世界は“辺境”より再構築される 坂巻匡彦 世界は“辺境”より再構築される Makerマインド溢れるメーカーが開いたものづくりの新フェーズ。monotronからlittleBits Synth Kitまで、KORG商品企画室・坂巻匡彦氏と、Makerムーブメントの牽引者・小林茂氏が徹底対談!|「世界は“辺境”より再構築される」
Makerたちのお祭り「Maker Faire Tokyo 2013」が今年も盛況のうちに幕を閉じた。
会場にはロボットから飛行機、楽器に編み物とあらゆる工作物が並び、見ているだけで、
自分にも「自分の手で何かをつくりたい」そんな欲望が眠っていることに気づかされる。
そんなMake心を呼び覚まし進化させる面白い出来事が、ある電子楽器のまわりで起きていた!
日本の楽器メーカーKORGのアナログ・シンセサイザー「monotron」と、
それを改造して楽しむ人々が生み出した流れだ。
KORGはさらに「Maker Faire Tokyo 2013」で米littleBitsとの大型コラボレーション企画を発表。
ものづくりを取り巻く「未来」を予感させる一連のことについて、その展開をいち早く夢想し
支えてきたMakerムーブメントの牽引者・小林茂氏と、渦中のKORG商品企画室・坂巻匡彦氏に、
おふたりの原体験も踏まえてじっくり語っていただいた。



東京都稲城市にあるKORG本社にて。左から坂巻氏、小林氏


◎「楽器をユーザーの手に戻す」ということ

 11月3日(日)、4日(月)に日本科学未来館で開かれたDIYの祭典「Maker Faire Tokyo 2013」でスペシャルな発表があった。KORGが、NYに本社を置く新進気鋭のメーカーlittleBitsと共同開発する形で、「自分だけの」シンセサイザーを組み立てられる革新的な回路キット「littleBits Synth Kit」を制作し12月から発売を開始する、というもの。





[littleBits Synth Kit]


「littleBits Synth Kitは、シンセサイザーの回路(シグナル・ジェネレーター、モディファイアー、モジュレーター、コントローラー)を、電子回路設計や音楽の知識を必要とせず、簡単に組み立てることができ、ライブやレコーディングなどにも活用できる、これまでになかったキットです。キットは12個のBitsモジュールからなり、各モジュールを小さな磁石でつなぎ合わせてアナログ・モジュラー・シンセサイザーを組み立てることができます。また、モジュールの一部はコルグの有名なアナログ・シンセサイザーで使用していた回路をベースに開発したものです」(発表より)


 これが結実する以前からKORGにはある「気分」のようなものが感じられた。それに呼応するようにしてユーザーから巻き起こっていた反応……一連の動きと、それがどういうことなのかということについて、自身もかつてローランドという電子楽器メーカーに勤め、「作り手」と「使い手」の関係性について模索してきた小林さんにホストになってもらい、お話を進めて頂いた。

小林 KORGが新しいムーブメントをつくりつつあるんじゃないか、2、3年前からそんなことを思うようになって。それについて詳しくお聞きするべく、今年6月に行われたMaker Conference Tokyo 2013(今回行われたのは「Maker Faire」=展示会で、6月のものは「Maker Conference」=会議にあたる)に来て頂いたのですよね。そこで2010年にKORGがmonotron(モノトロン)というアナログ・シンセサイザーを出してからの一連の話を聞かせて頂いた。



「Makerフレンドリーな製品をつくる」
Maker Conference Tokyo 2013内セッション
2013年6月15日、日本科学未来館

小林 要はエンジニアからの提案で、改造のコツを基板に書いて出荷したところ、それに予想もしていなかったほどの反響があった、と。改造者が続出し、monotronは単なる安いアナログ・シンセサイザーからオープンな楽器に化けることになった。それに刺激を受けたKORGが通常は企業秘密である回路図も公開し、その結果、シンセサイザーのコミュニティだけでなく、DIYのコミュニティや様々なメディアからも注目されることになったということでしたよね。

坂巻 ええ、そうですね。

小林 改造した事例は、その後の製品開発にも反映され、monotronに続いて発売され「monotribe」(2011年)「MS-20 mini」「volcaシリーズ」(2013年)でも一部の情報をオープンにするという流れが継続されている、と。僕は、これをある種の理想だと思ったんです。メーカー側から「改造してください」と言ったわけではなくて、開けてみたユーザーが自分で発見して進化させていったわけで。つまり、作り手が込めたメッセージを受け取ってくれた人たちがいたわけですよね。しかも直後の「Make: Tokyo Meeting: 05」(2010年5月開催。Monotronの発売は同年4月)にもう改造版がたくさん出展されていたということは、瞬時にたくさんの人が気づいてくれていたと。

坂巻 そういうことになりますね。おそらく、学研さんのSX-150、あれを改造するカルチャーがあったので、それを踏襲したという面もあるんじゃないかなとは思うのですが。

小林 確かにあの頃ちょっとしたミニブームみたいなのありましたもんね。でもそれだけで即改造とはならないでしょうから、monotronという製品にそれだけの余地があったことが大きかったわけですよね。

坂巻 それはきっとそうだと思います。アナログ・シンセって、実質70年代くらいまでのものなんですよね。90年代に一度リバイバルしていますが、あくまでそれは一部の人が再評価してるというものだった。大きなメーカーが参入できるようなリバイバルではなかったわけですよ。それはいまも変わってないし、monotronを考案し始めた2010年になる前も同じような状況だった。普通に考えたら無茶、たぶん1000台売るのも厳しいようなマーケットなんです。それでも一応こうして商売にできたというのは、ただ単純にアナログを復刻させたというだけじゃなくて、そこに新しい使い方というか、価値観みたいなものを付与できたからなんじゃないかなと。それが「改造」だったんだと思います。

小林 さらに印象的だったのが、「そもそもの開発動機は『シンセサイザーをもう一度楽器に戻したい』というものでした。だからアナログ・シンセサイザーであることにこだわっていたけれど、いまではむしろ『お客さんの手にシンセサイザーを戻してあげる』ということのほうが大事だと思っています」とおっしゃっていたことなんです。

坂巻 ああ、そうですね。当初はとにかく「アナログ・シンセサイザーを復活させたい」という気持ちが強くて、そのために何ができるかをまず考え始めたんです。

小林 それが結果的に、単にアナログにするだけでなく、改造のこつや回路図といった情報を公開することによって、「自分でしか出せない音を出すため」あるいは「使いやすくするため」に改造する、といったことを促進することにつながって、「シンセサイザーをもう一度楽器にする」といういちばんの目標に到達することにもなった、と。

坂巻 そうです、そうです。だから、最初から全部見えていたわけではまったくなくて(笑)、こんなに受け入れてもらえるなんてという驚きのほうが大きかったぐらいです。

小林 常々僕は、何かをつくるというのは人間の根源的な欲求だと思っていて。そもそもつくるというのはゼロからイチを生み出すようなことだけを指すのではなくて、子どもがダンボールで工作したり、材料を組み合わせて料理を作ったり、IKEAの家具を組み立てたり、そういう様々な楽しみ方すべてのことを指すと思っていて。そういう楽しみは、ブラックボックス化してしまった製品からは奪われてしまったんですよね。

坂巻 よくわかります。うちの回路図を公開しているサイトにも書きましたが、かつてブラウン管のテレビには背面に回路図が記載されていたんですよね。当時の人々にはきっと「ハードウェアを所有している」という感覚があったと思うんです。特に楽器に関しては、その感覚ってすごく大事なものだと思っていて、今回monotronでは、そういう感覚とか価値観みたいなものを喚起するきっかけがつくれたのかな、そうだったらいいなと思っているんです。

坂巻匡彦(さかまき・ただひこ)

1978年愛知県生まれ。東京在住。2003年千葉大学大学院自然科学研究科デザイン専攻を修了後、株式会社コルグにプロダクト・デザイナーとして入社。2004年に商品企画室へ異動、新規性の高い製品を中心に商品企画を担当する。近著に『基板に書いたメッセージ ハックできるシンセmonotronはなぜ生まれたのか?』 (カドカワ・ミニッツブック)

小林茂(こばやし・しげる)
 
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター准教授。1970年愛知県名古屋市生まれ。1993年より2004年6月まで、電子楽器メーカー「ローランド株式会社」にサウンドデザイナーおよびソフトウェアエンジニアとして勤務して様々な製品開発や要素技術開発に参加した後、2004年7月よりIAMAS。ブラックボックス化してしまったコンピュータを再度開くべく、コンピュータの中とセンサやアクチュエータを介して現実の世界をつなぐツールキット「Gainer」を仲間と共に開発し、2006年にリリース。その後は、何かをつくるという人々の根源的な欲求を刺激しその楽しさを共有する活動「Makerムーブメント」に参加しつつ、メーカーとユーザーという分断された関係でなく、作り手と使い手という関係に変化させることで豊かな世界を目指したいと考え、その触媒となるべく活動中。



KORG コルグ 手の平サイズ アナログ・シンセサイザー monotron


KORG monotron
可能な限り単純化しパネル上には5つのツマミ、1つのスイッチ、そしてリボン・コントローラーだけを配置したアナログ・シンセサイザー。アナログの太い音が、単4電池2本かつ片手に収まるサイズで出せるとあって人気に。


ROLAND JD-800
ROLAND JD-800
1991年に発売された「名機」と呼ばれる一台。楽器として出音が良かっただけでなく、ほぼ全ての音色パラメーターをスライダーやつまみで瞬時に操作できた。アナログとデジタル、双方の良さを高度に統合しており、当時、八方美人的なシンセサイザーが主流になりつつあった中に一石を投じた。小室哲哉氏が愛用したことでも知られる。





コラボレーションのきっかけは?
「音をつなぐおもしろさはモジュラーシンセがいちばん味わえるんですが、ちょっと敷居が高い。粘土とか積み木みたいに音を直接触って加工して、という感覚が誰でも味わえるようなものができたらいいのにとずっと思っていて。それでアメリカ出張に行くときに『あ、littleBitsさんに相談してみよう!』と。それが2013年の1月のことでした。それからとんとん拍子で話が進み……というのも、littleBitsで商品開発をされているPaul Rothmanさん―Maker Faire Tokyo 2013でも登壇された―は、littleBitsに入社するときからシンセサイザーがつくりたいとおっしゃっていたのだそうで、おかげで最初から非常に具体的かつ熱いやりとりができたんです」(坂巻さん)



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