『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』刊行記念として
著者の牧村朝子さんと永田カビさんの豪華対談です!
お互いの作品のことやLGBTのこと、存分に語って頂きました。




 この度『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?ー聞きたい!けど聞けないLGBTsのことー』刊行記念として、著者の牧村朝子さんと『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』が大好評の永田カビさんの豪華対談を行いました。
 おふたりに共通するキーワード「レズビアン」、そして本書籍のタイトルにかけ、「レズビアンカップルに萌えたら迷惑ですか?」と題してお届けします。


牧村朝子
タレント、文筆家。株式会社オフィス彩所属。2010年度ミス日本ファイナリスト。2013年、フランスでの同性婚法制化を機に結婚。著書『百合のリアル』(星海社新書)ほか。ツイッター@makimuuuuuu(まきむぅ)


永田カビ
大阪在住のマンガ家。著書に『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』。ヒバナ(小学館)のpixivコミックで連載した『一人交換日記』の単行本が12月10日発売。



◯性のことについて当事者でない人はいない。

──おふたりはお互いの作品を読まれたそうで、どういう感想をもたれましたか?

牧村朝子(以下牧村):本当に他人事じゃなかったです。

永田カビ(以下永田):え、そうでしたか。うれしい。

牧村:はい。でも今回永田さんとお話させていただくにあたって、はっきり言いますね! (永田さんに)まぶしいと思われるんじゃないか、自分とかけ離れた存在だと思われるんじゃないかって、交際経験があるかないか、パートナーがいるかいないかで、永田さんに境界線を引かれてしまうんじゃないかな、という淋しさは抱きながら来ました。

永田:あー、なるほど。でもこの歳になると、周りがそういう人ばっかりなので、いちいちまぶしいとか言ってられないという感じがあって(笑)、あと、牧村さんがホントに過去に色々悩みながら、男の人とも無理矢理つきあったりして、試行錯誤しながらようやくここまで辿りつかれたのを読ませていただいていたので、まぶしいどころか、頑張って幸せになられたんだ、すごい! という想いのほうが強くて。

牧村:ありがとう。

永田:周りの人で、私が一番まぶしいって思う層が、普通に男性と結婚とかもしてて、なのに女友達と自然な感じでイチャイチャしてて、「(女性同士でも)そういう行為もするよねー」みたいなことを言う人で、実際私の周りの既婚者の友達に2人いるんです。「女同士でも一緒にお風呂とか入るよねー」とか、「なりゆきでそういう行為になったりすることもあるよねー」って言ってて、私は「なんでそんなことになるんだ、ならないだろう?」と思うんですけど、そういうことを事も無げに言う子達が、個人的には一番まぶしかった(笑)。

牧村:今でもまぶしい?

永田:まぶしいですね。周りのたまたま仲のいい友達2人が、さらっとそういうこと言うので、めちゃくちゃまぶしいですね。

牧村:なるほどー。

──まぶしいプラス、いいなーとも思ったりしますか? そういう関係性に萌えたりされますか?

永田:そうですね。いいなーって感じですね。そんなふうになってみたいもんだっていう(笑)。萌えるっていうよりもうらやましいっていうのが強いですね。

──永田さんは、今回牧村さんの『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』を読まれてどう思われましたか?

永田:もう「そうだそうだ!そうなんだよ!」と思うところがいっぱいあって、この「肉体を持って生きている限り、性のことについて当事者でない人はいない」っていうのが、もうホントにそうなんだよ! と思って。「かわいそうなLGBTの人達を理解して支援してあげましょう、みたいな話じゃなくて」っていうのもホントにそうで。全員肉体を持っていたら、性のことに関わらないといけないわけで、特別な問題じゃないし、ネット上でも当事者対非当事者とか男対女みたいな構図にすぐに陥りがちですけど、それはホントに水掛け論でしかなくて、全員必ず関わっていることですし、それぞれに苦労があることだと思うんです。関係ない人はいないんだよっていうのは、私もずっと思っていたので、ホントに「そう、そう、そうなんだ!」ってすごく思いました。


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牧村:そうですよね。やっぱり男対女とか、LGBT対非LGBTとか、モテる人対非リアとかね(笑)。そういう構図にしたほうが、しゃべってる人が楽しいし安心するんでしょうね。結構人と向き合うってエネルギー使うから。
 (本の)帯にも書いたけど、「あなたとわたし」の関係でしかないんだけど、これってめっちゃエネルギー使うことだし、逆に「あなたとわたし」をしっかり重ねていくと、ものすごい「わからなさ」に対峙しないといけないんですよね。「わたし」がわからないもん。

永田:そうなんですよね。人間の脳みそってわからないモヤっとしたものをわからないままにしておく、っていうのがすごく苦手みたいで、名前をつけときたいとか、これとこれは真逆のものって決めておきたいっていうのがあるから、「あなたとわたし」でいるってことは、絶えざる努力が必要ですよね。すごいしんどいことなんじゃないかなって思います。

牧村:ねえ。なんか“めっちゃ消化に時間かかるけど、すごい栄養ある食べ物”みたいな。だから大変なんだけど「あなたとわたし」を重ねていかずに「やっぱり男の子ならこうよね」とか「LGBTじゃない人には気持ちわからないよね」っていう接し方してると、自分の栄養にならない、自分が成長しない、自分が狭いところに留まっちゃうって、結局自分のことなんだと思うようになりましたね。自分に言い聞かせているだけかもしれないけど。


◯LGBTとそれにまつわる言葉って。

──この本の中で、最初は「レズビアン」とか「ゲイ」だとかっていうのが公に言いづらいから「LGBT」という言葉ならいい、「LGBT」を使いましょうってなったけど、今度は「LGBT」っていう言葉がひとり歩きして、あの人は「LGBTさん」みたいになっちゃう時もあるっていうくだりがありますけど…。

永田:ああ、もうそうなりつつありますよね。どこかのニュースサイトで「彼はLGBTだったので」みたいに書いてある文章を見て、LGBTはそれぞれ違う単語なのに、「彼はLGBT」っていう表現は、あまりにもおかしいぞ! って思ったんですけど、もうすでにそういう状態に陥ってますよね。

──『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』でも、最初はタイトルに異論反論ありましたよね。もう何が不謹慎で何が不謹慎じゃない言葉なのか、難しいですよね。

牧村:あ! 超今さらなんですけど、永田さんってお呼びしていいですか?

一同:笑。

永田:なんとでもどうぞ(笑)!

牧村:永田さんは最初(pixivで連載していた当初)、「ビアン風俗」という言葉を使ってらっしゃいましたよね。

永田:そうですね。そっちのほうがクレームとか来ないかな? って思っての判断だったんじゃないかと思います。

牧村:「ビアン」っていう言葉を使うことによって、レズっていう言葉が嫌がられること知ってるんだぞ、ビアンって言ったほうが無難なの知ってるんだぞ、っていうアピールができますよね。
 でも、それが単行本になって「レズ風俗」っていう言葉を使いますってなった時、どう思われましたか?

永田:私のほうで(タイトルが)なかなか浮かばなくて、編集部のほうから提案していただいた時に「あ、これだこれしかない」と思って、これでお願いしますってなったんです。それでその時「レズ風俗」って表記も、ここを変えたらリズム感が損なわれるから、仕方ないだろうと思って、もし怒られるなら怒られようと思いました。

牧村:リズム感。

永田:そうなんです。それで今回の「レズビアンカップルに萌えたら迷惑ですか?」ていうテーマに関係が出て来るかもしれないんですが、本来は『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』なんですけど、本屋さんで買われた方の中に「レズ風俗」と「レポ」のほうにしか目が行かなかった方がいらっしゃったみたいで、「全然スケベなシーンがないじゃないか!」ってamazonレビューとかに書いてらっしゃる方がいて(笑)。

牧村:ほんとにー? あはははは!!

永田:「抜けなかった」とか、激怒されている方もいらして(笑)。

一同:爆笑。

永田:正直もんだって思いましたけどね。エロく描けなくてごめんねって。

牧村:確かにねー。この間レズっ娘クラブの御坊さんとお話させていただいた時に、「レズ」って言葉について、あの方は“行為”の名前として使われているんですよね。あの方にとっては。ご本人に確認しないといけないですけどね。
AVのジャンルであるとか、行為の名前であって、本人のアイデンティティには関係ない。
 「レズビアン」というのは、行為ではなく人間についてる名前なので、その辺の違いって大きいですよね。「レズビアン風俗」だったら、レズビアンの自認がある人じゃないと利用しづらいですけど、「レズ風俗」だと、その行為を目的にした人が利用するから。だから「レズ」っていう言葉で嫌な思いをする人もいれば、敷居が下がって入れるようになる人もいる。
*『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』内に登場するお店の店長さん。

永田:なるほど。そうですね。

──色んな人に気を遣うと、結局どの言葉を使えばいいかわからなくなりますよね。『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』にも出てきますけど、最終的にLGBT…ABCDEFGH…みたいになっちゃったり…。

永田:そうですね。だから私も最初のpixivに上げていた時のタイトルは『女が女とあれこれできるお店へ行った話』ってつけたんですけど、そのほうがわかりやすかっただろうっていうのと、そういう属性の名前みたいなものを使うよりかは、こっちのほうがいいんじゃないかっていうのがあったんですね。

牧村:うん。マジでそれですね。私も「女を愛する女」という表現を使ってます。
 やっぱりレズビアンとかゲイっていうのは、日本ではまたちょっと違う流れを辿りましたけど、(世界では)政治活動のことがあったんですよね。なので、政治の目的がある程度、完璧ではないですけれど、達成されてきている現状で、それを名乗らされる義理はないですし、「レズビアンです、ゲイです」って名乗ってきた人達が何を目指してきたか、っていうと、そんなことを名乗らないでも存在が認められる、好きな人を好きって言える社会になって欲しいから、それを名乗っていた。
 1993年に「同性愛は病気ではない」(WHOによる発表)ということになりましたけど、そのおかげで、「レズビアンとは何か」「ゲイとは何か」という客観的な判断基準がなくなった。だから人から決められる言葉ではなくて、自分が名乗るかどうか決められる言葉にその時からなった。
 レズビアンって何? っていう時代になってきてるのかな。

永田:だからそれこそさっきまぶしいって言った友達みたいな、男性と結婚していても「女の子同士だからそうなるでしょ」って、自然にそういうことを言えたり、自己紹介で「レズビアンです」とか「私はバイです」って名乗らなくても、友達同士でそうことになったり、イチャイチャしてる女の子が実際いるっていうのは、いい感じの流れになってきてるのかな?

牧村:でも、そのイチャイチャってどのぐらいまでのことなの?

永田:本当にそういう行為をしたって言ってましたよ。そういう雰囲気になったから流れでしたって。「そうなるよね」って言ってました。

牧村:え? 本当に?

永田:なんなら女の人とした回数のほうが多いなんて言ってて…それでいて男性と結婚して、子どももいたりとかするっていう。そんな人が普通に友達にいて。

牧村:えぇ! じゃ、私もそういうふうに生きる! 

一同:笑。

永田:そんな自然にいくもんか? なんじゃそれは(笑)って思ったんですけど。コツがあるなら教えてくれよっていう感じだったんですけど。

牧村:でもホントにいるのかな? って思っちゃう。ペガサスかなんかの話聞いてるみたい。
 でも、確かにそういう方がいらっしゃるなら、流れとしてはいいことなのかもしれないですね。そういう未来を夢見てどれだけの人が血と汗を流したかっていうのを思うと、いいことなのかもしれないけど、信じ切れてない自分がいる(笑)。

永田:信じたくないっていうのもありますよね(笑)。


◯自分と同じ人はひとりもいない。

──そういえば、さっき永田さん『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』のLGBT年表見て驚いてましたね。

永田:ああ、そう。この年表すごいですよね。すごい情熱だなって思ったんですけど。この(年表にある)1919年は、うちの実家のおばあちゃんが生まれた年なんですけど、この年に吉屋信子さんという方がこういうことをされてた、そんな時代だったんだって、驚いて。この辺り読んでて凄惨なことも起きまくってて、当時生まれた人がまだ生きているぐらいの時代に、こんなことが起こってたなんてってびっくりして。


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牧村:そうなんですよ。私ももちろん、私が生まれてなかった頃のことは、実際見てきたわけではなくて資料を調べて書いたんですけど……資料に残っているだけでこれなわけですよ。残っていない人もたくさんいるわけで。
 LGBTって名前もなくて、ゲイ、レズビアン、同性愛って言葉がなかった頃に、自分が何者なのかわからなかった、自分のこの気持ちがなんなのかわからなかった、自分だけがおかしいんじゃないかって思った、色んなことを誰にも何も言えないまま死んだ人がたくさんいたんだと思う。
 でも、自分みたいな人は自分だけじゃないんだ、って思わせてくれた言葉が、ゲイであり、レズビアンであり、バイセクシュアルであり、トランスジェンダーであり、この本の用語集に載っているような言葉だったと思うんですね。ただ、その言葉があることで新しい“分断”も生んじゃうんですよね。レズビアンでなければレズ風俗に行ったらいけないのかしら、とか。

永田:そうですね。それとかさっきも言いましたけど、みんなの話なのに当事者対非当事者の水掛け論みたいになってしまったり…ね。

牧村:ねえ。1回それぞれが名乗ってみて、色んな人がいるんだねっていうのが見えてきて、どんどん言葉が増えてって、その結果、あ! 自分と同じ人なんてひとりもいないじゃんっ、ていう、世界中の人に共通する孤独になればいいかなって。

永田:あ、SOGIっていう言葉が生まれているのをこれを読んで初めて知ったんですけど…。

牧村:ああ。SOGIって言葉もこれからどうなっていくかわからないのね。SOGIに「E」をつけるかつけないかっていうのも議論が出てるんですよね。SOっていうのは「Sexual Orientation 性的指向」で、GIは「Gender Identity 性自認」で「E」は「Expression 性表現」っていうのをつけるかつけないかっていう。ホントにみんなバラバラだし、自分みたいな人はいないし、自分っていう存在も、今永田さんが『一人交換日記』描いてらっしゃるけど、一瞬一瞬変わっていくもので…。ホントに…孤独。でもそれは悪いことではなくて、みんな孤独だってことで安心して、そこで初めてみんなと繋がれるっていうこともあるのかな? って。それっていうのは一回バラバラになって初めて実感が湧くことなのかなって思うんですよね。一回分断されて統合するってプロセスが満たされるためには必要なのかな、って。

永田:うんうん。

牧村:だから『一人交換日記』を読ませていただいて、お母様とどうやって分離するかっていうことを描いてらしたでしょ。すごくマンガの力だと思うんですが、忘れられない表現があって、永田さんとお母様がシャム双生児のようにくっついていて血管が通っている絵を描いてらしたでしょう? それを読んで「あー!」と思って…。




『一人交換日記』(小学館)5通目P7より


永田:ホントにまさにああいう感じだったんですよ。

牧村:あ、もう過去形なのね。

永田:そうですね。今はひとり暮らしをしてて、最初は(母親が)めちゃめちゃ家に来るんじゃないかとか、毎日連絡が来るんじゃないかって心配してたんですけど、思ったより放っといてくれてて。まだ繫がっている部分もあるかもしれないけど、だいぶあの状態からは、”二対の人間の姿”になれてきたんじゃないかな、って思ってはいます。

牧村:血はすぐに止まりましたか?

永田:結構血をダラダラ流しながらの作業ではありましたね。淋しいと思ったり、お母さんに連絡して的外れなこと言われたり、それを繰り返したりしながら。…でもだんだん離れて、お互いに推敲したメールを送り合うようになって、考える時間もできて、整理された会話ができるようになっていって、それでちょっといい感じになってきましたね。

牧村:ああ、よかった。完全に全部過去形で語ってらっしゃるから。
 ここ1年ぐらいで結構バスッと手術された感じだと思うんで。血の出方ががすごかったんじゃないかって思ったんです。短期間の出来事だと思ってたんで。


◯「伝える」ということ。

──おふたりとも、そういうご自分の生きづらい部分を含め、「描く、書く」ことで表現されていますが、作品を作ることで自分自身の癒しになったりすることはありますか?

永田:そうですね。(自分が描いたものを)読んでもらえて、楽しんでもらえたらすごく嬉しいので。救いになって欲しいというのは、ちょっと傲慢な感じがするんで、エンターテインメントとして楽しんでもらえたら嬉しいなって思っています。私は自分の中にあることしかわからないので、自分のことしか描けないですけど、それを丁寧に赤裸々に真摯に描くことによって、どこかに普遍的な部分って描けるかな、って思うので、それを読んで「わかる!」ってなったり、「私と一緒だ」とかって思ってもらえたら嬉しいです。でも一度「全然違う国のことみたい。違う生き物の話みたい」っていう感想をいただいたこともあって、それはそれですごく面白くて、なんかとりあえずエンターテインメントの作品として、なんかしらの反響をもらうことが嬉しいです。描くことによってわかることも、整理されることもありますしね。

牧村:そうですね。永田さんがおっしゃるように、読者さんから感想いただいたり反応がくるのは、確かに癒しになってますね。
 でも、私にとって「作る」こと自体は「孤独の再確認」でしかないって思ってます。自分が書いたことが伝わってないこともあるし、自分が思ったように伝わることって100%ありえないと思うんですよ。さっきの『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』って書いてあるのに、「レズ風俗」しか見てない、っていうのもありますし、そういう意味で書いたんじゃないのに、怒らせちゃったな、ってこともありますし…。だからどうせ伝わらないのかな? と思いながら書くのはすごく淋しいし、うん、すごく淋しいですよね。癒しではない。でも、その淋しさっていうのは、さらに伝えようとすることでしか癒せないので、淋しくて書いてますね。

永田:これは連載の時に描いたかな? 本が出た時に、ある方からいただいた感想で「孤独っていうのは物理的にひとりぼっちであることではなくて、自分の能力とか人格とかを周りの人から認められないことだって僕は思っています」っていうのがあって、それがなんとなく印象に残っていて、「あ、こういうことか」って思ったんですね。私が描くことで仕事になってる、それをお金を出してまで読んでもらえるって、「自分の能力を認めてもらってる」ってことだから、それは孤独が癒される作業ではあります。

牧村:描くこと自体がですか?

永田:うんそうですね。苦しみももちろんあるんですが、描いたり打ち合わせしたり、っていう仕事全部がそうですね。能力を認めてもらってるから仕事をいただけるし、それに金銭が発生して、読んでくれる人もいて…というその全てが能力を認めてもらっているんだって思うと、それで孤独が癒されてる感じはしていますね。

牧村:じゃあ、永田さんの中では、描くことと世に出すことを分けて考えてないんですね。描く時に世に出すことを見据えながら描いていらっしゃる。

永田:そうですね。私はだから描く時にそんなに淋しくはないかもしれないです。

牧村:だから響くんですね。だから伝わるんだ。

──でも、まあ描くこと&書くことは、単純に物理的に孤独な作業ですよね。

牧村:うん。単純に人に会わない。

永田:外出ない。

一同:笑。

牧村:じゃあ、誰にも読んでもらえなかったり、依頼がなかったりしたら描かなくなったりしますか? 仮にね。仮にですよ!

永田:いやあ、また読んでもらえるようになるために、仕事をもらえるようになるために、必死に動くと思います。

牧村:ホントに描くことで繋がってるんですね。

──牧村さんは、ご自分のことを書かれる時と、今回のLGBT史の取材や例えば『ルネおじいちゃん』の連載などで、他の方の生きづらさなどを描く時とどちらが淋しいですか?
* cakesでの連載。『ルネおじいちゃんと世界大戦』。

牧村:うーん、何を書くか、書く書かないとかの前に、そもそもそ私は「言葉を使うこと」が淋しい。今淋しい! 私(笑)。

永田:(笑)100%伝わるわけはない! ってなると、それはまさに人と人との境界そのものになりますものね。

牧村:そうなの。たったひと言でも、同じ日本語を母国語とするもの同士が「りんご」って言ったとして、どのぐらい赤いりんごなのか、青りんごなのか、切られているのかいないのか、りんごが好きな人はニコニコするかもしれないけど、嫌いな人はうーんってなるだろうし…、同じ言葉が違うイメージを生む、このことがすごく怖くなる。名詞ですらそうだから。みんな同じ音を発音したとしてもこんなに違うっていうことが、たまに…すごく崖を覗き込むような気分になる。見ちゃダメだ、見ちゃダメだって。



*『同居人の美少女がレズビアンだった件。』P115「ピースオブケイク」より。

永田:あーなるほど。

牧村:あとやっぱり今まで生きてきた中で、「レズビアンなのだろうか私は」というのを問い続けてきたし、レズビアンっていう言葉と自分との距離の取り方を10歳から22歳までずっと考えてきたので、それで言葉が怖いのかもしれない。
 だから「レズビアンカップルに萌えたら迷惑ですか?」って実際聞かれたこともあるんだけど、ものすごく淋しい。それってだって「レズビアンさん」とお話してるんだもの。

──本の中にもありましたね。

牧村:そう。「牧村朝子さん」とその人との対話が成立していないし、どうしようもない“レズビアン”っていう壁がある気がしてすごく淋しい。

──なるほど。

牧村:レズビアンって言葉が悪いって言ってるわけじゃないですよ。だけど、淋しい。
 …あ、『一人交換日記』を拝読して、これ永田さんとお話したいと思ったことがあるんです。第4回で「代価を払って人に手伝ってもらえたり、実家以外に信頼関係が築けてる先がある人になりたい」って描いていらっしゃるのね。「代価を払って」って! と思って。今でも同じこと思っていらっしゃいますか?

永田:うーん、そうですね。代価を払ってっていうのは、ある程度ちゃんと稼げていて、もし必要があって自分のできないことがあれば、それを専門の職業にしている方に頼めるってぐらい自立している人間になりたいっていう気持ちで。

牧村:あー。そういうことだったんですね。
 なぜここについてお話したいと思ったかというと、私が心療内科に通った時に、お医者さんとすごく印象に残る会話をしたのね。その時私はすごく苦しかったし、ご飯が食べられなかったし、寝られなかったし、トイレに行くことも忘れてたし、なんかもう幽体離脱してるみたいな感じで、とにかく本当になんにもできない感じで…。あきらかにやばいでしょ。それで心療内科に行かなきゃって思ったんだけど、その前に周りの人に相談してはいけないって思ったの。なんかもう臭いし、何もできてなくてぐちゃぐちゃになっている自分を家族や友達に見せてはいけない、「辛いの苦しいのなんにもできないの!」っていう話をしても人はきっと困る! と思って。
 じゃあ、お金を払ってしかるべき所に行って、専門家の人にちゃんと「代価を払って」話をしないといけないと思って、それでお医者さんに行ったら、そのお医者さんが、「私のところに来る前に、お友達とかご家族の方に相談しましたか?」って聞いてくださったのね。それで「しませんでした」って言ったら「なんでですか?」って聞かれて。「そういう自分のことを聞いてもらうためには、ちゃんと代価を払わなければいけないと思いました」って言ったら、「じゃあ、あなたが友達だと思ってる人に、あなたが家族だと思ってる人に同じことを言われたらどう思いますか?」って言われて。「…辛いです」って言ったんです。「そう思うんだったらあなたが大切だと思う人と話をしたら?」って言ってくださって。

永田:あー、なるほど。

牧村:ホントにその時は、自分に自分でものすごい安い値札をつけてたんですね。話を聞いてもらえる価値のない人間なんだから、お金払わなきゃいけないって思ってたの。自分に札つけてるのって自分なんだなって。でも、自分の大事な人に、「私なんて0円よ」って言われたら悲しいし、自分が何より淋しさの源だったんだな、って思ったの。だからこの「代価を払って」っていうのを読んですごく考えて気になって。
 でも永田さんと今お話して、それは「代価を払えるくらい経済的に自立していたい」って意味だということを聞いて、良かった、って思って。
 …これも伝えることの怖さの一例ですかね。

永田:ああ。なるほど。そうですね。ここはちょっと言葉足らずだったかもしれないですね。そう捉えられる可能性はすごくあるのだから。確かに伝えようとすることは本当に難しいことですね。

牧村:でも永田さんは絵っていう手段を持っていらっしゃるし、見て伝わる部分は大きいですよね。だから人は歌ったり踊ったりおセックスしたり…、言葉だけじゃないコミュニケーションをするのかな?


◯萌えるって何?

──今回対談タイトルを、新刊のタイトルにかけて「レズビアンカップルに萌えたら迷惑ですか?」といたしましたが、そもそもおふたりが萌える恋愛の形っていうのをお聞きしてもいいですか? 例えば映画とかマンガとかで言うと…。

永田:私あんまり映画見ないんですよ。すみません。萌えるシチュエーションっていうか、私は腐女子、っていうかガッツリこっち系(『ゲイカップルに萌えたら~』を持ちながら)なんで(笑)。だからすごい良いタイトルだと思うんですよ!
 腐女子的な萌えをしてる人は絶対このタイトルにドキっとするだろうし、ホントにこの「彼がセックスに応じてくれない……もしかしてゲイ?」(Q10)っていうのも、友達が言ってたことだし、私の周りが全員腐女子なんで、その相談を聞いた時、みんな「ああ、そうなんじゃない?」なんて言ってて(笑)。ものすごくこれは身近なんですよね。

牧村:よかったー。

永田:これ(↓)なんかもTwitterとかで言われ続けてて、ちょっとホモって言うの止めようよっていう動きもありつつ、でも自分のアイコンに「ホモくれ」っていうのを入れてたり、紹介文に書いてたりしている人が相変わらずいる、みたいな。まさに今行われていることだな、って思ったんですよね。


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牧村:こういう「生ものBL」とか「ホモくれ」とかって、オープンな場で議論するなっていう圧力もあるじゃないですか。だからこれを本として書く時に覚悟がいりましたよね(笑)。

永田:そうか。そうですね(笑)。


◯今、一人交換日記が必要!

牧村:永田さんのこの二作品のキャリアっていうのは、見事に時代の流れだと思っていて、「カテゴリから個」へでしょ。LGBTとかレズビアンとかを離れて『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』から『一人交換日記』という作品に続いたのはすごく時流に乗れているな、って思うんですけど。

永田:それはもう、ひたすら担当さんの力ですよ。私が中学校の時に「ひとりで交換日記をしてた」っていうのをTwitterに書いたら、担当さんがそれをやろうって言ってくれたんで。「一人交換日記」っていうワードがすごく強いから、これはイケる! って思ってくれたらしくて、それで「こういう形で行きましょう」と言われたのを「じゃあそうします」って描いたので、すごくありがたいですね。

牧村:なるほど。それは良かったですね!

永田:うん、ホントに良かったと思います。

牧村:今の若い人達ってひとりにならない人が多いじゃないですか。他の人との分離がなされていない。個性的っていうのが悪口と捉えられたり…。色んな人と常に繋がっていて、なんとかクラスタっていう言い方もあるけど、「自分がどこに属しているのか」っていうのでやっていくじゃない。それをやってると自分がわからなくなるというか…、だからホントに今の時代に『一人交換日記』が必要だと思う。必要なものをこれから出されるんだと思う。

永田:ありがとうございます。他社ですけどね(笑)。

一同:笑。


◯「レズビアンカップルに萌えたら迷惑ですか?」──「知らん!」

──本当に人はひとりなんだ、みんな違うんだっていうことを一度ちゃんと受け止めることは必要ですね。

牧村:そう。みんな違うの。そんな当たり前のことを忘れて今クラスタ化してるから。だから「ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?」みたいなことを思っちゃったり、聞いちゃったりするし。自分の輪郭があまりない。
「ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?」「レズビアンカップルに萌えたら迷惑ですか?」って実際に聞いた質問だけれども、怒っているんじゃなくて、今言いたいのは「知らん!」(笑)。
 
永田:(笑)。その質問を聞かれて別にいいよ! っていう人もいれば、ええやめてよ「萌え」って何? って言う人もいるだろうし。

牧村:そう。人はみんな違うしひとりだよっていう、超当たり前のことを思い出すことが必要ですよね。生きていると『一人交換日記』に描かれていたように、誰かと常にくっついてる感? があると、他者との良くない癒着を起こしてしまうことがあるので…。何が言いたいかというと、結論としては『一人交換日記』がやっぱり必要(笑)。

永田:ありがとうございます。

牧村:他社ですけどね(笑)。

一同:笑。

──さっきなんとかクラスタっていうお話が出ましたけど、今、マンガや同人誌の世界もそうですよね。昔は「よろずサークル」ていうのが多くて、その時その時に一番熱いジャンルを描くことに肯定的だったのに、今はそれぞれがジャンル化してしまって、腐女子層とかは多くなっているはずなのに、どんどん細分化して、このジャンルにいる人はこのジャンルしか描いてはいけないような風潮があって──。

永田:そうそう、そのジャンルに操を捧げろ!みたいな(笑)。

一同:笑。

永田:カテゴライズから出ては行けないというクラスタ化。

牧村:その先に、愛による統合が待っているのよ。

一同:!!(笑 拍手)。

牧村:クラスタ化してるほうが、カテゴライズ化したほうが、自己投影がしやすいし、淋しくないんでしょうね。でもそれは淋しさを酒でごまかしているみたいな感じよね。

永田:そうですねまさに。で、その先に愛による統合が待っている。

牧村:そう(笑)。
 これを(『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』)書いて思ったのも、分断と統合の話。母子関係もそうですけど、赤ちゃんは最初、お母さんと自分の間がないですよね。お母さんのことをママって呼ぶようになった瞬間から分断が始まって、段々言葉を覚えて、どんどん分断されていくけど、言葉を通して言葉じゃないものに触れて、統合されて死ぬって。

──なるほど。確かに。
 ちょっと違うかもしれないですが、お母さんは自分のお腹の中でこどもを育てて、自分の一部のところから始まる。そういう状態で生まれてくるわけですけど、それで「お母さんと子どもは全然違うそれぞれ違う人格を持った人間」って言われても、難しいでしょうね。子どもにとっては「ママ」という分断された存在だけど。母親は、なかなか引き離して考えられない。

永田:そう! その仕組みが悪いと私は思ってて、なんかもう本当に人類が次アップデートする時に性別が改善されて欲しい。

牧村:性別?

永田:性別っていうか、人間の生殖方法が改善されて欲しい。

牧村:ああ! 魚で一回生まないと生ませる側にいけない種類がありますよね。

永田:それめっちゃいいですね!
 人間以外の動物ではそういうバリエーションたくさんあるのに…。人間はこれから進化とかしない感じなのかな。

一同:笑。

永田:アップデートして、みんな「お母さんから生まれる」っていうのとか、みんなが女の人に対して、自分を犠牲にして何かをやってくれるはずの人って思ってしまうのをやめたいですね。一番最初に母親からしか栄養がもらえないっていうのもどうかと思う。

牧村:そうね。今度はあなた、今度はわたしってなってもいいですよね。
 私は一読者として、永田さんにそのアップデートの話をマンガで描いて欲しい。

永田:ああ。

牧村:次回作出来た!

一同:笑。

永田:私が神視点で、アップデートできる権限の話をやりますか(笑)。

牧村:是非読んでみたい!

(了)


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2016/12/01 更新
  • マンガ 募集
  • コミックエッセイの森

  • 『ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?』(イースト・プレス)
    「男と女」である前の「あなたとわたし」であるために。
    最近とかく耳にする言葉、「LGBT」。性的マイノリティの総称として使われますが、「この言葉で呼ばれる人たちも人それぞれだよね」ということで、最近では「LGBTs」……LGBTさんたち、と呼ばれます。どこにでもいて、見た目でわかるとは限らない。そんなLGBTsのこと、マンガ・Q&A・年表・用語集など盛りだくさんでお届けします。
    LGBTsである・ないに関わらず、「人間同士の付き合い方」を改めて見つめられる1冊です。


    『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)
    「心を開くって、どうするんだっけ…」28歳、性的経験なし。生きづらい人生の転機。高校卒業から10年間、息苦しさを感じて生きてきた日々。そんな自分を解き放つために選んだ手段が、「レズビアン風俗」で抱きしめられることだった──自身を極限まで見つめ突破口を開いた、赤裸々すぎる実録マンガ。pixiv閲覧数480万超の話題作、全頁改稿・描き下ろしで書籍化。


    『同居人の美少女がレズビアンだった件。』(イースト・プレス)
    33人が同居するシェアハウスにやってきた、とってもかわいい女の子。 彼女の名は牧村朝子、通称「まきむぅ」。職業はタレント。
    ある日彼女はこう言った。
    「私、早く彼女が欲しいな~」
    そう、彼女は「レズビアン」だったのだ。