body_yokoyama_ma_01_e00.jpg

異能の作家・横山裕一によるマンガ作品『世界地図の間』を巡り、
編集部では作者自身にメールインタビューを敢行した。
これがそれである。(すべて原文ママ)




■新作『世界地図の間』は「劇画」だという。あなたが考える「劇画」とはどのようなものか。

→①笑う場面がない
 ②非友好的男達のみが登場する
 ③ある種の殺伐とした活動を描写する

しかしこれらは表面的なことであり私が本作をして劇画と称するのもじつは特にたいした意味はなく便宜上そう呼ぶだけとお考えいただいてかまわない


body_yokoyama_ma_01_e01.jpg


■本作に限らずあなたの漫画作品には、明確なストーリーが存在しない。終わり方も唐突であるが、なぜこのような作品を描いているのか。

→より普遍的な時間の流れを描写しようとするとそうなるのが自然である。ストーリー・始まり終わり・オチといった要素は狭く人間世界のみの約束事であり巨大な自然界全体の時間内にほぼ存在しない些事といえる


■あなたにとって重要なモチーフは「時の流れ」、さらに言えば「諸行無常」ということなのか。

→そのとおりであるなかなか良い言い回しだ今度からそうせつめいするのでマネしてよいか


■あなたの漫画に登場する男たちは、風貌・衣服ともに異形の者たちであり、国籍が不明であるどころか異星人のようにさえ見える。これはなぜか。

→理由は3つ
 ①より普遍的内容を目指し時代地域を限定させないよう努力している異星人にさえ見えるとしたら努力はおおいに成功しており満足である
 ②未知の異文明に興味がある
 ③おしゃれにも興味がある


body_yokoyama_ma_01_e02.jpg


■しかし実際の着衣に関しては無頓着であるようにも見える。さる公的なパーティで上はジャケット、下はジャージという姿であなたが登場したことを記憶している。

→赤いジャージは私の情熱の証 そして公的な場だからこそあのように華やかな装いを凝らし無頓着ではなく注意深く選択した装いである


■あなたの漫画にはなぜ女性が登場しないのか。

→理由は2つ
 ①技術的に描けない
 ②女は平穏な理想的時間の流れを乱す存在であり相撲も仏教寺院においても禁制である(※国技館にもお寺にも女客多数が来ている)


■そのような発言は女性蔑視と取られるかもしれない。しかし私はかつてとある酒場にて、女性に執拗な嫌がらせを成していた酔漢にあなたが憤然と対峙し、その愚行を戒め改めさせていた場面を目撃している。

→そんな事あったかなおそらくその酔漢が弱そうだったからに違いない


■『世界地図の間』冒頭に緻密な町の俯瞰図が描写されるが、これらの作業はさぞかし大変だったのではないか。

→大変であった・もう今後ああした場面は採用しない


body_yokoyama_ma_01_e03.jpg


■他に苦心したことはあるのか。

→制作中の2年間は体調不良の連続であり終わったとたんに少し具合が良くなったがしかしそうした弱音は嘲笑のマトとなるのでここでは割愛させていただく


■ほとんどの描線に関し、定規を用いて描いているというのをあるインタビューで見た。それは事実か。

→嘘である・フリーハンドのところも多々ある


■『世界地図の間』では飛行機や船や自動車、『トラベル』では列車というように、あなたの作品には乗り物が重要なアイテムとして出現するが、何か意図するところはあるのか。

→のりもののもつ移動への憧れ特に航空機等の轟音と巨大な輸送力・航続距離・メカニズムがともすると卑小になりがちな作品世界を鼓舞するからだ


body_yokoyama_ma_01_e04.jpg


■漫画家の市川春子氏が帯に賛辞を寄せている。仄聞(そくぶん)したところによると市川氏はかねてよりあなたのファンであったとか。

→私の展示に来てくれた事があるのだ有名漫画家の方に帯を書いてもらい恐縮しており会わす顔がない




■その賛辞には「かっこよすぎて笑ってしまう」とあるが、これは不本意ではないのか。

→いやこれで良い/かっこいいものは常に笑えるものであり当然の反応である


■セリフはすべて横書きで書かれているが、これは海外出版を前提としているからか。また横書きにすることに違和感を覚えたことはないのか。

→海外出版を常に意図しているがそうなる以前から私は横書きを普通と考えており違和感はない


■影響を受けた漫画家は存在するのか。

→子供時代以降今日まで漫画を読まないためはっきりそれと名指しする対象はなくおそらく子供時に普通に接していた漫画には無意識の影響を多分受けているとは思うがしかし例外的に昭和30年代? の秋玲二著『勉強まんが』という漫画がかつて自宅に存在し先日それを博物館で閲覧し実は相当な影響を受けている事が判明した。南海で発生した低気圧ががやがて成長し巨大台風となり日本列島に上陸やがて消滅するまでを数十ページにも渡り科学的に漫画にしていたりする内容である



キャラクターの造形に関しても、横山裕一に影響を与えたと思われる



■プライベートな質疑で恐縮だが、あなたは休日に何をしているのか。

→私に休日はない(遠足・サーフィン・旅行・飲酒・釣り・あとはひみつだ)


■『世界地図の間』でも男たちが飲酒をする場面がある。あなたはどのような酒を好むのか。

→日本酒ワインビールウイスキーほかなんでも飲むが安物は飲まない具合わるくなるからだ
親族にアル中やアルツハイマーや病人多数が存在するため私は気を付けているのだ


body_yokoyama_ma_01_e05.jpg


■あなたの文章には、なぜ句読点があまり存在しないのか。

→聞き手に配慮せず一方的に喋り狂人視されたり逆に熱狂的人気を博したりする人物が世間には存在するわけだがそうした表現にはどのような要求も通ってしまうようなある種の迫力がありそれが私の憧れである


■Twitterを頻繁に更新されているが、レスを見たりすることはあるのか。

→レスとは読者からの反応ということか? 見ないが理由は2つ
 ①電話操作が分からず見られない
 ②ありがちな好意的反応を見て慢心しやがて漫画を描かなくなるに違いないからだ

だがどういった反応があったかについて特に面白いご意見や質問等は知人や関係者が間接的に知らせてくれる事が度々ある

そして見てないとは知らずにせっかく好意的反応をお寄せ頂いている良心的読者が絶望し反応を断念するのは不本意であるからやはり見てると書いて頂きたい


■承知した。では最後に。あなたはなぜ漫画を描き続けるのか。

→それはだ-2つ答えよう
 ①むろん偉業を達するためである/当初絵画から漫画へ移行するにあたり壮大な意図と計略がありそれについてひとたび質問などされようものならそれこそ待っていたとばかりにたちまち滔々とせつめいが出来るくらいはっきりしたコンセプトであったはずであるがいまそれら目論見が詳しく何であったかがはっきり思い出せなくなっている
 ②生活のためである


body_yokoyama_ma_01_e06.jpg


■このインタビューを読んでいる読者にメッセージをお願いしたい。

→良心的な私の読者には常に満足しておりもはやこれ以上言うことは無いが今後も催事が続くのでそれらにもご来場頂きたい(初日にだ)


(インタビュー:堅田浩二)

  • マンガ 募集
  • コミックエッセイの森

  • 『世界地図の間(ま)』
    ネオ劇画とは何か? これがそれである。
    不穏な男たちが不穏な街に集結し不穏な「世界地図の間」へといざなわれる。そこで目の当たりにする不穏な光景とは。謎の不穏感がドローンのように持続する、横山裕一の新ジャンル「ネオ劇画」。
    湧き立つ新世界! かっこよすぎて笑ってしまう」
    ──市川春子(漫画家)





    『ニュー土木』
    マンガの概念を覆す、まったく新しいマンガの誕生
    「紙のメディアで体験できないはずのウルトラ&ミラクル読感」榎本俊二
    「作る洪水! 工業度200% これこそ本当のクラフト・ワークだ」上條淳史
    「17歳、同じ予備校に奴はいた。奴はその頃から非凡だった」古屋兎丸




    『トラベル』
    徹頭徹尾、列車の旅──驚きに満ちたヴィジュアル体験
    ざわめく車内、めくるめく車窓の風景、激しく刻むレールのリズム──「列車に乗ってから目的地に着くまで」という超ミニマムなシチュエーションが、ダイナミックかつ繊細なヴィジュアルとなって、あなたの脳を踊らせる。




    『NIWA』
    広大なアシッド・ダンジョン。ギミック溢れる奇想の庭へ
    「どのような庭園なのですか?」「たいへん良い庭です」──誰が何のために作ったのか? 大規模な仕掛けや謎のオブジェが次々現れ酩酊感をもたらす異界の庭園。そこに潜入した男たちが見たものは。




    『ベビーブーム』
    可愛いものは面白い。今もっとも描きたかった作品
    謎の「鳥」と「ひよこ」の親子(?)が繰り広げる何気ない、そして少しシュールな日常と非日常。「子供や動物の無垢で無自覚なかわいさ」をオールカラーで描く新境地。



  • 横山裕一(よこやまゆういち)

    1967年4月3日生まれ。漫画、イラスト、現代美術とジャンルにとらわれず作品を発表し続け、近年では海外での評価も高く、フランス・アメリカ・ロシア他でも活動を展開している。著作に『ニュー土木』『トラベル』『NIWA』『ベビーブーム』(以上イースト・プレス)、『アウトドアー』(講談社)、『横山裕一カラー画集』(ブルーマーク)など。