 だから読者層も、できるだけ広げたかったんです。


 ――じゃあ、その「外に出て行く」手段のひとつとして、「起業」を提案する、ということですか?

 まあ、そうですね。これを説明しようとすると、丸ごと本の内容になっちゃうんだけど……(笑)。
 でも、「会社の仕組み」みたいなものを理解できれば、実際に起業する・しないにかかわらず、「いざとなったら、自分でも起業できるんだ」って気持ちになれると思う。
 それがあれば、少なくとも「食っていく」「生活していく」みたいな部分においては、すごくハードルが下がると思うんですよ。



 ――普通は、みんな「会社でやっていけないのに、起業なんてできるわけないじゃん」と思いそうなところだけれど……。

 それは絶対に言われるんですよね。「起業」を大学生にすすめたり、この本みたいに中高生を意識したりすると、「家入が学生をたぶらかしてる」みたいなことを絶対に言われる(笑)。

 でも、2006年に今の会社法ができてからは、株式会社も1円でつくれるようになったし、ネットが本当に普及してきたことで、ほとんど初期費用をかけずに事業を始めることができるようになった。「もうひと昔前とは、『起業』っていう概念がまるきり違うんだよ」ってことを、もっとみんな意識したほうがいいと思う。

 そもそも、「就職」っていうのは、そこに会社があって、社長がいて、社長が「採用!」って言ってくれないとできない。でも、そこになにもなくても自分ひとりで「起業」することはできる。
 世の中、会社が求める「コミュニケーション力」がある人ばかりじゃないから(笑)、「就職できないけど起業はできる」って子がいても全然おかしくない。「就活」に追いつめられたりするくらいなら「起業」すればいいよ、って、誰かが本気で教えてあげないとダメだと思ったんですよ。


 ――なるほど……。じゃあ、そういう思いを込めてこの本をつくっていくなかで、家入さんが特に意識した部分とかってありますか?

 意識……。まあ、「中高生でもわかるように」って部分で、振り仮名をふったり、イメージしづらい部分は図解してもらった、っていうことと、あとはとにかく「流れを理解できるように」ってことは考えましたね。
 会社をとりまく全体像がわかったほうが絶対に面白いから、「株」「上場」「増資」とかから「自己破産って何か」「倒産したらどうなるのか」まで、ひと通りのことは網羅したつもりです。


 ――たしかに、結構踏みましたよね。どうしてそこにこだわったんですか?

 なんか、僕は「自分がいる場所の仕組みを知ること」って大事だと思うんですよ。
 仕組みを知れば、会社のことにももっと興味を持てるだろうし、相手がどういうロジックで考えて、行動しているのかも見えてくる。
 だから、「国ってどういう仕組みで回ってるの」、とか「政治ってどういう仕組みで回ってるの」、とかと同じように、「会社ってどういう仕組みで回ってるの」、っていうのを知ってもらえたらいいなと。

 そもそも、普通に働いてる会社員でも「会社の仕組み」っていまいちわかってなかったりするし、「会社って何」、みたいな根本的な部分もはっきり説明できなかったりするじゃないですか。
「会社が増資をしました」みたいなときも、「増資って何か」をきちんとわかっている人って多分意外と少なくて、みんな「なんとなくいいこと」くらいにしか捉えてなかったりするだろうし、そういうのってもったいないと思うんですよね。
 細かい制度みたいな部分は専門書や専門家に任せるとしても、ざっくりと、会社にかかわる「流れ」を理解できれば、新鮮な発見があると思う。
 だから、「起業に興味はあるけど、何からすればいいかわからない」って子にももちろん読んでもらいたいし、逆に、「起業には興味ないけど、会社のことちょっと知りたいな」みたいな子にも読んでもらえたらいいなと。


 ――そして会社のことをいまいちわかっていない社会人の人にも。

 そうです、そうです。すでに会社で働いている人とかも、この本を読んだら、また違う視点で会社を理解できる部分もあると思うんですよ。「ブラックだ」「社畜だ」ってグチりながら働くんじゃなくて、一度、「経営者の視点」で考えてみれば、もしかしたら、「たしかに、同じ給料を払うんだからめいっぱい働いてほしい、って思う経営者がいてもおかしくないかも」、とか、「あ、こういう人はリストラしたいな、って思っちゃうかもしれない」とか、何か見えてくるものがあると思う。

 たとえば僕も、一応就職をしていた時期もあって、その後で会社をつくったわけだけれど、やっぱり経営するようになってから、「面接ってこういう子のほうが採りたいと思うな」、って思ったりしたし。


 ――それはたとえば、どういうことですか?

 たとえば、……文字は汚いよりはきれいなほうがいい、とか(笑)。
 いや、僕も汚いんですけど、汚くても丁寧に。ヘタでもいいんだけど、雑な感じで書かれていると、やっぱりテンション落ちるんですよ。「ああ、そんなもんか。入りたいと思ってないのか」って。それだったら、むしろパソコンで打った履歴書のほうがよっぽどいいなと思う。
 写真の貼り忘れとかも、「そんな程度なんだろうな」って結構テンション下がるし、「会社の住所を電話でいちいち聞いてくる」とかも、そんなのホームページに載ってるんだから調べてこいよ、って。
 すごい細かいことに思えるかもしれないけれど、「経営者の視点」で考えたときに、自分はまあ、今いる会社の中でどういうふうにみられているのかな、っていうことを相対的に、具体的に知ることができるんじゃないかな、っと。


 ――家入さんのところには、30歳前後とかで、「起業って働き方が気にはなるけど、今の安定を捨てて起業すべきかどうかわからない」って人も相談に来ると伺いましたが、そういう人には、この本をどう読んでもらいたいですか?

 本でもすごく強調した部分ですけど、「何かをするために、何かを捨てる」っていうのは、本当に最後の最後の手段で、それまでに取れる手段がいっぱいあると思うんですよ。

「30歳前後で会社員」、とかだと、ぼちぼちの給料をもらいながら生活している人が大半だと思うし、人によっては結婚してたり子どもがいたりするかもしれない。
 でも、「その生活を守りながら、次の一歩を踏みだす」、っていうのは働きながらでも絶対にできる。「夢を追いかけるために、いまの生活をバッサリ切ります」みたいなのをみんな「美談」と捉えがちだけど、そういうのは美談でもなんでもない、むしろ愚か者がやる行為で、僕はそういう決断なんてまったくいいことだと思わない。

 だから、まずは自分のできる範囲で始めてみる。そのやりたいことっていうのは、今いる会社でも頑張ればできることかもしれないし、どうしてもできないなら、夜の時間とか土日の時間とかを使ってとにかく始める。

 いろんな人に会うとか、自分のプランを具体的に磨いていくとか、いろんな準備の仕方があると思うんだけど、働きながらできることって自分が思うよりもたくさんある。ある程度、そういうことにめどがついて、「本当にひとり立ちできるな」、ってタイミングではじめて会社をやめればいいんじゃないかな、と思いますね。


 ――「何かをすぐに切ったりせずに、できる準備からはじめていく」っていうことですね。そういう意味では、どんな年齢でもあまり準備のやり方は変わらない、ということですか?

 うん、基本的には同じだと思いますね。本当に今の会社が幸せで楽しくて、やってる仕事も好きで得るものも大きいと思っているんだったら、ムリに飛び出す必要はないと思うし。
 
 ただ、ひとつ付け加えるなら、やっぱり30歳ってぎりぎりのラインだと思うんですよ。
 やっぱり30を超えてくると、どんどんどんどん背負うものが増えていく。自分の体力も落ちていくし、妻子だったり、親の老化だったり、業務的にも責任のあることを任されることが出てくるかもしれない。今の立場を捨てることがしづらくなっていく。
 だから、さっき話したように、会社の裏でやりたいことをやり続ける、っていうのもひとつだけど、どっかのタイミングでアクセルを踏もうと思っているんだったら、なるべく早く踏んじゃったほうがいいとは思う。
 やっぱね、いきなり起業してうまくいく保証なんてないんですよ。
 全然失敗する可能性だってあるし、実際に、ある程度の数の人たちは毎年廃業されてるわけで、どうせアクセルを踏むんだったら、ダメージが少ないうちにやっちゃったほうがいい。
 そのぎりぎりのラインが、僕は30くらいなんじゃないかなと思ってます。やっぱり、子どももいて、奥さんもいて、アクセル踏んで失敗して、目も当てらないような状況になるっていうのは結構ツラ過ぎるし、それを100%防ぐ、っていう方法はなかなかないと思うんですよ。

 一方で、やっぱり年功序列とか、終身雇用とか、そういうのが見込める会社ならまだいいけど、そういう時代でもなかなかない。そのなかで、「今自分がいる位置」っていうのを常に疑ってかかる必要はあると思う。「俺はこの場所にずっといていいのか」っていうのを、常に自分の頭で考えていったほうがいい。
 別に起業を煽るとかじゃなくて、ほんと何が起きるかわからないんだから、いざっていう時に戦える武器をつくっておかないと。


 ――それは多分、社会人だけじゃなくて、みんなに言えることですよね。ちなみに、家入さんの読者さんには大学生の人も多いと思うんですけれど、何かメッセージとかはありますか?

 いつも言うことだけど、僕は、大学っていうのは仲間をつくる場だと思うんですよ。
 大学生のあいだはそこに自分の軸足を置いていられるし、自分がどう生きていきたいのかを考える「余白の時間」だと思っている。だから、その猶予期間をめいっぱいつかっていけばいい。
 その方法は人それぞれで、サークルに所属したり、本気でインターンしたり、僕らがやってる Liverty ってチームに入ってもいいし、休学して世界を旅してみてもいい。今はいろいろなコンセプトのシェアハウスもあるから、そこに飛び込んでみる、っていうのもひとつだし、休学して起業してみるでもいいと思う。それでダメだったらまた復学すればいいし、うまくいけばそのまま大学をやめて、経営者の道を歩んでもいい。とにかく、本当にいろんなやり方がある。
 だから、とにかく「大学生」って立場をつかって、いろんな居場所をつくっておけば、それが自分の生きる場所になっていくと思う。

 就活を否定するつもりもないし、就職を否定するつもりもないけど、いざじゃあ就活が全部だめだったとか、就活なんてしたくないとか、そうなったときに行ける場所が自分の家しかなかったら、それじゃあお前どうすんの、っていう話になっちゃう。
 でもなんか、仲間だったりをつくっておけば、就活に失敗しても就活をしなくても、もしかしたら生きていけるような居場所がそこに生まれるかもしれない。
「吉牛だったら、月に1回おごってやるよ」みたいな友達を30人確保できたら、とりあえずは生きていけるわけじゃないですか。そういうつながりは大学生のうちにたくさんつくっていけたらいいと思いますね。


 ――なるほど。じゃあ、ちょっと話は戻りますが、さっき出た「自分が今いる位置」を確認する、っていうのは、具体的にはどういうことですか?

 うーん……。たとえば、「内定ももらっているけれども、起業もしたくて、どうしたらいいのかわからない」みたいに悩んでいる子がいたりしたら、僕は、仲がいい子とかなら「もう内定なんか蹴っちゃえよ」、って言っちゃうんですよ(笑)。
 これは、もちろん自分の頭で考えないといけない話なんですけど、たとえば「今3000人くらいの大企業に入る」、「10人くらいのベンチャーに入る」、「自分で起業する」、この3つの選択肢があるとするじゃないですか。
 これってつまり、「3000分の1の仕事を任される人間として働く」のか、「10分の1のメンバーとして、会社自体をつくっていく段階に参加する」のか、もしくは「自分で会社をつくって、最初はもしかしたら1人かもしれないけれど、とにかく自分で会社をつくっちゃう」。――どれが一番楽しいと思う? って話だと思うんですよ。

 で、一般的には、人数が少なくなるに従って「リスク」が高くなっていく、って思われるかもしれないけれど、その「リスク」ってものを、ちゃんと自分の頭で考えてみる。
 正直、「社畜」だとか「ブラック」だとかいわれる時代に、病んでしまうリスクを抱えながら自由のきかない大企業で働くことと、自由に意見したり行動できる雰囲気のなかで、のびのび会社を一からつくっていくこと、どっちがハイリスクでローリスクなのか、僕にはわからない。
 
 それは、ひとりひとりが自分の頭でしっかり判断していけばいいことだと思うんだけど、そうやって考える材料を得る意味でも、この本をじっくり読んでもらえると嬉しいし、大人の人が読んでも、かなり読みごたえがあるものになってると思います。


 ――家入さん、ありがとうございました。



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2013/10/31 更新
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    連続起業家として「ロリポップ! 」「ブクログ」などを制作し、40社以上のベンチャー企業に投資してきた著者が初めて語る、軽やかでフラットな「ぼくらの時代の起業論」。

     
     

  • 家入一真(いえいり・かずま)

    1978年福岡県生まれ。中学2年から高校3年まで引きこもりを経験し、その後深夜バイトや新聞奨学生を経て起業。国内最大手のレンタルサーバー「ロリポップ! 」をはじめ、「ブクログ」「CAMPFIRE」「BASE」など、数々のトップサービスを立ち上げる。2007年、JASDAQに当時最年少上場。現在はベンチャー企業へ投資を行うかたわら、起業集団「Liverty」代表として活動している。Twitter @hbkr