『同居人の美少女がレズビアンだった件。』刊行記念 小池みき&牧村朝子×山崎ナオコーラトークショー

◎「作家」ではなく「女性作家」と
呼ばれる理由は?

小池:こんばんは。『同居人の美少女がレズビアンだった件。』刊行記念トークショーにお集りいただきましてありがとうございます。私はこのマンガの著者で、牧村の前著書『百合のリアル』の企画構成を担当しておりましたライターの小池みきです。今日はよろしくお願いします。

牧村:こんばんは! 同居人の美少女27歳(笑)、牧村朝子です。みなさん、来て下さってありがとうございます。立ち見の方までいらっしゃって本当に感激です。今日は楽しんでいってくださいね。

小池:今日はもうお一人、豪華なゲストにお越しいただきました。

山崎:作家の山崎ナオコーラと申します。よろしくお願いいたします。

小池:牧村は昔から山崎さんの大ファンということで、この本をきっかけに二人に対談してもらえて嬉しいです。今日は私が司会役をつとめつつ、ざっくばらんに進めていく予定ですのでよろしくお願いいたします。

牧村:よろしくお願いします!

山崎:『同居人の美少女がレズビアンだった件。』、とても面白かったです。小説でいうところの、物語の「語り手」と主人公の距離感が絶妙なところが素晴らしいと思いました。『百合のリアル』も拝読しまして、感銘を受けました。

牧:大好きな作家さんに、直接自分たちの本を褒めてもらえるなんてすごく嬉しいです! ありがとうございます。





小池:えー、実は今日は事前にナオコーラさんから厳命が下っておりまして。「ナオコーラ『先生』ではなく必ず『さん』と呼ぶように」と。「そうしなければ業界から消す」と。

山崎:……言ってないです(笑)。

小池:牧村はフランスまで国外逃亡できるからいいんですが私は逃げ場がありませんので、是非皆様には最後までしっかり耳を傾けていただいて、我々が「先生」と言いそうになった時は咳払いなどで教えていただきたく存じます。

牧村:お願いします。嫌われたくない!

客席:(笑)

小池:という茶番から始めてみましたが、この「先生」という言葉へのこだわりについては是非聞いてみたいなと思っていまして。というのは、この漫画の主要テーマの一つが、例えば「レズビアン」とか「同性愛者」といった、“カテゴライズ”の言葉とどう向き合うかという問題だったものですから。

山崎:強いこだわりがあるわけではなくて、マンガ家さんにはあるのかもしれませんが、作家に「先生」を使うことはあんまりないし、「ナオコーラ先生」ってちょっとヘンじゃないかな、という程度の感覚ですが(笑)。カテゴライズされることには昔から嫌悪感がありますね。特につらく感じられるのが「女性作家」っていう肩書きです。

小池:「女性作家」「女流作家」ってよく使われる言葉ですね。書店でも、「女性作家」「男性作家」は棚が分かれていたりします。

山崎:私は「作家」になりたかったのに、結局「女性作家」にしかなれないのかな、と。紹介していただく時に、女性作家っていうくだりがあると、「女性」の部分を消してもらったりします。「女性作家」って言われると、たとえ誉めてもらえていても、違う職業の話をされている感じがしてしまいます。

牧村:ナオコーラさんは、どうしてそういう分け方ができたと思いますか?

山崎:本屋さんの場合は、本が多いから、少しでも探しやすくなるようにという配慮なんじゃないですかね。書店員の方にそう言われたことがあります。

牧村:今の所、便宜上分けているという感じなのかしら。でも、性別がわからない作家さんもいますよね。舞城王太郎さんとか。

山崎:私も公表してないつもりなんですけど……。

小池:それは大変なことを聞きました。皆さん、今日知ったことは秘密にしましょう。

一同:笑

山崎:牧村さんは、自分の肩書きとかでこういうのは辛いなって思うものはありますか?

牧村:私は一時期「レズビアンライフサポーター」という肩書きを自分で考えて使っていたんですけど、やっぱり苦痛になってしまいましたね。なんでそういう肩書きを考えたかというと、こちらから何も言わないと、プロフィールに必ず「レズビアンタレント」って書かれてしまうからです。それは、「レズビアンである」ということを「芸」にしているみたいで抵抗があったんですよ。ただもちろん、「レズビアン」という言葉に惹かれて私を知ってくださる人もいるので……苦肉の策でした。

小池:それほど悪い肩書きだとは思わなかったけど、そんなに嫌だったの?

牧村:嫌だった。だって何してる人かわかんないもん。ハイパーメディアクリエイターぐらいわけわかんなくない?

一同:(笑)

小池:でも逆に、この人はサポートしてくれるんだな、と思って連絡してきてくれる人も増えたんじゃ?

牧村:それは良かったことの1つだね。相談メールとかを送っていただけるようになったっていう。でもそれだけね。

山崎:難しいですよね。肩書きがあったり、カテゴライズされているから来る仕事や出会いっていうのも確かにあるんですよ。ただ、そこに「押込められる」のが大抵の人にとって苦しい。

牧村:理由としては、さっきの本屋さんの棚の話ぐらいにしか過ぎないんですよね。本当にそんな風に世界が分かれているわけではなく、こうしたほうが便利だと思う人は分けている、というだけ。

小池:ただ、カテゴライズとか肩書きの言葉に期待されるものっていうのを私たちは予測して、そのように振る舞おうとしてしまう、そこに苦しみが発生すると。

牧村:そういうふうに振る舞えって言われているわけじゃなくても、自分のほうもそう振る舞おうとしてしまうのよね。

小池:ナオコーラさんは、「女性作家」と呼ばれることへの嫌悪感とか、カテゴライズへの抵抗感はいつからありましたか?

山崎:「女性作家」という呼び方が嫌なだって思ったのはデビューした時ですね。あと、性別のカテゴライズ自体が嫌だ、というのは子どもの時から感じていました。アンケートとか申し込み書とかでも、必ずどっちかに丸をつけたりするじゃないですか、性別の欄に。私はあれがすごく嫌で、付けなくても済ませられるようなものは付けなかったです。

小池:牧村は「女性」っていう区分けについてはどう思ってるの?

牧村:自分が「女性」であることについては「超ハッピー!」って思ってる。10歳で初めて女の子を好きになった時は、女の子と一緒にいるためには男の子でなくちゃいけない、心の中にこんなものを持っているんだから女でいてはいけないんだ、ってすごく抑圧していたので、それをやめた時の開放感はすごかった。あ、女でいてよかったんだ、スカートはいていいんだ、「いや~ん」とか言っていいんだ! って(笑)。

小池:ナオコーラさんは、そういう「ハッピー」を感じたことはありますか?

山崎:ないですね。

小池:即答(笑)!

山崎:多分私は、根本的に男と女ってそれほど違わない存在だと思っているんです。それをあたかも違う存在であるように振る舞うことが私は辛いけれども、女らしく・男らしく生きるほうが楽しいっていう人も当然いますし、それはわかるんですね。だから、お互い認め合って「そういう人もいるよね」っていうぐらいの感じでやっていけたらな、と思います。小池さんはどうですか? 「ハッピー」感じますか?

小池:私もないですね。

牧村:「いやあん、いちごパフェ☆」みたいなの、ないの?

小池:ないって知ってて言ってるよね、元同居人!
◎「お互いが認め合える社会」は無理だけど……。

小池:『同居人の美少女がレズビアンだった件。』に描いたのは2011年から2012年にかけての出来事なので、もう時系列としては結構前のことなんですよね。この時期から牧村は、今ナオコーラさんがおっしゃったような……言葉でざっくりいうと気持ち悪い感じかもしれないけど、お互いが認め合えるような社会を作ろうと励んできたわけだけど、やってみてその後実際どうだった?

牧村:うーん。やってみた結果「無理じゃん!」って思った。性的指向、性的嗜好、性自認、性別、それぞれの違いに皆が理解を示してくれる社会、っていうのをこのマンガの頃は信じていたし、それを作りたいと考えていたけど、それは無理だなって。今は、「格差」がない状態にできたらいいなと思ってる。

山崎:格差がないというのは?

牧村:例えば、同性愛というのを例に出すと、「私は女の子が好き!」っていう私みたいな人もいれば、「あ、私はそういうのは苦手です。見たくないです」と思っている人もいて、それぞれ考え方は違いますよね。そういう心の中で思っていることを、なるべく「優劣」に結びつけなくていい社会になってほしい。「同性愛を嫌う人って遅れてる、私の方が“上”ね!」とか、「女なのに女が好きなんて変態だから“下”の人間だわ!」とか、そういう考え方を……なくなるとは思わないんだけど、少しでも減らしていけたらいいなって。

山崎:「下」っていうのは、どんな状態なんでしょう?

牧村:「この意見を持つことが社会的に許されない」みたいなことですね。それを言う言わないに関わらず、「同性愛気持ち悪い」と感じているだけで、差別者だとか、社会的に下の人間だとランクづけられてしまうような。私は、どんな意見だろうと、心に抱くこと自体は自由だと思っているんです。だから、どんな意見を持っていても、まず「自分は悪い人だ。こんな意見を持つのはいけないことなんだ」と自分で自分を押さえつけないでほしいんです。

小池:そういう信条を掲げて、今後は何をしていくつもりなの?

牧村:今やっているような、皆さんの前でお話することですね。女なのに女を好きになった、ということにショックを受けていた17年前は、自分がこうやって、吉祥寺の本屋さんで何十人も見て下さってる前で女性と結婚していることを話す日が来る、なんてことはまったく想像できていなかったから。今はまず、こういう場を積み重ねていきたいです。

小池:このマンガを描いた人間としては、このマンガもその積み重ねに加わっていけるといいな、と思う次第であります。で、またマンガの話に戻るんだけど、率直に言ってこれを読んで牧村はどう思った?

牧村:私のことをもっと可愛く描いてほしいって思った(恨)。

小池:えっ。

一同:(笑)

牧村:だってどの顔もへにゃっとしてたり目が点だったりで、森ガばっかりイケメンで、全然私可愛くないじゃん!

山崎:かわいらしいと思いますけど(笑)。

小池:そうだよ! さっき待合室でナオコーラさんに、「牧村さん、みきさんのマンガ絵にそっくりですね」って言われたし!

牧村:(不満顔)。





山崎:このマンガは、みきさんが描きあげてから牧村さんに見せる、という形で作ったんですか?

小池:そうですね。自分が見てきたものと別に、こんなエピソードがあったよ、っていう話を牧村からも教えてもらって、一気に下書き原稿を描いて牧村に送りつけて、直したいところがあれば随時言ってもらう、という流れで……なんでそんなに嬉しそうな顔してるの。

牧村:国際郵便で原稿を送ってくれたな、って思い出してるのよ、ふふ。

小池:そう、フランスまで原稿送ったんだよね。郵便代が高かったわ……。ナオコーラさんは、このマンガを読んで、印象的だなと思ったシーンとかあります?

山崎:115Pの「ピースオブケイク」ですね。牧村さんが『百合のリアル』を書きながらすごく悩まれるところ。言葉の世界を巨大なケーキに例えて、ケーキは切らないとお客様に食べていただけないから、完璧な切り方はないけどできるだけうまく切ろうっていう、そのシーンでなんというか、「うわあ」ってなりました。言葉を扱うっていうのは、まさにそういうことだなって。





小池:マンガではデフォルメして描いていますけど、あの時期はお互い大変だったんですよ。牧村は同性結婚の手続きやなんやでグロッキーになっていたし、私も私でプライベートとかで色々あって。

牧村:差別されて大変だったとかではなく、フランスの役所の人の対応が遅くて大変だった、っていう感じなんだけど(笑)。

小池:まあそれもありつつ、日本から届く、ファンの人たちやファンじゃない人たちからの言葉に神経質になっていたのも私の記憶に残ってる。毎晩のようにスカイプで制作会議をやっていたんですけど、私は編集者として、疲れている彼女に追い打ちをかけるっていう立場でもあって。牧村は全然怒ったりしない人だから不安だったんですよ。でも、いつも最後はみきさんのことを信頼してるから手伝ってね、って言ってくれて、私の方はそれを支えに言葉のケーキ地獄を乗り越えたっていう感覚です。牧村はその辺のこと覚えてる?

牧村:もちろん覚えてるよ。その時本当に辛かったのがね、しつらえたようなエピソードですけど、「いつもブログ読んでます」って言ってくれていた女の子が、「自分がレズビアンであることが辛いから自殺したい」って書いているのを見てしまって……。その時は「私がやってきたことや書いてきたことには何の意味もなかったんだ!」って思ってすごく辛くて。最終的に本も書けたし、その女の子は今もちゃんと生きてくれていて、よかった、本当に。(泣いてる)

小池:それはよかった……ああ、泣いちゃった。マンガにも描いた憶えがあるんですけど、牧村すぐ泣くんですよ。瞬間涙星人なの。

牧村:はるかぜちゃんみたい。

一同:(笑)



◎ 「人のセックスを笑うな」って恥ずかしいタイトル?

小池:時々人からマンガについて、「タイトルを見て、てっきり語り手キャラがレズビアンの美少女と恋愛する話だと思った」って言われるんですよね。確かにこういう、「友達の恋愛」を語る作品って、自分の恋愛を語る作品より珍しいのかなとは思います。ナオコーラさんは、このタイトルとか設定を見てどう思われましたか?

山崎:私はそういう期待というか深読みはしませんでした。でも、友達が描いてるっていうこの構造はすごくいいと思います。多分牧村さんからすると、実感とは違うとか、自分で描くとしたらこうは描かないっていうのはあると思うんですよ。でも、それをあえてもうひとつ外側にいる人が描いているからこそ、さっき言っていた、“うまい切り方”のケーキになっていると思うんです。単なる「食べて欲しいケーキ」じゃなくて、「届けやすいケーキ」になってる。読者が入り込みやすいというか。


牧村:タイトルはとっつきづらいですけどね。この中で、タイトルで買いづらいと思った方いらっしゃいませんか?

お客様:(誰も手を挙げず)

牧村:いない? ほんとに? ツイッターの反応なんかを見て、買いづらい方も多いんだろうなって思っていたんですけど。

小池:これは私が考えたタイトルで、まあ、あえて直球かつラノベっぽい感じでいきたいという意図はありましたね。

山崎:でも、それを言ったら私の『人のセックスを笑うな』っていう本も……。

牧村:もっと上がいたわ(笑)。

山崎:買いづらい、恥ずかしいって感想はよく見聞きしました。申し訳ないなと思いましたよ。

小池:でもやっぱりそのタイトルじゃなきゃっていう作品ですよね。タイトルの由来を教えていただきたいんですけれども。

山崎:私はデビュー前、会社勤めをしながら小説の投稿をしていたんですね。それで、私自身は恋愛苦手だけど小説といえば、やっぱり恋愛小説だ、と思って恋愛の話を書いていた時期にたまたま、本屋さんで同性愛の本を置いているコーナーに立ち寄って。その前でお客さんがくすくす笑っているのを見かけた時にふっと、「人のセックスを笑うな」っていうフレーズが浮かんだんです。全然恋愛とは関係ない言葉だけどなんかキャッチーだな、と思ってその時書いていた小説のタイトルにしました。





牧村:大好きなの、このエピソード。このタイトルに静かに勇気づけられてる人がたくさんいるはずですし、それは同性愛者に限らないと思います。「人のセックスを笑うな」って密かに思っている人が、世の中にはたくさんいると思う。


山崎:ありがとうございます。……牧村さんて、すごく真っすぐに人を見つめるんですね。

牧村:だって好きなんだもん!

小池:ナオコーラさんが「賞を取るなら恋愛小説」と思われたように、やっぱり男女の恋愛を主題としたコンテンツは圧倒的に強いですよね。その状況についてはどう思われますか?

山崎:現実の日本社会にも、コンテンツ市場にも恋愛って溢れていて、それはいい事だと思っています。私自身は恋愛要素の薄い人間ですけど、恋愛小説や映画は子どもの頃から好きでしたし、おばあちゃんになっても楽しんでいきたいなと思っているので。傍観者として好きでいたいというスタンスです。

小池:牧村は、恋愛コンテンツ市場について思う事ある?

牧村:思春期の頃は、男の子と女の子の組み合わせしかないんだ、ってしょんぼりしたことも多かったな。自分もそれに合わせなきゃっていう圧迫感もあった。でも、恋愛はこれからも、色んなコンテンツの主役であり続けるでしょうね。人を好きになって、相手に振り向いてもらうために努力する姿ってキラキラしていてやっぱり物語になりやすいし。それは全然不思議なことでも、嫌なことでもないと思う。

小池:恋愛が「物語」として成立しやすい題材なのは確かですよね。そして自分が恋愛をするかどうかに関わらず、「物語を楽しむこと」は多くの人が求めている経験です。『同居人の美少女~』はそこを切り口にしたいなと思ったところがあって。このマンガって、牧村を語り手兼主人公にすればベーシックな恋愛物語ですよね。ただ、女性同士っていう部分には人によって違う印象があるかもしれない。そこで私という語り手キャラを噛ませることによって、「恋愛物語を眺める人間の物語」としてもうひとつ普遍性を加えたというか……うまい切り方としての一アプローチになればいいなと思ったんです。邪魔になる可能性もあったけど。

牧村:ハンバーグは食べたいけど人参グラッセはいらない、っていう人もいるかもしれないもんね。

小池:そう。まきむぅと森ガの話だけでいいのに、って言われるんじゃないかっていう不安は発売するまでありましたよ。私に描かせたら私の話にもなっちゃうけどいいの? プロの漫画家にお願いした方がいいんじゃね? ってぎりぎりまで牧村に言ってたし。最終的には、彼女の判断で私が描くことになった。……なんでそうしようと思ったの?

牧村:だって、そうしないとあまりにも「自分大好き!」って感じになるから(笑)。それは美しくないし、読む人も楽しくないなって思ったの。

小池:なんで美しくないの?

牧村:「自分レズビアンなんです。珍しいでしょ!こんなふうな恋愛してるんです。皆さん理解してください!」っていう感じになっちゃうもの。あと、この本が出る前にブログの四コマをずっと読んできてくださった方もいるんです。そしてそのときのマンガはみきさんが描いていたわけでしょ。それが書籍化することになりました、じゃあプロの漫画家に描いてもらいますね、ってなったら完全に本を売りたいだけの女って感じじゃない。それは、ブログを読んでくださっていた方が読みたい本じゃないわよね。

小池:なるほど。実際、たくさんの人に手に取ってもらえる本になって、ありがたいよね。
◎質問コーナー① 堂々巡りでぐるぐる悩んでしまう時の対処法!

小池:今日は参加者の皆様から事前に質問を募集していたので、時間のある限りそれにも回答していきたいと思っています。

牧村:たくさんの質問ありがとうございます!

小池:簡単なやつからいきましょうか。質問じゃなくて牧村へのリクエストだけど、「投げキッスしてください!」だって。じゃあ、君が投げキッスしてる間に次の質問選ぶよ。

牧村:(立ち上がって連続投げキッス)

会場:大拍手

小池:どれにしようかな……。

牧村:早く! アンタひっぱってるでしょ!





小池:んじゃあ二人への質問。「運命の人との出会い方を教えてください」。ナオコーラさん、いかがですか?

山崎:いや、私にはわかんないです(笑)。でもこのマンガの中で、牧村さんが、森ガさんに会う前に「今日運命の人と会う」って言っていましたよね。だから、言うのが大事なんじゃないかなって思いますけど。

牧村:その時なんか、“きてた”の。そういう時ってあると思うのよ。だからこの、おでこのね、第三の目を開けておくのが、秘訣かしら?

小池:えー、今日は別に、スピリチュアルな会ではございません。

会場:(笑)

山崎:「求めよされば与えられん」、とマンガにも描いてありましたけど、牧村さんは本当にそういう感じがしますね。

牧村:ナオコーラさんと対談したいっていう願いも叶いましたから! 言葉に出していくのって大事ね。

小池:では次、これは牧村にだね。「フランスは日本より同性愛に対して理解の進んでいる国だと思いますが、それでも困ったことはありましたか?」。

牧村:あります。フランスは制度としては整っていますけど、国民はそれぞれいろんな考えを持っているので、日本より同性愛への理解自体が進んでいるっていうわけではないと思うんですよ。具体的に困ったエピソードとしては、森ガと二人で歩いてる時に、知らない男の人に「お前ら今の時代でよかったな、2000年前だったら俺がお前らのこと殺してたよ」って言われたこととか……。

小池:ひえー。その時はどうしたの?

牧村:「今の時代でよかったな」って言われて、森ガがさわやかに「はい。よかったです!」って返してて、「かっこいいいいい(////)」って思った。

一同:(笑)

小池:いつものノロケいただきました。では次。「男、女という区分って何なのでしょうか? もし概念にすぎないとしても、同性愛や異性愛があるのはどうしてでしょうか?」。ふむ、どうですかね。

山崎:うーん、難しい質問ですね……。ちょっと話がズレるかもしれないですが、さっき牧村さんが仰っていたことを思い出しました。男女の恋愛話ばかりで、子どもの頃は辛かったっていう。私は小説家として、性別や性指向への主張は特にないつもりで作品を書いていますけど、性別の表現をしたり、それを使ってキャラクターを動かしたりするだけで、誰かが傷つく可能性もあるんだな、って思うんです。「女と男がくっついて……」というようなことが書かれた本ばかりになったら、「それが普通なんだ」っていう主張になってしまうし、そういう社会を作る要因になってしまうから、気をつけなきゃいけないと思いました。

小池:牧村は?

牧村:「男」「女」という区分がある理由は、さっきも出た、書店の棚の話と同じだと思います。それがあると便利だと思っている人がいる、あるいは便利な場合もある、ってこと。「女性は市役所で無料の乳がん検診が受けられますよ」とか、「男性の方はこういう疾患にかかりやすいという統計が出ているので気をつけてください」とか、社会の管理のためには便利ですよね。あとは、「男心のつかみ方」っていう記事を読めば、「男心」というものが具体的にあって、歩みよって行ける気がしてくる。それも一種の便利さ。ただ、便利なだけがいいことじゃない、ってことは覚えておきたいわよね。

小池:なるほど。あ、これは私宛てだ。「みきさんはヘテロセクシュアルだそうですが、もし自分好みの女の子にせまられたらどうしますか?」。

牧村:どうする~~?(小池の腕をなで回す)

小池:あの、うちアイロン台は間に合ってるんで。(※フランスの俗語で、貧乳は「アイロン台」)

牧村:~~~っ(怒)!

小池:どうなんだろう。好みの女の子っていうのが思いつかないけど。でも、一緒に生きていきたいと思うぐらい素晴らしい女の子が相手だったらつき合うかもしれないですよね。

牧村:よろしく!

小池:よろしくされても! では次。「女の子を好きになってしまい、その子がレズビアンかどうかもわからないのですが、どうやったら仲良くなれるかとても悩んでいます。告白もしたいのですが、勇気がありません」。だそうです。

牧村:わかる。勇気出ないわよね。見た目でレズビアンかどうかはわからないから。

山崎:異性の場合でもわからないですよね。その人がどんな人かって。好いてくれるのかわからなくても告白する、というのは異性相手ではよくあるじゃないですか。それとはまた違うんでしょうか?

牧村:根本は同じことですよね。ただ、実際問題考えてしまうのもわかります。男性が女性に、あるいは女性が男性に告白するときに、「相手はもしかしたら同性が好きかもしれない」って不安に思うことは比較的少ないと思うんですよ。

小池:逆に同性に告白するとなると、相手が「自分は同性が好きだ」って明言してでもいない限り、「異性の方が好きな可能性」は考えざるを得ないよね。

牧村:だから私も、「かまをかける」ようなことはよくしていました。例えばちょっと昔の作品ですけど、女性の同性愛を扱った「Lの世界」っていうドラマの話題をふって反応を見る、とか。かまをかけろ、って言うわけじゃないですよ。でも、そういう話題について話すことで、相手が例えば同性愛なり何なりに対して、ものすごく強い嫌悪感を持っているわけではない、ってことはわかったりします。

山崎:告白することで傷つけられそうな場合は、しないほうがいいかもしれないですものね。

牧村:そう思います。告白って、言葉以外の部分で伝わることも多いですよね。「あなたのことが好きです。つき合って下さい」って言った瞬間、相手がそこに「あなたとセックスしたいです」、という意味を感じる場合も往々にしてある。相手がそういう一種の「エグさ」だけにフォーカスしなくていいような信頼関係ができあがったときが想いを伝えるタイミングかなと思いますし、だからまずは人間同士としての信頼関係を作るのが大切かなって。いずれにしても、その人を好き、っていう気持ちを楽しんでほしいです。楽しもうと思えば楽しめるものだから、恋って。

小池:では次の質問。「ずっと小さい時から、ナオコーラさんの著書『私の中の男の子』の主人公・雪村のような性別違和がありました。女湯に入る時の孤独感、生理への嫌悪感、自分の性別を見てみぬふりをしたくなる気持ちなどが、皆と違う感覚だと気づいたのは最近のことです。それを自分でどう飲み込んでいけばいいのかわからなくて悩んでいます」とのことです。ナオコーラさん、どうでしょうか。

山崎:私もそういう感覚で、そういう悩みを持ちながら生きてきたので……。「女性差別」が辛いというよりは、女性として「区別」されているのが辛いというか。最初にも話しましたけど、「“女性として”どう思うか」を聞かれるとか、そういうのが。

牧村:そういう感覚を知っていて、小説を書いてくれる人が世の中にいてよかった、と思います。『私の中の男の子』の雪村みたいな人が小説の中にいてくれることで得られる「ひとりじゃない」感っていうのに、私個人はずっと助けられてきました。

山崎:ありがとうございます。

牧村:この方は、それを自分でどう飲み込んでいけばいいのかわからなくて悩んでいらっしゃるとのことですけど、悩み続けよう、って私は思います。一生答えが出ないかもしれないし、解決できないかもしれないけど、それでも悩み続ける。悩み続けるのにもコツがあって。

小池:ほほう、コツ。ご教授願います。

牧村:「悩む」って、悪いこと、ネガティブなことっていうイメージがあると思うんだけど、必ずしもそうじゃないと思う。歩いている、食べている、遊んでいる、働いている、悩んでいる、っていうニュートラルな動詞として捉えてみてほしいの。悩むなんていけないことだ! じゃなくて、ああ、今自分は悩んでるなあ、って。そうやって悩み続けていると、頭がぐるぐるしてくるじゃない? それで「ああぐるぐるしてるなあ、疲れたなあ」って思ったら休むの。そして……座禅を組んで瞑想する。

一同:爆笑

小池:いきなり禅!?

牧村:座禅って「考えない練習」なんです。言葉で聞くと難しそうとか足痛そうとか思うけど、本当はトイレに座っててもベッドに寝ててもできるんですよ。私は禅宗じゃないし、座禅のプロみたいな人が聞いたら怒るかもしれないけど、私はその「考えない練習」にも助けられたから。

小池:ふーむ、確かに、悩むことへの罪悪感を捨てるために禅的なものを取り入れる、っていうのは効果ありそうだよね。



◎質問コーナー② 「男らしさ」「女らしさ」に振り回された時はどうする?

小池:次もちょっと似たタイプの質問です。「恋愛や仕事の場で、『男らしさ』や『女らしさ』という概念に振り回されてしまいます。頭では気にしないほうがいいとわかっているのですが、性自認が両性的なこともあって、つい振り回されてしまうのですがどうしたらいいでしょうか」だそうです。禅以外の回答を。

牧村:禅いいと思うんだけどな(笑)。具体的にどんな感じなんだろう? 女の子なんだからコピー取ってよとか、男なんだからこういう仕事ができなきゃいけない、とかそういうのかしら。私だったら、そういう考え方の人もいるのねー、って言いますね。

小池:ナオコーラさんも、「女らしさ」に振り回されることってあります?

山崎:あります。すごく振り回されていますね。会社員時代も職場で振り回されていましたし。でも、牧村さんが著書の中で書かれていた、アイデンティティ自体は傷つけられないから、あなたはそうだけど私はこうだよ、という受け止め方をしていく、という言葉に「なるほど!」と思いました。小池さんはどうですか?

小池:うーん、私もそういうものに振り回されるのは嫌いだったので、振り回してくるものを無視して生きる、っていうタイプでした。

山崎:具体的にはどうやって?

小池:例えば高校時代だと、生徒会長とか剣道部部長とかの公的権力を握りにいっていましたね。周りに合わせて行動するのとか、女子のグループでつるむのとかがとにかく嫌いだったんですよ。じゃあ一番気兼ねなく一人になれるところに行ってやろう、そしてそれは「トップ」だろう、って思って。頂上まで行けば横には誰もいないから。

山崎:あはははは(腹をかかえる)。横に誰もいない、ってすごい言葉ですね(笑)。

牧村:つまり「トップをねらえ!」ってこと?

一同:大爆笑

小池:そうかも。「現実処理能力が高い」っていうのが、強調性のない私の数少ない強みだったのね。大人を納得させる書類を作るとか、理詰めで人と交渉するとか。それって男とか女とか関係ない部分じゃないですか。だからとりあえず権力握っといて(笑)、「小池会長ならこれをやってくれる」っていう認識を人に植え付けて自分のポジションを作ったというか。今もその延長でやっている気がする。

牧村:そこ大事よね。“人として”重宝されるってこと。男とか女とか言ってくる人もいるけど、それはそれとして自分は、って思えればいい。

小池:質問への回答になるかわからないけど、人の長所とか特徴ってジェンダーロールと関係ないところにも絶対あるはずなんで、それを使って権力なり人心なりをつかむ、そこから自分の陣地を作っていく、っていうのは一つの手段としてありかなと。ただ私の場合、そういうやり方ばかりしたが故に取りこぼしてきたものもたくさんあるので、振り回されさえしなきゃ良いってことじゃないと思います。





山崎: 確かに、自分の武器がはっきりわかっていると、振り回されることも気にならなくなるかもしれない。トップじゃなくても、そのポジションがあれば自分は自分、という立ち位置を考えてみるとか。この場所は私っぽいからここを目指す、という考え方でもいいですね。

小池:では、次を最後の質問にしましょうか。「朝子さんへ。いつもブログを拝読しています。ご自分が色んな障害を乗り越えながらマイロードを進み続けてこられた、その一番の原動力は何だと思いますか? 愛でしょうか? 運? 強さ?」。ドラマチックな質問だね。

牧:しかも「愛」のところにハートマークをつけてくださってる。かわいい。うーん、結局は、今自分が楽しいから、好きなこと、やりたいことをやっているだけだと思います。でも原動力って言ったら、杉本彩様の言葉かもしれない。

小池:多分ご存知の方が多いと思いますけど、牧村は杉本彩さんの事務所に所属しています。どんな言葉だったの?

牧村:「あなたが何かをする時に、横からいろいろなことを言う人がいるでしょう。でも自分の人生について選択できるのも、責任を取れるのも自分自身だけ。横からあれこれ言ってくる人は、あなたの人生に絶対に責任をとってくれないのよ」って。もう、うおおーって感じでしょ(笑)。その言葉を、何かあるたびに思い出してガソリンにしていたりする。あっでもガソリンじゃ駄目、臭いガスになっちゃう。もっと美しいたとえにしたい!

小池:女神の息吹を原動力にしていると。ちなみにナオコーラさんにとっての、ご自分の作家道を突き進む原動力はなんでしょう?

山崎:「本が好きだ」っていう気持ちですね。面白い本を書き続けていきたいし、そのために日々頑張りたいなって思っています。小池さんはどうですか?

小池:私もナオコーラさんと近いです。読むものが好きだし、書くのも好きだから、人の人生に少しでも良い影響を与えるものを作っていけたらいいな、っていうそれだけ。

牧村:やっぱり、「好き」って気持ちが大事なのよね。この質問者さんが「愛」にマークをつけてくださったのは正解ね。

小池:強さも結局、好きなもののために出てくる力だもんね。

山崎:牧村さんを「強い人」だと思う人が多いんでしょうね。実際、強いんですか?

牧村:うーん、そもそも「強い」っていうのが何かわからない。

小池:今日話してみてどうです、ナオコーラさんには牧村が強く見えましたか?

山崎:うーん。……普通。

一同:爆笑

小池:と、いい時間になりましたのでこの辺で締めさせていただきたいと思います。今日はお二人ともありがとうございました。

牧村山崎:ありがとうございました!

(了)



トークイベントの際には、お客様からこの他にもたくさん質問をいただきましたが、時間の都合でお答えできませんでした。後日、改めて著者のお2人と、山崎ナオコーラさんにご回答いただきましたので、12月11日にマトグロッソにて掲載いたします。お楽しみに。



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2014/11/27 更新
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    山崎ナオコーラさん、待望のエッセイ集です。
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    ちょっとイジワルだったり、シビアな現実認識が示されたり。
    一筋縄ではいかないナオコーラ・ワールドが堪能できるエッセイ集です!




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    パリで国際同性婚した著者が語る、「女の子同士」のリアル。
  • 小池みき(こいけ・みき)

    フリーライター。2012年、『百合のリアル』(著者:牧村朝子)で星海社ジセダイエディターズ新人賞を受賞。