池袋◆うな達

うなぎだけじゃない地下の小宇宙


 池袋のはずれ、1974(昭和49)年創業の「うな達」の間口には魔窟感が漂
っていた。
 こわごわ地下へ続く細い階段を下りた。
 なんだここは! 本当にうなぎ店か? 店内は低い天井に年季の染みた壁、
難破船の荒縄みたいな背もたれの椅子にコの字のカウンター、水槽ではドジョ
ウが暴れていた。
「いらっしゃ〜い」。シブすぎるアングラは予想外の活気だった。
 棚にずらり並ぶ一升瓶は客のキープボトルで「5本目はお祝い事だからタダ
よ!」と、話す奥さんは真冬でも半袖素足。
 カウンターに座り、金宮3000円を入れた。ドキドキした。うなぎ店で焼酎
一升瓶、あとにも先にも聞いたことがない。
 そのうえ、うなぎセット4本560円の値段を見て、せんべろスイッチが入っ
た。継ぎ足し40年のタレをまとったうなぎは小ぶりだが、柔らかな肉感で慈
悲深い。どことなくうなぎ顔の板さんが2代目らしく、銚子から仕入れる生き
たうなぎをさばく名人だ。


地下に広がる小宇宙。大人数で座れる小上がりもある。


鰻屋の枠を超えたフリーダムな魔窟

 ほろ酔ううちに常連の姉さんと友達になった。将来、自分の料理店を出すの
が夢だというの、乾杯しエールを送った。カップル客には、「ここは都内で類
を見ないうなぎせんべろですよ」とツウぶってささやいた。元来、人見知りの
わしだが、なんせコの字が妙に近いうえ焼酎一升瓶で気が大きくなっていた。
 上機嫌で金宮を3分の1空けたころ、ふと視線を感じた。対角線に座るおじ
さんが、ぎろりとこちらをにらんでいた。
「あんた、せんべろ酒場っつうけど、どんだけ知ってんだい」
 面倒なことになった。
「立ち飲みせんべろ当たり前。座ってせんべろありがたい、うなぎが食え
りゃもう最高。だろ?」
「は、はい」大きくうなずいた。
「でもな、ここのオススメは」
「はい……?」
「カレーライスだ」
 ええ、カレー!?
 2代目を見ると、「そーよ。金曜限定の大人気〜」。ほかにもカキ鍋に焼き魚、
自家製さつま揚げなど超絶多彩な品書きがあった。うなぎ店のこだわり全然な
し!
 人はよく「職人魂」とか言う。「伝統の味を守る」とか言う。そんな枠を突き
抜けたフリーダム。
 うなぎ屋さんのカレーは、おかんの味とインドの風が交互にまぐわう摩訶不
思議なうまさだった。楽しすぎる魔窟。金宮は残り数センチになっていた。


うなぎセット560円。注文は1人1セットまで。


◎お店情報
うなぎセットは、カブト、ヒレ、キモ、一口蒲焼の4本。鍋はいずれも1人前から小鍋で。
ランチタイムは金曜日限定のカレーライスがオススメ。並盛430円から特盛580円まで。基本的に夜は食べられないが、取材日は店のコの字カウンターで行われた某アーティストのPV撮影で提供された〝おあまり〟をいただいた。

◎お品書き
・ビール大瓶 500円
・ホッピーセット 450円
・うなぎ串1本 100円~
・うなぎセット 560円
・うな丼 800円
・寄せ鍋 750円

うな丼はなんと800円!

うな達

住所▼
東京都豊島区東池袋1‐31‐3
電話番号▼
03(3983)0008
営業時間▼
11時30分~13時30分、17時~22時ラストオーダー
定休日▼
日曜・祝日



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2017/10/12更新





きょうは、どの店いこうかなあ。
安くておいしい、でもそれだけじゃない……王道から穴場まで、笑いと涙の酒場探訪。
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さくらいよしえ(さくらい・よしえ)

1973年大阪府生まれ。日大芸術学部卒。著書に『にんげんラブラブ交叉点』(交通新聞社)、『東京★千円で酔える店』(メディアファクトリー)、『今夜も孤独じゃないグルメ』(交通新聞社)、『りばーさいどペヤングばばあ』(小学館)などがある。


河井克夫(かわい・かつお)

1969年愛知県生まれ。漫画家。著書に『日本の実話』(青林工藝社)、『猫と負け犬』(メディアファクトリー)、松尾スズキ氏との共著『お婆ちゃん! それ偶然だろうけどリーゼントになってるよ!!』(実業之日本社)、『ニャ夢ウェイ』(ロッキング・オン)などがある。