人気作『15で少女は、あれになる。』。2/17の単行本発売を記念して
著者の江本晴さんにインタビューを敢行! 意外な作品の原点など
制作秘話大公開です。どうぞお楽しみください!
『15で少女は、あれになる。』単行本発売記念、特別企画
著者インタビュー
著者インタビュー
思春期の少女たちの繊細な心を、SFというジャンルで表現した意欲作『15で少女は、あれになる。』。
今月14日の発売を記念して、著者の江本晴さんにインタビューを敢行!
意外な作品の発想の原点など、知られざる作品の裏側をお届けします。
●はじまりは同人誌、自由に描いてみたかった。
――さっそくですが、まずはこの作品が生まれた経緯をお聞かせください。
江本:もともとこの作品は、同人誌で描いていたものでした。
私は色んな媒体で少女漫画やBL作品を描いてたんですが、2012年にコミティアで同人誌を出そうと思った時に、せっかくだから媒体に縛られないで、もっと自由に何かできないかなと思っていて。
それで、昔から鬼頭莫宏先生の『なるたる』や富沢ひとし先生の『エイリアン9』、この作品のヒントにもさせて頂いた、岩明均先生の『寄生獣』など、宇宙人が出てくるSF漫画が好きだったことから、自分もSFっぽいものを描いてみようかなと。特に戦う女の子を描きたいなと思ったのがはじまりです。
――その時発表したのは?
江本:『thoughtful』という左手にエイリアンを寄生させている女の子2人の百合モノでした。これが『15で少女は、あれになる。』の原点となる作品です。
その次に、その翌年の2013年5月のコミティアで『もうすぐあれになる』というタイトルで「タナの場合」「梨花の場合」を1冊にして発表しました。
『thoughtful』2012年個人誌より
――タイトルを変えて別の作品にしたのはなぜでしょう?
江本:そもそも『thoughtful』と『もうすぐあれになる』は、話を作る時のコンセプトが違うものだったので。設定自体はほとんど同じなのですが。
――それは、どういう風に違うものだったのでしょう?
江本:最初に描いたのは「タナの場合」なんですが。ある時友人と、なぜ男性の場合「オナニーが見つかった!」という場面が笑い話になるのに、女性の場合はみじめというか…悲劇的な感じになってしまうのか、という話になって、そのことが気になっていたんです。それで「女の子がオナニーを見つかるけど、悲劇的にならない話が作れないかな」って思ったんです。そのあと「梨花の場合」はそのまま「タナの場合」の流れで描きたいものを描きました。
――まさか、オナニーから着想を得ていたとは(笑)。
江本:そうなんです(笑)。タナ自身はすごく真剣に悩んでますし、わりと暗めなお話なんですけど、読んだ方には、ちょっと笑ってもらえたら、本来の目的が達成できた感じがします。コミティアで、この作品を見つけてくださったある書店員さんが、「あらすじだけ聞いたらギャグなんだけど、いい話なんだよね。」と言ってくださったのが、とても嬉しかったです。
「タナの場合」単行本P.39より
――それで、男女の自慰発見問題の原因については解明できたんでしょうか?
江本:それはまだ解明できてません(笑)。
――でも“オナニーが見つかった女の子の話”を描こうと思って、なんでそこにエイリアン、SFの要素が出てくるのか見当もつかないのですが、そのあたりお聞かせください。
江本:まず『thoughtful』が自分で描いていて楽しかったので、その世界を使って描きたいというのがありました。
それにSFって“ウソ”が入ることで、すごく残酷なこともわりと、ワンクッションおいて見られるというか、悲惨さが緩和されるところがあると思っていたので、そこも合致するかなと。
●舞台はSF、少女は戦うけれど…。
――『15で少女は、あれになる。』全編を通して共通することだと思うのですが、舞台設定はSFなのに描かれているテーマは“少女たちの内面”ですよね。少女たちが戦うシーンは出てきますが、メインテーマはそこではない。
江本:はい。この作品では戦う少女を描きたかったんですけど、思春期の女の子たちにとってリアリティのある“敵”って“世界規模の何か”ではなくて、自分たちの“半径3mくらいの何か”なんじゃないかなと思うんです。エイリアンが来るかもしれない恐怖より、好きな人に切りすぎた前髪を見られる方が怖い、みたいな。タナなんてまさに「股間から生えちゃった、どうしよう!」ですし。そういう身近なところでの戦い、要するに個人の悩みや苦悩を描こうと思いました。そんな甘酸っぱく一生懸命生きる思春期の女の子って可愛いなぁ、って。そういう女の子の姿が個人的にはキュンとするんですよね!
「さえのの場合」単行本P.81より
――『15で少女は、あれになる。』は江本さんの今までの作品と少し雰囲気の違う作品になった印象ですが、ご自身では何か意識されたことはありますか?
江本:自分では意識はしていなかったですし、違いも感じていないです。というのも登場人物それぞれの考え方などの違いはあっても、心の動きを描くという部分では今まで描いてきたものと同じなので。違うのはジャンルに縛られずに、のびのび描いたことくらいです。だから逆に「今までと違う」と言って頂くと、「あ、そうなんだ」と思う感じです。
――江本さんは今まで女性向けの作品を描いているイメージが強いですが、この作品は男性も楽しめるというところでは、違うような気がしますが。
江本:そこも全然意識はしていないです。でも実はコミティアに出した当時は、少し自分の作品に行き詰まりのようなものを感じていた時期で。それをなんとか打破したいなというのがあり、自分にどんなものが描けるんだろう、とか自分の持ち味ってなんだろうとか。
なので、今まで読んだことのない方にも読んで頂けるのは嬉しいです。
●同人誌と商業誌、その違いは?
――『15で少女は、あれになる。』は「梨花の場合」「タナの場合」が同人誌からの収録、「さえのの場合」「まゆの場合」が新たに描いて頂いたものですが、同人と商業で違いはありましたか?
江本:やっぱりSFって難しいって思いました(笑)。ひとつの世界を作るのって、こんなに色々考えないといけないんだなぁと痛感しました。でも基本的に思春期の女の子たちの心情を描くという根底は同じなので、そこまで大きい違いもなかったような…、さっきの答えとかぶっちゃいますね。え~と、梨花もタナも話として少し暗いかなと思っていたので、さえののように明るい話が描けたのはよかったです。
自分の中では、どの女の子もそれぞれ自分なりに一生懸命思春期を生きていて、全員可愛いです! 違いはやっぱりあまりないですね。
――描く上で苦労はなかったですか?
江本:同人誌の方は本当に好き勝手描いていたので、特に苦労はなかったです。「さえのの場合」と「タナの場合」は同人誌と違って、ちゃんとページ数を考えながら描かなくちゃ。くらいですかね…。 あとは体調不良でしばらく描けない時期があったので、それが申し訳ないというか…ご迷惑おかけしてしまったので、こうやって本にできたのは感謝しています。
――「まゆの場合」に関しては結構悩まれていた印象でしたが、そうでもなかったですか?
江本:言われてみれば! 実は「さえのの場合」より先に考えていたお話だったのに、結局一番最後になってしまったんですよね。これはストーリーというか、テーマには関係のない“どうすれば援助交際について正しく扱えるのか”みたいなことでなぜか悩んだんですよね。
「まゆの場合」単行本P.123より
――たしかに、そんなことおっしゃっていた気がします。結局話には直接関係ないということで、作品にとって一番良いかたちで扱ったんですよね。ちなみにその問題は結論は出たんでしたっけ?
江本:この問題も出てないですね。出てないですが、いつか別の作品を描くときにしっかり解決してみたいと思います。そんなところで悩んだことを含めて、本当に自由に描かせて頂いたので、楽しかったです!
――それはよかったです。これからどんな作品を描いてみたいですか?
江本:『15で少女は、あれになる。』は、思春期ならではの心のゆらぎを描きました。そういうゆらぎって大人でもまだ残っていると思うので、そのへんを刺激するようなお話というのはこれからも描いていきたいです。今思春期まっさかりの10代から、大人まで面白がってもらえるような作品を作れたらと思っています。
――最後に、読者のみなさんに一言頂けますか?
江本:『15で少女は、あれになる。』は戦う女の子のお話です。読者のみなさんも少女たちがゆらゆらしながらも一生懸命に生きる姿を、楽しんで頂けたら嬉しいです。
――今日はありがとうございました。
『15で少女は、あれになる。』単行本にはマトグロッソで未公開の「後日談」も収録しています。発売をどうぞお楽しみに!
(了)
◎単行本2/17発売!◎
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15で少女は、あれになる。
イースト・プレス 刊/740円+税 |
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2017/02/09更新