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松尾スズキ(段作)・山本直樹(作画)による異能コラボ、
『破戒〜ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました〜』
刊行記念トークです。





松尾スズキ(原作/写真右)・山本直樹(作画)による、
『破戒〜ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました〜』が、
装いも新たにリイシューされました。
発売翌日の2016年11月18日、東京・文禄堂高円寺店にて開催された
トークイベントの模様をお届けします。

進行:豊田夢太郎(元「IKKI」編集部『破戒』連載担当・現「ヒバナ」編集部 Twitter:@yumetaro



「恋っていうんですか? そういう境地」


破戒 ~ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました~

経営難の小さな印刷会社を営む若き2代目社長カズシは、
工員のノボルが機械で指を切断して以来、数奇な運命に呑まれていく。
少年時代の封印された記憶がフラッシュバックするなか、
謎多き魔性の女・ミツコと出会い……。

様々な伏線がダイナミックに収斂していく松尾スズキのストーリーと、
繊細かつ妖艶な山本直樹の筆致が融合するコラボレーション。
待望の新装・新編集版。





山本:(演劇公演での)楽屋のご挨拶以外でしゃべるのは、ほんとひさびさですよね。

松尾:そうですねえ。

豊田:今は亡き小学館の「月刊IKKI」という雑誌で2004年に連載されてました『破戒』という作品が、このたび新装版として……新装版? 完全版?

堅田(単行本編集):一応「新装・新編集版」と。造本とか、全ページのネームのフォントの入れ方とか、あとがきが加わったりだとか、誤植を直したりとか……そのほか細かいところがちょこちょこと。

山本:マンガはそんなにいじってないですね。中指にしていた指輪を薬指に変えたとか……そのぐらいですね。

松尾:おー。

山本:細かいチェックが入って(笑)。

松尾:厚さがちょっと変わった。

堅田:章トビラなどもアレンジし直しまして。ゆったりめで読みやすい構成になっております。

松尾:(帯文の)「人間は男も女もみな役者」って、どういう意味ですか?

堅田:え? これは第1話のサブタイトルからです……よ。

山本:サブタイトルって、夢太郎くんが付けたんだっけ?

豊田:僕が勝手に付けましたね。

堅田:あ、松尾さんが付けたんだとばかり。元ネタは全部シェイクスピアですよね。

松尾:そうなんだ。全然知らなかった(笑)。

豊田:「いいよー」みたいなニュアンスの答えをお二人にいただいたんで、勝手にまあ。演劇感と、あと悲喜劇みたいなところがあったんで。

松尾:まったく身に覚えがなかった……。

堅田:何かこの作品を象徴するいいフレーズだなと思って、帯に使わせていただきました。

豊田:それで復刊の経緯なんですが、堅田さんとごはん食べてるときに、「『破戒』を出し直せないかな」っていうお話をいただいたんです。「IKKI」がしばらく前に無くなってしまって、なかなか単行本もケアするのが難しくなっていて。それでよそから新しく出してまた新しい読者さんたちに読んでいただけるようになるのは、いいことなんじゃないかなと。



豊田:この原作は松尾さんが、もともと映画のために書かれたシナリオでしたね。

松尾:そうなんです。だからマンガになったのも、最初にシナリオを書いた時からけっこう経ってるんですよね。

豊田:僕がシナリオをお預かりした時も、それよりずいぶん前に映画がポシャっちゃってて……さすがにもう実現はしないだろうという期間をおいた上で、原作としてお預かりした記憶があるので。

山本:脚本書いたのは、95年とかそのぐらい?

松尾:手書きだったことは確かだと思いますけどねえ。違ったかな?

山本:僕がもらったのは、手書きじゃないやつ。

豊田:そうですね。今回、昔のデータ探したらあったんですよ。すべてWordのファイルで……(客席に向かって)みなさんあとがきってもう読まれてます?

山本:あとがきぐらいでネタバレは……(笑)。

豊田:大丈夫ですかね。あとがきで松尾さんが、これを映画のシナリオとして執筆した時に、もうすでに『破戒』というタイトルが付いていたと書かれているんですけど、そのファイルを見たら実は違うタイトルが付いてまして。

松尾:そうだっけ?

豊田:元々は『キズナ』というタイトルだったんです。

松尾:あー。……その下に「エグザイル」って書いてありましたけど(笑)。いや、『キズナ』じゃなくてよかったよね。

豊田:その時にキャストイメージはあったんですか?

松尾:最初は藤田容介さんという、荒川(良々)主演で『福福荘の福ちゃん』……荒川じゃないや、あれは大島(美幸)さんですね。

山本:(笑)

松尾:それを撮った人と一緒に、自主制作に近い形で映画をやろうってんで。だから僕が主人公の役で考えてたの。

豊田:相手の女性は?

松尾:それはあとがきにも詳しく書いたけど、ゴーバンズってバンドでドラムだった、(斉藤)光子さんという人に頼みたいなって思いがあったんですよね。

山本:そのころ、聞いてないですよね。光子さんがモデルだよというのは。

松尾:言ってないです。

山本:光子さん、かっこよかったですよねえ。

松尾:身長が180あって。

豊田:マンガでは主人公の男性(カズシ)は、わりと平凡な普通の青年というキャラクターデザインですね。

山本:とにかく普通の、ブサイクでもないし男前でもないぐらいの感じにしとこうかなと。

豊田:これは特にモデルもなく。

山本:ないですね。似せるほどの画力もないんで(笑)。



松尾:でも僕が出てきたことがありますよ。

山本:それは頑張って。ひどい役をやっていただきました(笑)。

松尾:あと、『ありがとう』は大久保鷹だったじゃないですか。

山本:あれも頑張って、大久保鷹さんを出そう!と。大久保鷹写真集も買いました。

松尾:大久保鷹写真集ってものがあるんですね(笑)。

山本:芝居のときに売ってたんですよ。

松尾:それはニッチな。


*


豊田:そうやってすぐにパッと出てくるように、松尾さんは山本さんの作品をずっと読まれていたわけですよね。

松尾:いつから読んでいるかは定かではないんですけど、スピリッツをずっと購読していたんで。

豊田:じゃあ『ありがとう』どころじゃないですよね。『はっぱ64』とか。

松尾:なんだっけ、さかむけ君じゃない……かもしだ君。『極めてかもしだ』。さかむけ君ってことはない。

山本:それは『喜劇新思想大系』ですね(笑)。松尾さんと最初に会ったのは、松尾さんが僕にインタビューしに来た時だったね。

豊田:それは大人計画のミニコミ、『山と警告』で。そのころは松尾さんおいくつ……?

松尾:30過ぎぐらいじゃないですかね。

山本:『ありがとう』終わってたから96年。僕が35くらいかな。

松尾:山本さんはその前、僕のドラマの『演歌なアイツは夜ごと不条理(パンク)な夢を見る』を観てくれてたんですもんね。

山本:大好き。その前に最初は、ケラさんのCD『ヤマアラシとその他の変種』に入ってた温水(洋一)さんと松尾さんのコントが死ぬほど面白くて、なんだコイツは?みたいな。僕はそこで初めて認識したんですね。その後、ちょうどドラマ(『演歌なアイツ~』)がやるというので、じゃあ観なきゃと。


*


豊田:『破戒』連載時に、記憶に残っているエピソードはありますか? 

松尾:いやあ、もうほとんどおまかせだったんで。

山本:もう(シナリオが)できあがってますからね。僕はなんと言っても、原稿を数ページ落としたというのが……屋久島で台風に閉じ込められて。途中まで描き上げてから行ったのかな? 吉田戦車さんと、とり・みきさんと屋久島に山登りに行ったら台風が来て。

松尾:へー。

山本:途中で引き返して、まあ無事に下山できたんですけども、船も飛行機もまったく出ない。「まいったな~」と言いながらも顔はちょっとニヤニヤしてるんですけど(笑)。「3~4枚足りないけど、しょうがないよね~」って。

松尾:それ、出版社はザワつきますよね、その3人がいなくなったら。

山本:だから電話して「すみません、やりたいんですけどやれません」って。それでずっと焼酎呑みながら温泉巡りしていました(笑)。

松尾:なんで屋久島行っちゃうのかなあ。

山本:山に登りたかったんですよねえ。

松尾:アクティブですよね。

山本:体を動かすのは嫌いではないですけど。ちょうどそのころ山に登りたいと言ってたら、友達に山登りの上手な人がいたんで、くっついていったんですよ。とり・みきさんもかなり登る人だし。

松尾:そうそう、当時は山登ったりとか、テニスやったりとか……。

山本:テニスはまだやってます。いまだにヘタクソですけどね。4時間ぐらいやって、お風呂入ってビール呑んで、寝ると12時間ぐらい眠れるんで……いいですよ(笑)。

松尾:12時間は寝過ぎですよ?

山本:いや、やっぱり体動かしてビール呑んで寝ると、ガッと。途中オシッコには何回も起きますけどね(笑)。

豊田:松尾さんは最近はサウナですか?

松尾:サウナはよく行ってますね。引っ越した先のとなりにスポーツジムがあるんですよ。そこのジムに入会したんで、毎日行ってますね。

山本:ジム的なことは?

松尾:何もしてない(笑)。その町にはそこしかサウナがなかったから、行かないわけにはいかないという。

豊田:サウナのクオリティ的にはどうなんですか?

松尾:それをここでしゃべるの?(笑) いや、すごくいいサウナで。水風呂がないのがちょっと難点なんだけど。



豊田:じゃあ話を戻して…山本さんは原作ものとしてはこの前に『僕らはみんな生きている』を描かれてましたね。

山本:その時は、(原作の)一色伸幸さんになんの思い入れもなかったんで、「めちゃくちゃにしてやろう」という感じで楽しんだんですけど(笑)。『破戒』はやっぱり松尾さんが好きすぎて「このまま行こう!」と。難しかったですけどね。あとから、もっと暴れても楽しかったかなと思ったりもしたんですが。

松尾:そうですよね、もともと映画にするために書いてたやつだから、脱線しづらいというか。

山本:でも『僕らはみんな生きている』も映画用だったんですけどね(笑)。

松尾:そうか……真田広之

山本:先に映画がもうできちゃってて。でも主人公の横にいる重要な男を、マンガでは女にしちゃいました。

豊田:『破戒』を連載に合わせて話を切るのは大変じゃなかったですか。

山本:でもそういう編集作業は別に、絵を描くめんどくささに比べれば楽しい作業。お話面では、もともとある話だし。

豊田:色っぽいシーンよりもバイオレンスなシーンがけっこう多いんですが、その前に連載していた『DOORS』では……。

山本:だいたい全編エロの、暗ーい感じのマンガを描いてましたね。あとがきにも書いたんですけど、『破戒』はいつもの俺にしてはエロ少なめの、わりと淡々としたところもありみたいな。でもお話が最初からあれば、エロ以外でも描けるなというんで、じゃあ『レッド』もやれるかなと。個人的にはそういう考えに至った作品(笑)。

豊田:『破戒』の後すぐに『レッド』を描かれたんですかね?

山本:だいたいそうですね。

松尾:でも実際連合赤軍の話も、エロを入れようと思えばいくらでも入りますよね、きっと。

山本:まあそうなんですよね。みんなけっこう盛んにやってるし。なるべく入れようとしたんだけど、後半は裸の死体しか出てこないからね。……後から当事者から聞いたんですけど、真剣な話し合いをする前に、実はフェラチオされてたみたいな話があって。「それ、先に言ってよー!」っていう(笑)。もう描いちゃったよ、っていうところが一箇所あるんですよね。

松尾:それはいい話ですね。

山本:「処刑を決定したから、おまえら、やるぞ!」という話し合いの前に、テントの中でしてたという。本人が塀の中で言ってました。

松尾:リアルな。そういうのがリアルですよね。

山本:あんな風呂もないところで、よくやったなあと思いますけどね(笑)。

松尾:学生だから。学生ってそういうもんですよね。

豊田:……はい。

松尾:どう? こういう話、どうよ。

豊田:大丈夫です(笑)。


*


豊田:松尾さんが最初にシナリオを書かれた95年ぐらいも、オウムの事件や震災があったり、世の中的に激動だったわけですが、そのあたりも原作に反映されているんですか?

松尾:うーん、どうだろうなあ。でもまあ、僕の作品のなかではオカルトみたいな要素が強く出てきているんで、そういうのも反映されてるのかなという感じはしますけどね。

山本:空飛ぶ円盤がいっぱい出てきますよね。松尾さんの芝居にも、『破戒』にも。メインじゃないけど、小道具的に。

松尾:そうですね、なんでかなあ。

山本:『悪霊』にも、ちょっとだけ出ましたね。

松尾:日常的なことを書くんだけど、ちょっと……マジックリアリズムじゃないんだけど、不条理なことが混じり込んで。そのギリギリで成立するのがいいのかなあと。幽霊も出ますしね。

山本:そうですね、超能力とか。

松尾:でも映画を作るにあたって、「暴力とエロは絶対にやりたい」というのがあったと思うんですよね。次の映画もすごいエロいのをやろうかなあと……。『恋の門』は山本さんも出演されてますけど──

山本:2秒ぐらい。酒井若菜から同人誌を買うキモい男の役で(笑)。

松尾:『恋の門』を撮った時に、後になって「松尾は酒井若菜とキスしたくてあの映画作ったんだろう」という、愚かなことを言う奴が多くて。なんか頭にきたから、じゃあもう映画を利用して、ありとあらゆるエロいことをやってやろうと。「もっとできんだぞ!」って見せつけてやろうかと(笑)。

豊田:『恋の門』は山本さんの娘さんも出演されていて。

山本:娘が中学生のころ。おれより娘の方がいっぱい映り込んでますね(笑)。同人誌を売ってるブースの中の一人として。

松尾:山本さんはずっと娘さんと一緒に、お芝居を観に来てくれてて。中学生のころから、見せていいのかどうかわからないようのものを(笑)。……ついにね、巣立っていきましたよね。

山本:そう、いまは人妻をやっています。

松尾:すごいですよね、大人計画に育てられたようなものですから。

山本:親戚の子どもの成長を見ているような感じで(笑)。

松尾:どんどんどんどん楽屋に来る姿が大きくなっていくんですよね。感慨深いですよ。



豊田:女性の話でいうと、『破戒』のミツコさんというキャラクターには、松尾さんの背の高い女性好きというこだわりが……。

松尾:まあそう、好きかと言われれば、好きかもしれないですけどねえ。

山本:『極めてかもしだ』は背の高い女と小さい男の話だったから。僕も描くのは嫌いじゃない。

豊田:『読んだはしからすぐ腐る!』(松尾スズキ+河井克夫:作。豊田氏も担当編集者として作中に登場)のときも、益子直美さんのサイン会に行ったりしてましたもんね。

松尾:そうだねえ。

山本:いまだと、木村沙織はどうですか?

松尾:木村沙織……ちょっと思い浮かばない。

山本:あのね、オッパイ大きい──

松尾:あ、そうなんですか?

山本:まったく必要がないのにオッパイが大きいのが素晴らしいですよね。

松尾:いますぐ画像を検索したいですね。

山本:でも今年あたりに引退しますね。そしたら映画に……。

松尾:なるほど……やってくんないでしょうねえ(笑)。


*


豊田:山本さんは最近のタレントさんとか、グッと来ちゃうのは。

山本:グッと来ちゃう? いまは能年玲奈のことしか考えてないですね(笑)。(松尾さんは)いいなあ、(『あまちゃん』での)共演者でいいなあ。

豊田:松尾さん、いまはどうですか?

松尾:いまはどうですか? 俺にそれ聞きますか?(笑)

豊田:やめときます。すみませんでした。……堅田さんが作ってくれた質問項目に沿ってがんばってやってるんですけど。

松尾:能年ちゃんは、いまは「のんちゃん」って言わなきゃいけないんだよね。

山本:あえて「能年さん」と言いましたが。アニメも観ましたよ。

松尾:ああ、『この世界の片隅に』。

山本:最高ですよ。

松尾:ねえ。すごいって聞いてます。

山本:試写会でちょうど江口寿史さんと会って、観終わった後「いやあ、良かったねえ」って。江口さんがツイッターで「あっちのアニメより良かったね」と書いたらちょっと炎上してましたけど(笑)。 僕はあっちの方は観てないんですけどね。

豊田:松尾さんは『シン・ゴジラ』に出てらっしゃいましたけども、最近の話題作は──

松尾:いや、観れてない。

山本: 僕もほんと映画観てないんですよ。今年スクリーンで4本ぐらいしか。宮藤さんのあれ(『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』)もちょっと忙しい時期だったんで観そこなっちゃったし。松尾さんの(『ジヌよさらば~かむろば村へ~』)は去年でしたっけ? ちょっと映画館に行けなくて、丸いので観ました。

松尾:丸いの?

山本:DVDで。

松尾:丸いスクリーンで観たのかと思った。

山本:そんな不思議なものじゃなくて(笑)。『ジヌよさらば』、二階堂(ふみ)さんエロかったですね。

松尾:二階堂さんだと背が低いもんな。

山本:あ、小さい人。

松尾:小さいですね。……沖縄生まれですね。

山本:だって早い時期に共演されているじゃないですか。『熱海の捜査官』。 最初、地味な感じかなーと思ったけど、どんどん化けましたね。

松尾:そう、最初に会った時は少女だったもん。彼女が15歳ぐらいで。

山本:下北沢の呑み屋で斜め後ろにいたなあ。松尾さんの芝居やっている時ですよ。最初斜め後ろに岡村(靖幸)ちゃんがいて、「えっ!」って。そこにさらに二階堂さんがやってきて、「えっ!!」。いろんな人がいる(笑)。

松尾:東京ってすごい街ですねえ。山本直樹がそこにいるのも、周りの人からしたらすごいことですよ。山本直樹と岡村ちゃんと二階堂ふみ。混乱の極みですよね。

山本:あんまり騒ぎ立てるのもあれだから、焼酎指して「二階堂、二階堂!」って。焼酎のことかな?っていう。

松尾:くだらね~(笑)。東京ってすごい街だと思ったのが……たまにシティホテルとかのサウナにも入るんですけど、そしたら役所広司さんがいたんですね。役所広司さんとサウナで二人きり(笑)。キツかったですね。

山本:日本映画にあっても不思議じゃない場面ですね(笑)。

豊田:言葉も交わさず、ですか?

松尾:いや、共演したことあるから。……おかしいじゃない、話さなかったら。お互い完全に逃げ場がない状態で。


*




豊田:大体そういう感じですが、他になにかありましたら。

松尾:……まだオナニーとかします?

山本:ええ、バリバリ。

松尾:あ、バリバリ。するんですねえ。……自分は全然無いですねえ。

山本:だんだん年齢的にね。もう50代なかば。どんどん柔らかくなってきちゃいますね。

松尾:……すみません。

(会場笑)

松尾:いや、どうなのかなあと思って。あんまり人にね、オナニーの話ができる歳でもないんで。

山本:まあバリバリです。今日は娘が来る予定だったんだけど、仕事が入って来れなくなったんで、遠慮なく言いますけど。バリバリです。

松尾:すごい。自分は全然無いんですよ。

山本:亜鉛がいいらしいですよ。

松尾:なんかする気にならない……まあ、全然ないとは言わない。やるんだけど、途中でなんかね、疲れてきちゃって。

山本:オナニーでも中折れするんですね。

松尾:なんか自分のことを考えたりして。客観視して、似合わないなあって。10年前ぐらいは似合ってたんですけどね。

豊田:40過ぎたころでも似合ってたと。

松尾:うん、似合ってた。

豊田:なるほど。そういうことをまだまだ考え続ける人生なんですね。

松尾:いや、だからなくなってきたからこそ、エロの尻尾を捕まえたいというか。俺の性欲どこいった、って。

豊田:まだ逃さないぞ、と。

松尾:まだ逃さないね。


*



山本:文豪も年を取れば取るほど、谷崎(潤一郎)とか川端(康成)とか、どんどんエロくなっていくので。

松尾:実際の欲がなくなってきたことに反比例して、気持ちばかりが出てくるんだよね。

山本:どんどんいい感じで、変態的な性を描きたいなあ……70代ぐらいになれば、もう怒られないと思うんですけどね。あの人のやることはほっとこう、みたいな。好き勝手やらせてくれるんじゃないかなあ。

松尾:70や80歳がストーカーとかたまにあるじゃないですか。ああいうのはやっぱすごいなあって。

山本:パワーがすごい。一極集中。死を間近にしているから切迫感がね。

松尾:最近見たのが、中学校の教頭かなにかが、お気に入りのヘルス嬢に出禁にされたのが頭にきて、その子の実家の近くに行ってビラ撒いたっていう(笑)。すごいパワーだよね。

山本:昔の老人とはまた違うんじゃないですかね。ちゃんと栄養も足りてるし。それを平和利用する手立ても絶対あるはずなんですけどね。

松尾:老人を千人集めて、何かを回させて電力を起こしたりね(笑)。原発の代わりに。一番平和利用だと思うんですけどねえ。

山本:廃棄するお金もそんなにかからないしね(笑)。

松尾:まあエロもコンプライアンスだとかでどんどんやりにくくなって、映画でもすごく難しいというか。R指定がつくとどんどん(興行収入が)下がっちゃうしで。

山本:R指定がつくと、予算がつけられないと。

松尾:(田口)トモロヲさんの『ピース オブ ケイク』の話を大友(良英)さんに聞いたんですけど、胸の揉み方でRが変わってくるって。

山本:円運動はダメとか、そういうのですかね(笑)。エロだけじゃなくて残虐性もけっこううるさいですよね、映画は。

松尾:そのへんをちょっとかいくぐって、新しい方法を探っていかなきゃいけないなみたいなことは考えますね。……関係ないけど民放のドラマになんでこんなに呼ばれないんだろうって(笑)。ときどきふと思う。

山本:でもNHKだと主役張ってるじゃないですか。

松尾:でも民放は……。なんかコンプライアンスに引っかかってるのか?(笑)


*


豊田:ちなみに今後またお二人で別の作品を、という可能性はあるんでしょうか?

山本:えっと、僕は自分のなかで溜まっているネタをとりあえず全部出し切らないと、ちょっと他のことはできない感じ。エロネタがいっぱい溜まっていて渋滞しているので。

松尾:もう『レッド』を始めたころから溜まって。

山本:そうです。地味な若者が右往左往するマンガを10年間やったんで。今は物語とか伏線とか感動とかいらないから、エロが描きたい(笑)。

松尾:素晴らしい。でもマンガっていいですね、そういう切り取り方ができるというか。

山本:やっぱりパイが大きいから、その分自由度が大きくて。けっこう変なことやっても、マンガ読む人が多いからなんとか今なってる。これからどうなるかわからないですけどね。

松尾:なるほど。

山本:そういう意味では少年ジャンプなんかのおかげっていうのが。やっぱり少年誌がマンガ読む人をガーッと広げてくれたので、功績はあると思いますよ。……「功績はあると思いますよ」って俺が上から言うのもなんだけど(笑)。下から「ありがとう!」って。マンガ全然読んでないんですけどねえ。描くだけでお腹いっぱいで。

豊田:松尾さん、マンガは?

松尾:マンガ……。漫F画太郎の『罪と罰』を読みました。すごく面白かったですね。天才なんだなあと。

山本:そういえば、『アイアムアヒーロー』はなんで出なかったんですか?

松尾:(出演オファーが)来ないんですもん。

山本:マキタスポーツがやってましたよ。

松尾:そうなんですよ、勝手に……マキタスポーツとキャラクターが競合しているらしくて。全然違うんですけどね、僕のなかでは。


*




豊田:ではこのあたりで質疑応答を……。えー……誰もいらっしゃいませんか……?

堅田:じゃあ、はい。

豊田:どうぞ(笑)。

堅田:連載中の読者アンケートでのリアクションは、当時いかがだったでしょうか?

山本:小学館は、作者にはあんまり言ってこないね。

豊田:そうですね、「IKKI」という雑誌はあまり売れてない雑誌だったというのと、あとわりと編集方針優先雑誌だったので、アンケートは重視してなかったです。なので、悪いということはぜんぜんなかったと思うんですけど、特に上がった下がったということもなかったという。面白くもなんともない答えで申し訳ないんですけれども。

堅田:ありがとうございました。

豊田:他にありますでしょうか?……ではそちらの方。

質問者(男性):10年分溜まったエロネタのさわりかなにかを。

山本:さわりっつっても……内緒(笑)。でも本当に、ひとつは200数十ページ分のネームがもう全部できてますね。ただのエロだから、複雑なストーリーラインとか別にないんで、すぐできちゃう。

豊田:他に質問はあるでしょうか?……なければ終わっちゃいますけど……。

堅田:はい。

豊田:どうぞ(笑)。

堅田:先ほどオナニーの話をされてたかと思うんですが、お二方それぞれ、ネタ的なものは何かお聞かせ願えますでしょうか。

山本:想像です。

松尾:あ、そうだ。そういえば山本さん、すごいオナニーの技を持ってたんですよね。

山本:精子を出さないオナニー。それこそ10何年前に、松尾さんのエッセイに書かれました。「山本がオナニーで射精しないと豪語している」的な事を(笑)。

松尾:それがね、すごいなあと思って。

山本:蟻の門渡りを押さえると出ない。どっかに溜まってる。

豊田:それをやると、炎症を起こしたりとか……。

山本:いや別に。10代のころから30数年間、ちゃんと子種も二つ残しましたし。実証されてる。

松尾:それを庵野秀明さんに伝えたら、一回試したらしいですよ。でも出ちゃったって(笑)。

山本:一度コツをつかめば大丈夫なんですけどね。

堅田:山本さんはそのやり方でいつもやられてるんですか?

山本:そうですね……なんでそんなこと聞くんですか(笑)。

豊田:松尾さんは具体的には?

松尾:僕は……DMMかなあ。あと『ベルセルク』ですね。

山本:そんなにエロいの?

松尾『ベルセルク』の13巻。……やだなあ、こんなこと言うの。

(会場笑)

松尾:文章ならいいんですけどね、やっぱり違うなあ。

山本:それで言うと、ツイッターの裏アカウントが一番エロいらしいですよ。

松尾:ツイッターの裏アカウント?

山本:そのへんの普通の10代の女の子たちが、自分の意思でおっぴろげてるっていう。ほとんど業者とか成りすましなんだけど、でも1割とか5%ぐらいは、本物がいるって。

松尾:リアルが。すごい。うしじまいい肉をフォローすると、けっこう流れてきますね。

山本:そうですね、綺麗な女の人の画像がいっぱい。でも向こうはわりと非合法な……。

松尾:そうですよね。どういう気持ちなんだろう?

山本:10代だから好き勝手やって。大丈夫なのかなと。

松尾:説教してやればいいんですよ。

山本:けっこう説教している人いますよね。風俗でジジイがヤったあとにする的な。

松尾:自分を大事にしなさいよ、みたいな。

山本:お前が言うなと(笑)。

松尾:見ておいて(笑)。

豊田:あー他に質問は……大丈夫でしょうか。では、ここでトークを終わりにさせていただきます。本日は皆さん、どうもありがとうございました!

松尾:どんなトークなんだ。



「恋っていうんですか? そういう境地」


破戒 ~ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました~

『破戒〜ユリ・ゲラーさん、あなたの顔はいいかげん忘れてしまいました〜』
松尾スズキ(原作)・山本直樹(作画)


経営難の小さな印刷会社を営む若き2代目社長カズシは、
工員のノボルが機械で指を切断して以来、数奇な運命に呑まれていく。
少年時代の封印された記憶がフラッシュバックするなか、
謎多き魔性の女・ミツコと出会い……。

様々な伏線がダイナミックに収斂していく松尾スズキのストーリーと、
繊細かつ妖艶な山本直樹の筆致が融合するコラボレーション。
待望の新装・新編集版。





協力:碇雪絵(日販)/鈴木亮一(ユービック)

2016/12/01更新
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山本直樹自選短編集
『明日また電話するよ』




山本直樹自選短編集
『夕方のおともだち』




山本直樹自選短編集
『世界最後の日々』


松尾スズキ(まつお・すずき)

1962年12月15日 福岡県北九州市生まれ。『大人計画』主宰。作家・演出家・俳優。1988年『絶妙な関係』公演で旗揚げ。『ファンキー! 〜宇宙は見える所までしかない〜』で第41回岸田國士戯曲賞受賞。2004年公開監督デビュー作『恋の門』がヴェネツィア国際映画祭出品。小説『クワイエットルームにようこそ』『老人賭博』が芥川賞候補となる。監督作に『ジヌよさらば〜かむろば村へ〜』など。
Twitter:@matsuosuzuki


山本直樹(やまもと・なおき)

1960年2月1日北海道松前郡生まれ。早稲田大学教育学部在学中に、小池一夫主催の「劇画村塾」入塾、1984年に森山塔名義でデビュー、同年山本直樹名義でも執筆開始。代表作に『はっぱ64』『極めてかもしだ』『あさってDANCE』『BLUE』『夏の思い出』『ありがとう』『ビリーバーズ』『堀田』『分校の人たち』ほか多数。2010年『レッド』で第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。
Twitter:@tsugeju