犬田虹が殺されるちょうど一週間前、虹の彼女も亡くなっていた……。
新たな事実を得て、元ヤンキー刑事・大神と助手の汽子は関係者のもとへと走った。
こども作家キリカ(9才)の初ミステリー「大神刑事の事件簿」、第1話≪解決編≫!
シリーズ第1話
ワイン、とうぶから出けつ、殺人事件(後編)
とりあえず、犬田虹(いぬたこう)が殺された現場へ向かった。
「とうぶからの……出けつと見てまちがいはなさそうだな」
死体の近くにはワイングラスの破片とワインがこぼれてできた”しみ”らしき物があった。そのしみから、1メートルはなれたテーブルの上には……
「名ソムリエ……全集……?」
たしかにそう書いてある、3000ページはある一冊の本を見つけた。適当に、ペラペラとめくった。あるページにしおりがはさんであった。
「犬田、虹……」
とともに書かれていた名前は、竹井きりん、ぞう山太郎だ。
まず、竹井きりんの家を訪ねた。
「はい?」
「警察、とくしゅそうさかの者ですが」
「け、けいさつ!?」
「犬田虹が殺されました」
「え?」
「その事でお話をうかがいたいのですが」
「ど、どうぞ……」
犬田虹とのかんけいや、犬田虹をうらんでいた人などを聞いてみた。
「そんな。あんないい方をうらむ人なんて」
「そこをなんとか」
「あ!」
「え?」
「ぞう山太郎!」
「あいつ、犬田虹の彼女を、犬田虹より前に好きだったのに、犬田虹にとられてねたんでました」
「それはたしかですか?」
「え、ええ。あいつ好きな人をストーカーしてつかまった事もあります」
その情報も気になるが……。
「犬田虹とのかんけいは?」
「はじめて会ったのは、ぼくがまだ入社して、間もないころです。そんなぼくと同じで、気があって、ぼくに話しかけてくれました」
「それ以来仲良くなったと」
「はい」
「いつごろ出会ったんですか」
「3年前くらい……です」
3年……か。きみょうに長い時間。その間になにがあったのか。
「うーん」
「どうなんですかね。大神刑事」
こいつは助手の犬野汽子(いぬのきこ)。
「私、まずぞう山さんのお家へ行った方がいいかと……って、えー! まって下さい! 大神刑事!」
ちっ! 言われなくてもわかってるっつーの。
ピンポンピポンピポンピーンポーン
「るすか?」
ガチャ
「ひぃぃぃ。け、警察手帳を」
「ハイ」
俺は言われるがままに見せた。
「ど、どうぞ」
俺は話をした。
「じつは」
すると、
「わ、わたしは殺してません。犬田を殺して……」
「警察は証拠もなしにうたがいませんよ。……証拠がなければね……」
そのようなことを言うと……。
「ご、ごめんなさい。ぼ、ぼくが殺しました」
俺は、ゆっくり言った。
「どうして犬田を殺したんですか。どうきは?」
「え? 犬田なんか殺していません。私が殺したのは、犬田の彼女、宇佐野梓(うさのあずさ)ちゃんです」
俺は驚いた。が、あせらず言った。
「どうして」
「ある日、梓ちゃんを、あのその、モガモガ、ス、ストーカーしていたんです。そうしたらばれて『警察をよびますよ』というんです。だから、しかたなく……。殺すつもりは……」
はぁ。と思う。そして言った。
「梓さんはあなたが逃げたとき、かすかに生きていました」
「え?」
「あなたが逃げずにきゅうきゅう車をよんでいれば、彼女はたすかったかもしれない」
「そ、そんなぁ。な、ならばぼくがたすけていれば、あの子は……。うわーん」
はぁ。好きすぎて、殺してしまうなんて。
それはそうと、”犬田”の命をうばってしまったやつはいったい。新たな犯人はだれなのか……。
大神刑事は、あるぎもんをかかえていた。宇佐野梓と犬田虹の事件はかかわりがあるのか、と。そう考えているうちにひとつの考えがうかんだ。
「まさか……」
彼女のいそうなところは……。
宇佐野梓のうち!
――――バァン!!!――――
そこには、宇佐野梓の妹がクビにナイフを当てて……。
「やめろぉーっ!!」
――――ザクッ――――
ナイフはかべにささった。彼女は大粒の涙をうかべながら言った。
「どうしてですか? わ、わたしは」
「俺は――」
「?」
「おまえが犬田を殺したのはわかってる」
「じゃあなおさら……」
「死ぬなよ!!」
「はっ!」
「おメーは梓のために犬田を殺したんだろ!!?」
うなずいてはないが、涙でわかる。
「だったら死ぬな!! おまえの姉はおまえが死んでうれしいのかよ!!!」
そう言ったしゅんかん、われにかえったようにじべたにすわりこみさけんだ。
「うえーん」
それから時間がたち、
「刑事さん」そう言い、手をさしだした。
――――こうして事件のまくはとじた。
犬田が梓を殺したとかんちがいし、ふくしゅうのため殺した。凶器にワインをつかったのは、犬田がソムリエだからだ。
こうしてすべてがおわった――――。
かんちがいから生まれる殺人。まったく、人ってどうかしてるぜ。
―シリーズ第1話・完―
2013/10/17 更新