ワイン界ではちょっと知られた男・犬田虹が殺された! 駆け付けたのは
元ヤンキー刑事・大神と助手の汽子。一見ただのコロシのようだけど……?
こども作家キリカ(9才)が初めて挑むミステリー、「大神刑事の事件簿」第1弾!
シリーズ第1話
ワイン、とうぶから出けつ、殺人事件(前編)
illustration by Shimanon
俺はそよそよとした風で目が覚めた。
「?」
頭が痛い。痛くてしょうがない。目も痛い。
「ううー」
最後に見たもの、それは……鉄製の……箱? いやだ……死にたくない……。
「はっ!」
体は、熱い。汗でびしょびしょだった。
「ゆ……め……?」
最近、俺は変な夢を立て続けに見る。
「俺はどうしちまったんだ…」
今まで、何にも怖がったことはなかった。だが、この夢を見るときだけは怖かった。つらかった。いやだった。何もかも。このとき、俺はきづいてはいなかった。この夢が俺にあんなことを伝えようとしていたということを……。
「刑事! 大神刑事!」
「うるっせぇーな」
「『うるっせぇーな』じゃないですよぉ! 事件です! じ・け・ん!」
「じけんかぁ! 久々にわくわくするぜ! で、どんな事件だよ?」
「はぁ」
「なんだよ? ため息ついて」
「実は…とても難しい事件で…」
助手の犬野汽子(いぬのきこ)の話によると、ワイン界でも有名な、犬田虹(いぬたこう)が殺害された。凶器は、ワイングラスだ。もちろん、指紋が残っているはずもなかった。だが、辺りを見回せば、一般的な殺害方法で、一般人の、犯行だと考えられる。
「それが、なんで難しいんだ? 今までは、もっと大変な事件を解決してきただろ?」
「だーかーらー! それがいけないんです」
「?」
「大変な事件が多かったせいで、一般的な事件のトリックがわからなくなってしまうんです!」
「プッ」
「?」
「あははは!」
「な、なんで笑うんですか!」
「俺に任せろ!」
「ほんとに任せていいんでしょうか……」
「でも、ワイングラスなんかで人を殺せるのか?」
「あ、すいません。いってませんでした。ワイングラスが凶器というか……普通、ワイングラスの持つところから飲むところまでの間は繋がってますが、凶器として使われたのは持ち手の上が尖っているもので、破片だと持ちにくいので応用されたと見られます。だけどひとつだけわからないのは……」
「なんだ?」
「犯人はなぜ包丁を使わなかったのでしょう。持ってくるのを忘れたのか…でも本気で殺そうとしてたなら…あっ、この事件は計画的犯行ではなかったのでは? どうですか、名推理ではないでしょうか。ね、大神刑事」
「……」
「大神刑事?」
「そうは思えない」
「え? なんでですか?」
「何か…理由があったんじゃないか……」
「理由?」
俺は何か違和感を感じた。
次の日、俺は殺された犬田虹の家に行くことにした。おばあちゃんと二人暮らしだったそうだ。
「ううっー。虹が殺される理由なんてありません。純粋でイイ子でしたよ」
「でしたら、虹さんのお知り合いの方とかいませんか?」
「虹の彼女さんなら知っとるけど、なんや、この間、殺されたそうやないか。いや事故だっけなあ」
驚いた。犬田虹の彼女、宇佐野梓(うさのあずさ)はピッタリ一週間前、事故か殺しで迷ったが、最終的に事故となった事件の被害者だった。そのままテキトーに処理されてしまったという。怪しすぎる。俺はおばあさんに彼女の家を聞き、訪ねた。彼女は妹と二人で暮らしていたらしい。
「ところで、お姉さんが殺されたことで何か思い当たることはありませんか」
「なんなんですか。警察が勝手に終わらせたんでしょう。思い当たることなんて、ひとつしかありません」
「なんですか」
「……ストーカー」
「へ?」
「姉は前からストーカーかもって怖がってたんです」
「ストーカー」
「絶対ストーカーが犯人です」
ん? なんでそう言い切れるんだ? まあ、一番怪しいけど…ふつうは、「きっと」だろ? うーん。だからといって犯人の確率は低いし。今回の事件、「ワケ」がありそうだなあ。
帰るとき、妹が出てきて、こういった。
「あなたは…信じていいの?」
といって、時間がたつと、妹はどこかへかけていってしまった。はて、なんだ。だが、俺はとにかく追いかけ、捕まえた。そしてこうどなったんだ。
「なんかに追い詰められてんなら俺にいいな。俺が解決してやる」
すると、こちらを振り向いた。目は、大粒の涙でいっぱいだった。そして、こういった「たす…けて…」。
ただそれだけ。そういい、ただ泣き崩れていた。俺は何とか彼女を救いたいと思った。人を救う。それが警察なんだ。
タバコの火がちらちら燃えた。よっしゃ。今日もいっちょ、暴れてやるか。
大神刑事の暴走はとまらない!
(後編につづく)
―第1話(前編)―
―第1話(前編)―
*次回:2013年10月17日(木)掲載
2013/10/10 更新