“赤羽”最終巻刊行記念!
思い出したくない、けど笑える、完全実話の抱腹絶倒エッセイ
清野とおるの原点「バカ男子」厳選エピソードを公開します!
中学三年生の、ある日の給食の時間、一つのヨーグルトが余った。
そのヨーグルトを手にした俺は、思った。
どうしてこんなことを思ってしまったのか、今となってはよくわからない。
若気の至り、もしくは精神に異常をきたしていたのかもしれない。
とにかく、ヨーグルトを祭りたい衝動に駆られてしまったのだ。
さっそく友だちに話を持ちかけてみた。
俺のくだらない提案に、彼らは迷うことなく賛同してくれた。
祭ることは決定したけど、一つ問題があった。
それは、ヨーグルトを祭る“場所”である。
いつでも気軽に参拝できて、なおかつ先生に見つかりにくい場所……
そんな都合の良い場所、学校内にあるだろうか?
考えた結果、男子トイレの清掃用具入れの中に祭ることにした。
そして俺たちは休み時間の度にトイレに入り浸って、絶対神となったヨーグルト様を無意味に崇拝したのだった。
ここに“ヨーグルト教”の誕生である。
やがて、信者が新たな信者を勧誘し、ヨーグルト教の勢力は他のクラスにまで拡大していった。
信者たちにとってヨーグルトは神様なので、給食で出ても決して食べてはいけない。
ある時など、給食のあとで、各クラスで大量のヨーグルトが余り、教師たちの間でちょっとした問題になったりもした。
それほど信者たちの信仰心は深かった。
俺は信者たちから「教祖」ともてはやされ、天狗になっていた。
そんなある日の休み時間。
いつものように、信者たちを引き連れ、ヨーグルト様を崇拝しに男子便所に向かった所、なにやら様子がおかしい。
便所の中ではなく、外に大勢の男子が集まっているのだ
……半沢先生にバレた。
しかし俺は、極めて冷静だった。
信者同士の絆は深いし、信仰心も深い。
誰もバラさないだろうと確信していたのである。
誰かが即、俺の名前をバラしやがった……。
キツイお灸をすえられた後、頭を一発グウで殴られた。
こうして、
ヨーグルト教は崩壊した。
小学校三年生の時、俺は近所のそろばん塾に通っていた。
塾が始まるまで、同じ塾に通う近所の子供たちと共に、公園や神社や路地で遊ぶのが日課となっていた。
いつものように遊んでいた、ある日の夕暮れ時。
曲がり角から、見慣れぬモノが突き出ているのを発見する。
俺はそれを指差し、反射的にこう叫んだ。
おそらく街角でこんなセリフを吐くのは、長い人生の中、最初で最後ではなかろうか。不条理なことに、塀からケツ……正確には白いブリーフをまとったケツがにょっきりと生えていたのだ。
「ケツだケツ!! 間違いねえ!」
「行ってみようぜ!」
俺の意見に賛同してくれた仲間と共に、急いでそのケツの元へと駆け寄った。するとそこには……
白いブリーフに黒い革靴、手には黒いアタッシュケースを持った、絵に描いたような変態おじさんが存在していたのだ。
子供たちは一瞬引いたものの、すぐに大興奮。
おじさんを囲みながら大爆笑。
おじさんは嬉しそうにニヤニヤしながら、手に持ったアタッシュケースを地面に置くと、子供たちには見られぬように少しだけ開け、自分だけ中身を確認して、また閉めた。
そして素知らぬ顔をして口笛を吹いた。
子供たちは一斉に食いついた。
「なになに!? 中身何入ってんの!?」
「見せて見せて!!」
しかしおじさんは見せてはくれない。
おじさん「見たい?」
子供たち「見たい!」
おじさん「どおしても、見たい?」
子供たち「見たい見たい!!」
嘘のような話だが、本当にこんな素敵な変態がいたのである。
以後おじさんは、毎日のように出現するようになる。
出現パターンは最初と同じく、夕暮れ時に、決まって塀からケツを突き出し、それを子供たちに発見してもらうというものだった。
「あれ……またケツが出てる!!」「おじさんだ!」
「あちゃあ〜またバレちゃった〜」
子供に気付かれるまで、ジ〜っとケツを突き出して待ち続けるケナゲなおじさんの姿を想像すると、愛らしさすら覚えてしまう。
釣り人が、エサに魚が食いつくのをジ〜っと待ち続けるかの如く、ただ、ひたすらにケツを……。
そして、おじさんが現れて二週間くらい経ったある日のこと。
もう子供たちはおじさんにすっかり慣れ、おじさんも子供たちにすっかり慣れ、一緒になって公園で走り回って遊んでいた。
十人くらいの子供たちの中に、一人ブリーフ姿のおじさん。
今振り返ると、非常に不条理な光景である。
で、ある日のこと、おじさんは、公園の中央にあるすべり台の上に立ち、何を思ったのか皆にこう言い放った。
子供たちは、「脱ーげ! 脱ーげ!」の大コール。
そしておじさんは予告通り、見事におパンツをお脱ぎになられた……。
そんな場面を偶然目撃してしまった近所のおばちゃんの通報によって、おじさんは即・逮捕された。
パトカーの中に、おじさんを押し込もうとする警察官。
押し込まれぬよう、必死に抵抗するおじさん。
抵抗むなしくおじさんは、パトカーで連れ去られてしまった。
その時の光景を、俺は今も鮮明に覚えている。
以後、おじさんを見た者はいない。
あのアタッシュケースの中には何が入っていたのだろうか。
今となっては知る術もないし、それほど知りたくもない。
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『スーパーハイパー!
増補 バカ男子』 イースト・プレス刊
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