小池みき&牧村朝子×山崎ナオコーラトークショー 小池みき 牧村朝子 山崎ナオコーラ 『同居人の美少女がレズビアンだった件。』刊行記念 小池みき&牧村朝子×山崎ナオコーラトークショー この度『同居人の美少女がレズビアンだった件。』刊行記念として、著者の小池みきさん、監修の牧村朝子さん、そして牧村さんが大ファンの、作家の山崎ナオコーラさんをお迎えし、吉祥寺パルコブックセンターにてトークショーが開催されました!  作品のこぼれ話だけでなく、お三人による「ここだけでしか聞けない」話が満載! お越しいただけなかった皆様のために、当日の様子を特別公開いたします。
この度『同居人の美少女がレズビアンだった件。』刊行記念として、著者の小池みきさん、監修の牧村朝子さん、そして牧村さんが大ファンの、作家の山崎ナオコーラさんをお迎えし、吉祥寺パルコブックセンターにてトークショーが開催されました! 作品のこぼれ話だけでなく、お三人による「ここだけでしか聞けない」話が満載! お越しいただけなかった皆様のために、当日の様子を特別公開いたします。


◎「お互いが認め合える社会」は無理だけど……。

小池:『同居人の美少女がレズビアンだった件。』に描いたのは2011年から2012年にかけての出来事なので、もう時系列としては結構前のことなんですよね。この時期から牧村は、今ナオコーラさんがおっしゃったような……言葉でざっくりいうと気持ち悪い感じかもしれないけど、お互いが認め合えるような社会を作ろうと励んできたわけだけど、やってみてその後実際どうだった?

牧村:うーん。やってみた結果「無理じゃん!」って思った。性的指向、性的嗜好、性自認、性別、それぞれの違いに皆が理解を示してくれる社会、っていうのをこのマンガの頃は信じていたし、それを作りたいと考えていたけど、それは無理だなって。今は、「格差」がない状態にできたらいいなと思ってる。

山崎:格差がないというのは?

牧村:例えば、同性愛というのを例に出すと、「私は女の子が好き!」っていう私みたいな人もいれば、「あ、私はそういうのは苦手です。見たくないです」と思っている人もいて、それぞれ考え方は違いますよね。そういう心の中で思っていることを、なるべく「優劣」に結びつけなくていい社会になってほしい。「同性愛を嫌う人って遅れてる、私の方が“上”ね!」とか、「女なのに女が好きなんて変態だから“下”の人間だわ!」とか、そういう考え方を……なくなるとは思わないんだけど、少しでも減らしていけたらいいなって。

山崎:「下」っていうのは、どんな状態なんでしょう?

牧村:「この意見を持つことが社会的に許されない」みたいなことですね。それを言う言わないに関わらず、「同性愛気持ち悪い」と感じているだけで、差別者だとか、社会的に下の人間だとランクづけられてしまうような。私は、どんな意見だろうと、心に抱くこと自体は自由だと思っているんです。だから、どんな意見を持っていても、まず「自分は悪い人だ。こんな意見を持つのはいけないことなんだ」と自分で自分を押さえつけないでほしいんです。

小池:そういう信条を掲げて、今後は何をしていくつもりなの?

牧村:今やっているような、皆さんの前でお話することですね。女なのに女を好きになった、ということにショックを受けていた17年前は、自分がこうやって、吉祥寺の本屋さんで何十人も見て下さってる前で女性と結婚していることを話す日が来る、なんてことはまったく想像できていなかったから。今はまず、こういう場を積み重ねていきたいです。

小池:このマンガを描いた人間としては、このマンガもその積み重ねに加わっていけるといいな、と思う次第であります。で、またマンガの話に戻るんだけど、率直に言ってこれを読んで牧村はどう思った?

牧村:私のことをもっと可愛く描いてほしいって思った(恨)。

小池:えっ。

一同:(笑)

牧村:だってどの顔もへにゃっとしてたり目が点だったりで、森ガばっかりイケメンで、全然私可愛くないじゃん!

山崎:かわいらしいと思いますけど(笑)。

小池:そうだよ! さっき待合室でナオコーラさんに、「牧村さん、みきさんのマンガ絵にそっくりですね」って言われたし!

牧村:(不満顔)。





山崎:このマンガは、みきさんが描きあげてから牧村さんに見せる、という形で作ったんですか?

小池:そうですね。自分が見てきたものと別に、こんなエピソードがあったよ、っていう話を牧村からも教えてもらって、一気に下書き原稿を描いて牧村に送りつけて、直したいところがあれば随時言ってもらう、という流れで……なんでそんなに嬉しそうな顔してるの。

牧村:国際郵便で原稿を送ってくれたな、って思い出してるのよ、ふふ。

小池:そう、フランスまで原稿送ったんだよね。郵便代が高かったわ……。ナオコーラさんは、このマンガを読んで、印象的だなと思ったシーンとかあります?

山崎:115Pの「ピースオブケイク」ですね。牧村さんが『百合のリアル』を書きながらすごく悩まれるところ。言葉の世界を巨大なケーキに例えて、ケーキは切らないとお客様に食べていただけないから、完璧な切り方はないけどできるだけうまく切ろうっていう、そのシーンでなんというか、「うわあ」ってなりました。言葉を扱うっていうのは、まさにそういうことだなって。





小池:マンガではデフォルメして描いていますけど、あの時期はお互い大変だったんですよ。牧村は同性結婚の手続きやなんやでグロッキーになっていたし、私も私でプライベートとかで色々あって。

牧村:差別されて大変だったとかではなく、フランスの役所の人の対応が遅くて大変だった、っていう感じなんだけど(笑)。

小池:まあそれもありつつ、日本から届く、ファンの人たちやファンじゃない人たちからの言葉に神経質になっていたのも私の記憶に残ってる。毎晩のようにスカイプで制作会議をやっていたんですけど、私は編集者として、疲れている彼女に追い打ちをかけるっていう立場でもあって。牧村は全然怒ったりしない人だから不安だったんですよ。でも、いつも最後はみきさんのことを信頼してるから手伝ってね、って言ってくれて、私の方はそれを支えに言葉のケーキ地獄を乗り越えたっていう感覚です。牧村はその辺のこと覚えてる?

牧村:もちろん覚えてるよ。その時本当に辛かったのがね、しつらえたようなエピソードですけど、「いつもブログ読んでます」って言ってくれていた女の子が、「自分がレズビアンであることが辛いから自殺したい」って書いているのを見てしまって……。その時は「私がやってきたことや書いてきたことには何の意味もなかったんだ!」って思ってすごく辛くて。最終的に本も書けたし、その女の子は今もちゃんと生きてくれていて、よかった、本当に。(泣いてる)

小池:それはよかった……ああ、泣いちゃった。マンガにも描いた憶えがあるんですけど、牧村すぐ泣くんですよ。瞬間涙星人なの。

牧村:はるかぜちゃんみたい。

一同:(笑)



◎ 「人のセックスを笑うな」って恥ずかしいタイトル?

小池:時々人からマンガについて、「タイトルを見て、てっきり語り手キャラがレズビアンの美少女と恋愛する話だと思った」って言われるんですよね。確かにこういう、「友達の恋愛」を語る作品って、自分の恋愛を語る作品より珍しいのかなとは思います。ナオコーラさんは、このタイトルとか設定を見てどう思われましたか?

山崎:私はそういう期待というか深読みはしませんでした。でも、友達が描いてるっていうこの構造はすごくいいと思います。多分牧村さんからすると、実感とは違うとか、自分で描くとしたらこうは描かないっていうのはあると思うんですよ。でも、それをあえてもうひとつ外側にいる人が描いているからこそ、さっき言っていた、“うまい切り方”のケーキになっていると思うんです。単なる「食べて欲しいケーキ」じゃなくて、「届けやすいケーキ」になってる。読者が入り込みやすいというか。


牧村:タイトルはとっつきづらいですけどね。この中で、タイトルで買いづらいと思った方いらっしゃいませんか?

お客様:(誰も手を挙げず)

牧村:いない? ほんとに? ツイッターの反応なんかを見て、買いづらい方も多いんだろうなって思っていたんですけど。

小池:これは私が考えたタイトルで、まあ、あえて直球かつラノベっぽい感じでいきたいという意図はありましたね。

山崎:でも、それを言ったら私の『人のセックスを笑うな』っていう本も……。

牧村:もっと上がいたわ(笑)。

山崎:買いづらい、恥ずかしいって感想はよく見聞きしました。申し訳ないなと思いましたよ。

小池:でもやっぱりそのタイトルじゃなきゃっていう作品ですよね。タイトルの由来を教えていただきたいんですけれども。

山崎:私はデビュー前、会社勤めをしながら小説の投稿をしていたんですね。それで、私自身は恋愛苦手だけど小説といえば、やっぱり恋愛小説だ、と思って恋愛の話を書いていた時期にたまたま、本屋さんで同性愛の本を置いているコーナーに立ち寄って。その前でお客さんがくすくす笑っているのを見かけた時にふっと、「人のセックスを笑うな」っていうフレーズが浮かんだんです。全然恋愛とは関係ない言葉だけどなんかキャッチーだな、と思ってその時書いていた小説のタイトルにしました。





牧村:大好きなの、このエピソード。このタイトルに静かに勇気づけられてる人がたくさんいるはずですし、それは同性愛者に限らないと思います。「人のセックスを笑うな」って密かに思っている人が、世の中にはたくさんいると思う。


山崎:ありがとうございます。……牧村さんて、すごく真っすぐに人を見つめるんですね。

牧村:だって好きなんだもん!

小池:ナオコーラさんが「賞を取るなら恋愛小説」と思われたように、やっぱり男女の恋愛を主題としたコンテンツは圧倒的に強いですよね。その状況についてはどう思われますか?

山崎:現実の日本社会にも、コンテンツ市場にも恋愛って溢れていて、それはいい事だと思っています。私自身は恋愛要素の薄い人間ですけど、恋愛小説や映画は子どもの頃から好きでしたし、おばあちゃんになっても楽しんでいきたいなと思っているので。傍観者として好きでいたいというスタンスです。

小池:牧村は、恋愛コンテンツ市場について思う事ある?

牧村:思春期の頃は、男の子と女の子の組み合わせしかないんだ、ってしょんぼりしたことも多かったな。自分もそれに合わせなきゃっていう圧迫感もあった。でも、恋愛はこれからも、色んなコンテンツの主役であり続けるでしょうね。人を好きになって、相手に振り向いてもらうために努力する姿ってキラキラしていてやっぱり物語になりやすいし。それは全然不思議なことでも、嫌なことでもないと思う。

小池:恋愛が「物語」として成立しやすい題材なのは確かですよね。そして自分が恋愛をするかどうかに関わらず、「物語を楽しむこと」は多くの人が求めている経験です。『同居人の美少女~』はそこを切り口にしたいなと思ったところがあって。このマンガって、牧村を語り手兼主人公にすればベーシックな恋愛物語ですよね。ただ、女性同士っていう部分には人によって違う印象があるかもしれない。そこで私という語り手キャラを噛ませることによって、「恋愛物語を眺める人間の物語」としてもうひとつ普遍性を加えたというか……うまい切り方としての一アプローチになればいいなと思ったんです。邪魔になる可能性もあったけど。

牧村:ハンバーグは食べたいけど人参グラッセはいらない、っていう人もいるかもしれないもんね。

小池:そう。まきむぅと森ガの話だけでいいのに、って言われるんじゃないかっていう不安は発売するまでありましたよ。私に描かせたら私の話にもなっちゃうけどいいの? プロの漫画家にお願いした方がいいんじゃね? ってぎりぎりまで牧村に言ってたし。最終的には、彼女の判断で私が描くことになった。……なんでそうしようと思ったの?

牧村:だって、そうしないとあまりにも「自分大好き!」って感じになるから(笑)。それは美しくないし、読む人も楽しくないなって思ったの。

小池:なんで美しくないの?

牧村:「自分レズビアンなんです。珍しいでしょ!こんなふうな恋愛してるんです。皆さん理解してください!」っていう感じになっちゃうもの。あと、この本が出る前にブログの四コマをずっと読んできてくださった方もいるんです。そしてそのときのマンガはみきさんが描いていたわけでしょ。それが書籍化することになりました、じゃあプロの漫画家に描いてもらいますね、ってなったら完全に本を売りたいだけの女って感じじゃない。それは、ブログを読んでくださっていた方が読みたい本じゃないわよね。

小池:なるほど。実際、たくさんの人に手に取ってもらえる本になって、ありがたいよね。




『同居人の美少女がレズビアンだった件。』(イースト・プレス)
33人が同居するシェアハウスにやってきた、とっても可愛い女の子。 彼女の名は牧村朝子、通称「まきむぅ」。職業はタレント。
ある日彼女はこう言った。
「私、早く彼女が欲しいな~」
そう、彼女は「レズビアン」だったのだ。






『太陽がもったいない』(筑摩書房)
山崎ナオコーラさん、待望のエッセイ集です。
舞台は自室のベランダ。そこで起きた、愛情の暴走とは?
ドラゴンフルーツ、除虫菊、バジル、朝顔、ミニトマト、ゴーヤーetc.etc. スズメも毛虫もやってきて、まるでそこは世界のミニチュア。
震災を経て、結婚をして、生と死を見つめた日々を、魅力あふれるイラストとともにつづる、デビュー10周年企画、第一弾です。
ちょっとイジワルだったり、シビアな現実認識が示されたり。
一筋縄ではいかないナオコーラ・ワールドが堪能できるエッセイ集です!






『百合のリアル』(星海社新書)
パリで国際同性婚した著者が語る、「女の子同士」のリアル。

小池みき(こいけ・みき)

フリーライター。2012年、『百合のリアル』(著者:牧村朝子)で星海社ジセダイエディターズ新人賞を受賞。

牧村朝子(まきむら・あさこ)

タレント、文筆家。オフィス彩所属。フランスの法律で国際同性婚、現在東京在住。主な出演に「5時に夢中!」「世界の日本人妻は見た」ほか。
2016年12月より、NHK文化センター青山教室にて、全4回のジェンダー論講座を開講。

山崎ナオコーラ(やまざき・なおこーら)

作家。1978年、福岡県生まれ。
2004年に、会社員をしながら書いた「人のセックスを笑うな」が第41回文藝賞を受賞し、デビュー。
著書に、『指先からソーダ』(河出文庫)、『この世は二人組ではできあがらない』などがある。
目標は、「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。
性別のカテゴライズに、なかなか馴染めない。