
「これからの社会に必要なのは『掛け算』」。若き建築家・光嶋裕介はそう話す。
ひとも資源も有限だし、何より常に新しいものを求めるという発想はつまらない。
そもそも、畳の部屋に布団を敷き、朝になったら卓袱台を出して食卓を囲んできた日本人は
元来、「同一空間を活かす」ということに長けているという。
いまあるものに意外な要素を掛け合わせて育てていく、これからの「場所」づくりについて、
まさにその発想の実践している本屋B&Bの内沼晋太郎さんと光嶋さんにじっくり語って頂きました!
(開催:2013年11月20日 本屋B&Bにて)
ひとも資源も有限だし、何より常に新しいものを求めるという発想はつまらない。
そもそも、畳の部屋に布団を敷き、朝になったら卓袱台を出して食卓を囲んできた日本人は
元来、「同一空間を活かす」ということに長けているという。
いまあるものに意外な要素を掛け合わせて育てていく、これからの「場所」づくりについて、
まさにその発想の実践している本屋B&Bの内沼晋太郎さんと光嶋さんにじっくり語って頂きました!
(開催:2013年11月20日 本屋B&Bにて)

ドリンク片手に本が選べる「本屋B&B」、東京・下北沢にある現地にて。左から光嶋氏、内沼氏
◎ひとつの建築のなかに、複数の「掛け算」を用意する
光嶋 僕、これからはシェアできるものはシェアしていく、そういう考え方が浸透していったほうがいいと思っているんです。平川克美さんが「移行期的混乱」という言い方で説明しておられるように、成長期から成熟期に移行し徐々に人口が減少していく社会においては、過剰になり過ぎた部分を削ぎ落して、シェアできるものはシェアしていく、そういうやり方が必要だろう、と。
だから、ここ「本屋B&B」の「BOOK & BEER」という組み合わせを見たときに、「ああ、こういうことなんだ」と思ったんですよね。今日はそのへんのことを中心に、内沼さんとお話しできたらと思っています。
内沼 はい、ぜひよろしくお願いします!
光嶋 まずは自己紹介も兼ねて、スライドを使いながら僕がいまの考え方に至った道筋や仕事についてお話ししていきます。僕の建築家としての最初の仕事は、内田樹先生に頼まれて2011年に設計した「凱風館」という建物で……これですね。

光嶋 建築にはクライアント、設計者、そして実際に建てるひと、まずそのトライアングルがあるんですよね。そこに予算、物量、法律、構造……あらゆる問題が複雑に絡んでくる。クライアントの人柄、それから家族構成など様々な要素が。
凱風館であればまず、内田先生が作っている甲南合気会という組織がキーになります。ここはその道場として150人の門人が毎日お稽古にくる“みんなの場所”であることが求められます。同時に、能楽師である奥様が、小鼓を叩かれる場所でもある。
さらに、内田先生は名誉教授となって大学を退官されましたが、いまでも毎週火曜日にここで寺子屋としてのゼミをされている。著者として本の執筆もされる。これだけ多様な行為を、どういった建築的操作で解決できるか――それを示そうとしたのがこの曼荼羅です。

光嶋 そして、これらの機能をひとつの建築のなかに同居させるために、こういう切り分けを考えました。

これは色分けしてあるのでわかりやすいですが、作ってみてわかったことは「こんなにシンプルじゃあない」と。たとえば、当初は更衣室としてこの紫のスペースを考えていたのですけれども、実際は更衣室だけでは立ち行かないので、皆さん道場で着替えたり、2階に行って着替えたりする。設計するときに未来を想像して「こう使うであろう」と考えるけれども、それだけではつまんないわけですよね。計画と無計画のあいだを活かすならば、ある種の“余白”を設計段階で残しておくことで予測不能なことにも対応する必要がある。もちろんそれぞれの機能はちゃんと成り立ってなきゃいけないので、空間を機能ごとに分解していったんですね。
街全体の文脈から見ても、でっかい体育館のような建物が住宅街にボンとあると「何だあれ」となってしまうので、それぞれの機能ごとに天井の高さを変えて、屋根を与え、あくまでそうした小さな空間の集合体だというのがわかるように工夫したわけです。そうして機能ごとに分割されていることで、掛け算のためのユニットができる。そのために身体的なスケールにおける余白――天井が高かったり低かったり、細い廊下であったり広い廊下であったりという組み合わせをたくさん取っているんですが、掛け算によって廊下の使い方は使い手の自由な発想に委ねられていく。そういう関係性を演出することが、設計者としてできる行為なのかな、と。
そうして設計されたユニットの中で、パブリックな場所としての道場と、2階奥のプライベートゾーンのあいだにセミ・パブリックな場所が生まれた。これは内田先生が「僕は閉じこもって本を書くんじゃなくて、編集者が来たり、友達が来たり、ワイワイしている開かれた書斎で本を書きたい」とおっしゃったことに起因しています。書斎と遊び場という掛け算が行われることで新しいものが生まれていくんですね。